Production I.G 石川いしかわ光久みつひさ（代表だいひょう取締役とりしまりやく会長かいちょう）

取材しゅざい / カニミソ 文ぶん / はるのおと 撮影さつえい / 武田たけだ真和まさかず

若わかい才能さいのうが集たかった「赤あかい光ひかり弾だんジリオン」がきっかけに

Production I.Gが現在げんざいの姿すがたに至いたるまでには多おおくの紆余曲折うよきょくせつがある。その原型げんけいとなったのは、1987年ねん12月に設立せつりつされたアイジー・タツノコだ。創業そうぎょう者しゃの石川いしかわ氏しはタツノコプロ出身しゅっしんで、「黄金おうごん戦士せんしゴールドライタン」「未来みらい警察けいさつウラシマン」などに制作せいさくとして携たずさわっていた。

「1987年ねんって世間せけん的てきにはバブリーでしたけど、アニメ業界ぎょうかいにとっては新あたらしいアニメを作つくるのが難むずかしい時代じだいだったんです。特とくにどんなものになるかわからないオリジナルは厳いかめしかった。だから若わかい才能さいのうが暴あばれられるような場所ばしょがあまりなかったんです。

そんな時代じだいに有限ゆうげん会社かいしゃアイジー・タツノコを作つくったのは、竜りゅうの子こ制作せいさく分室ぶんしつが制作せいさくした『赤あかい光ひかり弾だんジリオン』というアニメが大おおきなきっかけです。僕ぼくは当時とうじすでにタツノコプロを辞やめて、最後さいごのご恩返おんがえしと思おもい、フリーのプロデューサーとしてこの作品さくひんに参加さんかしていました。『ジリオン』には20代だいを中心ちゅうしんとした、優秀ゆうしゅうなクリエイターが集あつまっていたんです。それこそ従来じゅうらいのTVシリーズの枠わくでは収おさまらないようなエンジンを持もっている人ひとがたくさん。

それで、『ジリオン』が終おわったからチームも解散かいさんしてもよかったんですけど、『まだこのメンツで一緒いっしょに働はたらきたい』という空気くうきもみんなから感かんじられたので、アイジー・タツノコを立たち上あげたんです」

社名しゃめいに付つけられたアイジーは、創業そうぎょう時じの主要しゅようメンバーの頭文字かしらもじから取とられている。石川いしかわ氏しの“I（アイ）”、そして「赤あかい光ひかり弾だんジリオン」のキャラクターデザイナーである後藤ごとう隆幸たかゆき氏しの“G（ジー）”だ。

「当時とうじ、後藤ごとうはスタジオ鐘がね夢ゆめ（チャイム）という作画さくがスタジオを作つくって活動かつどうしていました。でも『アニメーター集団しゅうだんをまとめてやっていくのは難むずかしい。自分じぶんは絵描えかきなので、経営けいえい面めんは石川いしかわに任まかせて絵えに専念せんねんしたい』と言いう。そういうことならと、プロデューサーの僕ぼくとアニメーターの後藤ごとうの2人ふたりを中心ちゅうしんとした会社かいしゃを作つくったんです。

後藤ごとうは人柄ひとがらも真面目まじめで、規則正きそくただしくスケジュールもしっかり守まもってくれる。会社かいしゃとしては、感謝かんしゃしてもしきれないくらいコンスタントに仕事しごとをしてくれました。少すこしして大阪おおさかでアニメーターをしていた黄瀬きのせ和哉かずやが上京じょうきょうして一緒いっしょに働はたらいてくれることになりました。黄瀬きのせは社会しゃかい人じんとしてはまったく褒ほめられたもんじゃない（笑）。でも男気おとこぎがあるというか……例たとえば内容ないようが重おもくてスケジュールもほぼ余裕よゆうがない、100人にん頼たのんだら100人にん断ことわるような仕事しごとを引ひき受うけてものすごいクオリティで上あげてくれたりする。そうかと思おもえば納期のうきギリギリまで本当ほんとうに何なにもしない、ハラハラしていると最後さいごの1カ月かげつで1年ねん分ぶんの仕事しごとを終おわらせちゃう。0か100しかない黄瀬きのせと、しっかり者しゃの後藤ごとう。そんな対極たいきょく的てきな2人ふたりがツートップとして同時どうじにいてくれたことは、特とくに初期しょきのアイジーにとってはとても大おおきかったと思おもいます」

