「時光代理人 -LINK CLICK-」を「いきもの図鑑」シリーズのぬまがさワタリが“アニメの次の10年”を指し示す作品と太鼓判

1がつより放送ほうそうされている「どきこう代理人だいりにん -LINK CLICK-」は、「撮影さつえいしゃ意識いしきにリンクし、写真しゃしん世界せかいはいることができる能力のうりょく」をつトキ/ほどしょう(チョン・シャオシー)と、「その写真しゃしん撮影さつえい12あいだ出来事できごと把握はあくできる能力のうりょく」をつヒカル/りくひかり(ルー・グアン)がコンビをみ、2人ふたりいとな写真しゃしんかん依頼いらい解決かいけつしていくタイムサスペンス・アニメーション。2021ねんにbilibiliで配信はいしんされた中国ちゅうごくアニメの日本語にほんご吹替ばんで、中国ちゅうごくでは配信はいしん開始かいしからわずか4カ月かげつそう再生さいせい回数かいすうが1.6おくかい突破とっぱするなど話題わだいあつめていた。

コミックナタリーでは日本語にほんご吹替ばんどきこう代理人だいりにん -LINK CLICK-」の最終さいしゅうかいまえに、どうさく特集とくしゅうを2かいにわたって展開てんかいだい1だんとして動物どうぶつ生態せいたい時事じじネタやパロディをんでえがく「いきもの図鑑ずかん」シリーズのぬまがさワタリに出演しゅつえんしてもらった。実写じっしゃ・アニメにわずさまざまな映画えいが感想かんそうをSNSに投稿とうこうしているぬまがさは、「どきこう代理人だいりにん」はやさしく、うつくしい精神せいしんつらぬかれた、“アニメのつぎの10ねん”をしめ作品さくひんだとかたる。その真意しんいとはどんなものなのか。

取材しゅざいぶん / はるのおと

どきこう代理人だいりにん -LINK CLICK-」1批評ひひょうせいつよ

──ぬまがささんは実写じっしゃ、アニメをわず映画えいが感想かんそうをTwitterやブログで発信はっしんされていますが、海外かいがい作品さくひん積極せっきょくてきられている印象いんしょうがあります。アニメも、海外かいがい作品さくひんのほうがきなのでしょうか?

もちろん日本にっぽん作品さくひんきなものもありますが、どちらかとうと海外かいがいのアニメがきです。毎年まいとし自分じぶん年間ねんかんベスト10をイラストきで発表はっぴょうしていますが、やはり海外かいがいアニメ映画えいがおおくなりがちですね。アメリカはもちろんのこと、ヨーロッパやアジアけんのアニメシーンもどんどんいきおいをしていて注目ちゅうもくしています。中国ちゅうごくのアニメ映画えいがも「小黒おぐろ戦記せんき」にハマって以降いこう積極せっきょくてきています。「小黒おぐろ戦記せんき」は絵柄えがら演出えんしゅつなど、日本にっぽんのアニメファンてきにもすごくとっつきやすいですね。

──「小黒おぐろ戦記せんき」の原作げんさく監督かんとくつとめたMTJJさんも、日本にっぽんのアニメから影響えいきょうけたと公言こうげんしているそうです。「どきこう代理人だいりにん」はどういったきっかけではじめたんでしょう?

小黒おぐろ戦記せんき以降いこう中国ちゅうごくアニメ作品さくひん注目ちゅうもくしていたというのもあり、放送ほうそうはじまるとってPVをたんです。すると写真しゃしんに“ダイブ”するというギミックとそれにまつわる3つのルール(※)が提示ていじされて、どんなことがこるのかなとハラハラさせられる内容ないようだったので興味きょうみちました。それで1たところ、たんなる時間じかんあつかったサスペンス以上いじょう意義いぎがしっかりとある作品さくひんだった。具体ぐたいてきには、現代げんだい社会しゃかいのいろいろな問題もんだいたいする批評ひひょうせいがあり、しかもその眼差まなざしの物語ものがたりへの接続せつぞく仕方しかたがすごく上手じょうずなことに感心かんしんしたんです。

※「どきこう代理人だいりにん」では「タイムリミットは12あいだ」「指示しじしたがうこと。絶対ぜったいなに改変かいへんするな」「過去かこうな。未来みらいくな」というルールのもと、トキが写真しゃしん世界せかいに“ダイブ”し、撮影さつえいしゃ精神せいしんうつることになる。

──1のどのあたりにその批評ひひょうせいかんじましたか?

わかりやすいところでは、まずトキがうつった対象たいしょうであるエマが職場しょくばけるパワハラやセクハラのえがかたに「おお」となりました。こうした問題もんだい現実げんじつたしかに存在そんざいするにもかかわらず、アニメで正面しょうめんから“わるいもの”としてげられることは意外いがいめずらしいですよね。なぜめずらしいかといえば、視聴しちょうしゃつくしゅも「アニメは現実げんじつはなされた娯楽ごらく」だとかんがえがちで、(性差せいさべつなどもからむ)現実げんじつ問題もんだいをアニメにむことをける傾向けいこうにあるからなのかもしれません。しかしほんさくはあえてそこにむことで、身近みぢか現実げんじつ社会しゃかい地続じつづきなサスペンスをんでいます。「どきこう代理人だいりにん」はジェンダー関連かんれん描写びょうしゃ絶妙ぜつみょうです。1でトキはわか女性じょせいうつって、最初さいしょこそテンプレな「女性じょせいぞう」をえんじたり、ふざけるようないもしていたけど、実際じっさいにパワハラやセクハラをけることで、現実げんじつ女性じょせい日々ひびかんじるような「ウゲェ……」なくるしみをあじわうことに。上司じょうしにキスをせまられる場面ばめん気持きもあくさったらありませんよね! 男性だんせい普通ふつうきていると想像そうぞうしづらい、「職場しょくば上司じょうし無理むりせまられる」不快ふかいさとこわさを、男性だんせいのトキが女性じょせいで「つい体験たいけんする」という、つよ印象いんしょうのこ場面ばめんでした。

だい1「エマ」

大手おおてゲーム会社かいしゃすずめとく(チュエダー)ゲームの財務ざいむデータを入手にゅうしゅせよという依頼いらいけたトキは、CFOの助手じょしゅ・エマの精神せいしんうつり、その機会きかいをうかがうことに。そんなエマは過酷かこく残業ざんぎょうとパワハラに直面ちょくめんしつらい日々ひびおくっていた。ヒカルの指示しじどおりに任務にんむをこなすトキだったが、その感情かんじょう徐々じょじょにエマのしん記憶きおくにリンクしていく。

第1話より。左からリン、トキ、ヒカル。トキとヒカルが経営する時光写真館に、クライアントの窓口を務めるリンが、さまざまな依頼を持ち込む。

だい1より。ひだりからリン、トキ、ヒカル。トキとヒカルが経営けいえいするときひかり写真しゃしんかんに、クライアントの窓口まどぐちつとめるリンが、さまざまな依頼いらいむ。

第1話より。エマの精神に乗り移ったトキは、彼女が務める会社のCFOから迫られることになる。

だい1より。エマの精神せいしんうつったトキは、彼女かのじょつとめる会社かいしゃのCFOからせまられることになる。

──1でほかに印象いんしょうてき場面ばめんはありますか?

エマにうつったトキがくるしんでいるときに、ヒカルが“”する演出えんしゅつです。そのときのトキは“ガワ”こそ女性じょせいですが、中身なかみ男性だんせいなので、実質じっしつてきには男性だんせい同士どうししてる場面ばめんっていう。性別せいべつ撹乱かくらんするような面白おもしろさもありながら、男性だんせいバディものではあまりたことがないほどやさしい親密しんみつさもかんじさせて、かなしくもあたたかみのあるわすれがたい場面ばめんでした。

第1話より。徐々にエマの心と記憶にリンクし彼女の悩みを理解していくトキ。“ダイブ”中のトキと意思疎通できるヒカルが、苦しむトキに場所や時間を超えて寄り添うように話す様子が演出で描かれている。