「攻殻機動隊こうかくきどうたい」シリーズでアニメ制作せいさく会社かいしゃ未踏みとうのビジネス領域りょういきへ

こうしてスタートした“アイジー・タツノコ”は、1993年ねんにプロダクション・アイジー（以下いか I.G）へ社名しゃめいを変更へんこうする。その2年ねん後ごの1995年ねん、世よに送おくり出だされた劇場げきじょうアニメ「GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊こうかくきどうたい」を、石川いしかわ氏しは同社どうしゃにとって最大さいだいの転換てんかん点てんだったと振ふり返かえる。

「『攻殻機動隊こうかくきどうたい』シリーズは、会社かいしゃが下請したうけから脱皮だっぴできたという点てんで大おおきなターニングポイントとなりました。今いまで言いうアニメの製作せいさく委員いいん会かい的てきなものって昔むかしからありましたけど、それを組成そせいするのはメーカーやTV局きょく、代理だいり店てんで、アニメ制作せいさく会社かいしゃは委員いいん会かいが立たち上あがったところに後ごから入はいる形かたちだった。でも『攻殻機動隊こうかくきどうたい』シリーズではまずうちが主体しゅたいとなって原作げんさく出版しゅっぱん社しゃである講談社こうだんしゃさんと話はなしをして、アニメのTVシリーズと映画えいが、そしてゲームの3形態けいたいの許諾きょだくをもらったんです。それが決きまってから製作せいさく委員いいん会かいを組成そせいしたので、下請したうけではない立場たちばで主体しゅたい的てきに作品さくひん作づくりに参加さんかできました。

そうして委員いいん会かいを作つくって、集あつまった資金しきんが45億おく円えんくらい。なかなかアニメ作品さくひんで、しかも制作せいさく会社かいしゃが集あつめられる金額きんがくではないです。もちろん自分じぶん1人にんの力ちからで集あつめたというわけではありません。『攻殻機動隊こうかくきどうたい』という原作げんさくコミックの持もつ力ちから、押井おしい守まもる監督かんとくという人ひとの力ちから、そして賛同さんどうしてくれたメーカー、TV局きょく、ゲーム会社かいしゃなどいろんな人ひとの協力きょうりょくのおかげで集あつまったお金かねです。でも、それまでいろんなアニメ制作せいさく会社かいしゃがビジネスの枠組わくぐみとして遠慮えんりょしていた領域りょういきに、I.Gは『攻殻機動隊こうかくきどうたい』で踏ふみ込こむことができたのではないでしょうか」

こうしたビジネス面めんでの取とり組くみを、I.Gは早はやくから行いっていた。1990年ねんには株式会社かぶしきがいしゃイングを設立せつりつ。同社どうしゃはアニメの企画きかく・製作せいさくをするための会社かいしゃだった。

「アニメ業界ぎょうかいは下請したうけで映像えいぞう制作せいさくをしていてもなかなか利益りえきが出でないんですよ。本当ほんとうに厳きびしい。だからアニメの制作せいさく費ひだけでなく、その周辺しゅうへんの版権はんけん収入しゅうにゅうである程度ていど収入しゅうにゅうを得えようと考かんがえ、そのために立たち上あげたのがイングでした。僕ぼくはタツノコプロ時代じだいに同社どうしゃオリジナル作品さくひんの権利けんり運用うんようで収益しゅうえきをあげていたのを目めにしていたので、それをやろうと思おもったんですね。

ただ、アニメ制作せいさく会社かいしゃが版権はんけんだマーチャンダイジングだなんて言いうと、すでにその領域りょういきで仕事しごとをしている会社かいしゃさんからすれば『自分じぶんたちの畑はたけを荒あらすんじゃないか？』というふうに取とられるでしょう。だからできるだけ目立めだたないよう、イングという、I.Gと関係かんけいない社名しゃめいにしました。本当ほんとうにたまたま、外出がいしゅつ先さきからの帰かえりの電車でんしゃでふっと外そとを見みたときに『イング進学しんがく塾じゅく』という看板かんばんが目めに入はいったんです。現在げんざい進行しんこう系けいの『ing』。これはいいなと思おもい、名前なまえをいただきました。

そんな会社かいしゃなので、イングはあまり知しられていないし、なんならI.G社内しゃないのスタッフだってあまり知しらなかったと思おもいます（笑）。I.Gというブランドを有名ゆうめいにする一方いっぽうで、イングは契約けいやくやお金かねに関かんするバックヤードを担になう会社かいしゃとして機能きのうさせていました。『ぼくの地球ちきゅうを守まもって』や『機動きどう警察けいさつパトレイバー 2 the Movie』といった自社じしゃの勝負しょうぶ作品さくひんに関かんしてはイング名義めいぎで出資しゅっししていました。I.G制作せいさくではない、他社たしゃ作品さくひんで唯一ゆいいつ出資しゅっししたのが『新しん世紀せいきエヴァンゲリオン』でしたが、この作品さくひんに出資しゅっしできたのもとても大おおきかったです」

目立めだつべきはアニメの制作せいさく者しゃ、ビジネスは影かげで

この株式会社かぶしきがいしゃイングと株式会社かぶしきがいしゃプロダクション・アイジーは2000年ねんに合併がっぺい、株式会社かぶしきがいしゃプロダクション・アイジーとなり、2007年ねんには株式会社かぶしきがいしゃIGポートと商号しょうごうを変更へんこうしつつ、同時どうじに株式会社かぶしきがいしゃプロダクション・アイジー名義めいぎの子会社こがいしゃを新設しんせつ。こうした複雑ふくざつな変遷へんせんがありながらも、石川いしかわ氏しの作品さくひん作づくりとビジネスに対たいするスタンスはイング時代じだいと変かわらなかった。

「2005年ねんに株式会社かぶしきがいしゃプロダクション・アイジーはジャスダック証券しょうけん取引とりひき所しょに株式かぶしきを上場じょうじょうしました。設立せつりつ当初とうしょは上場じょうじょうなんて一切いっさい考かんがえていませんでしたけど。でも、ただの制作せいさく会社かいしゃに留とまらないビジネス領域りょういきに入はいったものの、アニメ制作せいさく会社かいしゃはまだまだ世間せけん的てきに知しられていないし、あまり信頼しんらいされていないと感かんじてもいました。それで上場じょうじょうしてもちゃんとやっていけるというのを示しめしたかったんでしょうね、今いまから振ふり返かえると。

その後ご、IGポートとして上場じょうじょう維持いじしていますが、やっぱりあまり知しられていません。自分じぶんもIGポートの名刺めいしを配くばることは年としに1、2回かいあるかどうかくらいです。上場じょうじょうしたら名前なまえをバンバン出だしたり、◯◯ホールディングスとか言いってグループ会社かいしゃを含ふくめて大おおきく見みせたりするほうがいいのかもしれません。ただ、株主かぶぬしの方ほうには失礼しつれいにあたるのかもしれませんが、IGポートとしては、やはりグループ会社かいしゃのI.GやWIT STUDIO、SIGNAL.MDなどの制作せいさく現場げんばでアニメを作つくっている人ひとたちに目立めだってほしい。だからビジネスをする人ひとはあくまでバックヤードで働はたらく裏方うらかた。それがうちのスタイルなんです」

株式会社かぶしきがいしゃIGポートはアニメ制作せいさく以外いがいの事業じぎょうを拡大かくだいする中なかで、2007年ねんには株式会社かぶしきがいしゃマッグガーデンを子会社こがいしゃする。マッグガーデンは当時とうじ月刊げっかんコミックブレイドを発行はっこうしていたコミック専せん門もんの出版しゅっぱん社しゃだった。

「アニメというと、集英社しゅうえいしゃ、講談社こうだんしゃ、小学館しょうがくかん、KADOKAWAといった大手おおて出版しゅっぱん社しゃから出版しゅっぱんされている原作げんさくマンガの映像えいぞう化かの許諾きょだくを得えて、人気にんきマンガをアニメとして届とどけるというのが大おおきな流ながれでした。それもあってか、どんな大手おおてスタジオも出版しゅっぱん社しゃを作つくるとか抱かかえるといった考かんがえはなかったように思おもいます。大手おおて出版しゅっぱん社しゃと対立たいりつするようなことはしたくないからなのかもしれません。その点てん、マッグガーデンという出版しゅっぱん社しゃは魅力みりょく的てきな作品さくひんが揃そろっていて、ほかの出版しゅっぱん社しゃさんと敵対てきたいするほどの規模きぼ感かんでもなく、グループに入はいっていただくには最適さいてきな出版しゅっぱん社しゃだったんです。

グループの1社しゃとして仲間なかまになりましたが、だからといってマッグガーデンの作品さくひんならなんでもかんでもI.GやWIT、SIGNALがアニメ化かするというのも違ちがうなと思おもっていました。あくまで作品さくひん本位ほんいで、『この作品さくひんを制作せいさく現場げんばが作つくりたがっている』『この作品さくひんなら制作せいさく現場げんばの持もつ力ちからを発揮はっきできるんじゃないか』というものだけアニメにする方針ほうしんでした。結果けっか的てきにはWITが制作せいさくした『魔法使まほうつかいの嫁よめ』（Season1）を始はじめ、グループ会社かいしゃでいくつかマッグガーデン原作げんさくの作品さくひんをアニメ化かしているのでグループシナジーは生うまれたと思おもいます」