だい1より。徐々じょじょにエマのしん記憶きおくにリンクし彼女かのじょなやみを理解りかいしていくトキ。“ダイブ”ちゅうのトキと意思いし疎通そつうできるヒカルが、くるしむトキに場所ばしょ時間じかんえてうようにはな様子ようす演出えんしゅつえがかれている。

bilibiliオリジナルだからこそまれた無駄むだのなさ

──おっしゃるとおり「どきこう代理人だいりにん」には批評ひひょうてき眼差まなざしをかんじます。そういった批評ひひょうせいを、完成かんせいたかいヒューマンドラマのなかにうまくぜていますよね。

本当ほんとうにそうです。ヒューマンドラマの部分ぶぶんについていうと、1あたり20ふん程度ていどみじかしゃくなかこまかい描写びょうしゃかさねて「このキャラクターはこういうひとだ」「こういう後悔こうかいかかえているんだ」みたいなことをわかりやすく提示ていじしていて。最後さいごかなしくわることもあるけど、なにかしら解決かいけつなぐさめをるというかたちになっていて毎回まいかい満足まんぞくできる。批評ひひょうてき部分ぶぶんもドラマてき部分ぶぶんんでいるのに、わかりやすくて無駄むだがないんですよ。

第1話より。都会で深夜まで働く娘を心配する母からの連絡に、涙を浮かべるトキ。

だい1より。都会とかい深夜しんやまではたらむすめ心配しんぱいするははからの連絡れんらくに、なみだかべるトキ。

──無駄むだがないというのは、ほんさくがbilibiliの配信はいしんアニメであり、TVアニメとちがってまったしゃくがないことの影響えいきょうがあるかもしれません。時間じかんてきしばりがゆるいため、物語ものがたり必要ひつよう部分ぶぶん取捨選択しゅしゃせんたくしてまとめられるので。

どういうわくのための作品さくひんであるかによって、シナリオのつくかた根本こんぽんてきわってくるんでしょうね。

(アニプレックス担当たんとうしゃ) すこ補足ほそくすると、bilibiliのオリジナルばんかくはなしごとに本編ほんぺん時間じかんことなるので、現在げんざい放送ほうそうちゅうのものは日本にっぽんようしゃく調整ちょうせいをしています。たとえば5はそのままだと日本にっぽんの30ふんアニメわくにはおさまらないのですこしカットされていたり、ぎゃくみじかはなし冒頭ぼうとうにキャラクター紹介しょうかいやしたり。

──ありがとうございます。1はなしもどすと、ラストの展開てんかい印象いんしょうてきでした。エマにまつわる問題もんだい解決かいけつしたとおもいきや……。

終盤しゅうばんにエマがおやとの関係かんけいせいもどして「これはいいはなしとしてめるんだろうな」という安心あんしんかんあたえておきながらのどんでんがえしがある。タイムリープのこわさもちゃんと提示ていじするあたり、1本当ほんとうによくできていますよね。

第1話より。ヒカルのスマートフォンに流れるニュースに、エマらしき人物の写真が表示されている。

だい1より。ヒカルのスマートフォンにながれるニュースに、エマらしき人物じんぶつ写真しゃしん表示ひょうじされている。

──おかげで2以降いこうもハッピーエンドとバッドエンドのどちらのわりかたもありるとおもえて、スリリングにかんじました。かくはなしきのつよさも抜群ばつぐんで、毎回まいかい最後さいごまで油断ゆだんできない作品さくひんですよね。

海外かいがいドラマの面白おもしろさにもつうじますね。最初さいしょからキャラクターのリアリティレベルが実写じっしゃドラマっぽいとはおもっていたんですけど、サスペンス展開てんかいつくかたとか、エンタメと現代げんだい社会しゃかいをどう接続せつぞくするかなど、ドラマなどの海外かいがいエンタメも研究けんきゅうしているんじゃないかなと想像そうぞうしてます。