もう、ホラーですよホラー

綾あや奈ゆにこ　まさか武田たけだ先生せんせいとお話はなしできると思おもわなかったので、この対談たいだんが決きまったときは「えっ！」と驚おどろきました。

武田たけだ綾乃あやの　そんなそんな。

綾あや奈　今朝けさも「リズと青あおい鳥とり」（武田たけだの小説しょうせつ「響ひびけ！ ユーフォニアム 北きた宇治うじ高校こうこう吹奏楽すいそうがく部ぶ、波乱はらんの第だい二に楽章がくしょう」前まえ・後編こうへんが原作げんさくの劇場げきじょうアニメ）を観みてきました。今日きょうは失礼しつれいなことやわかっていないようなことを言いってしまうかもしれませんが、よろしくお願ねがいします。

武田たけだ　こちらこそ。私わたしは「バンドリ！」に関かんしてはゲーム（スマホ向むけゲーム「バンドリ！ ガールズバンドパーティ！」）を「少女しょうじょ☆歌劇かげき レヴュースタァライト」と一緒いっしょにやっていて、アニメは第だい1期きしか観みたことがなかったんです。だから今回こんかいの対談たいだんの話はなしをいただいて、アニメ第だい1期きを見直みなおし、ゲームの1章しょうを読よみ直なおして「青春せいしゅんだな～」って改あらためて感かんじたうえで「It's MyGO!!!!!」を観みたら……全然ぜんぜん違ちがう（笑）。もう1話わの始はじまりから「うわ、すごいギスギスしている！」と思おもって。第だい1期きの主人公しゅじんこうだった（戸山とやま）香澄かすみちゃんとかのキラキラしたイメージとのギャップがすごかったです。

綾あや奈　日陰ひかげみたいなアニメで。

武田たけだ　でも、話はなしがリアルで好すきでした。「女子高じょしこう生なってこういうことあるよね。わかるわかる」と頷うなずいちゃうような、地ちに足あしがついた人間にんげん関係かんけいばかりですごく面白おもしろかったです。高校生こうこうせいの頃ころって基本きほん的てきに視野しやが狭せまいじゃないですか？

綾あや奈　ええ。

武田たけだ　仲良なかよくなりたい相手あいてがいたとして、大人おとなになると物事ものごとを俯瞰ふかんして確実かくじつなルートとか「もっといいやり方かたがないか」とか考かんがえちゃったりしますけど、「It's MyGO!!!!!」の子こはみんなそんなことを考かんがえる余裕よゆうがなくて必死ひっしですよね。だからこそぶつかり合あうことも多おおいんですけど、そこがよかったです。あとアニメを観みるのは第だい1期き以来いらいだったので、キャラクターが3DCGだったのもびっくりしました。

綾あや奈　「バンドリ！」は第だい2期きからキャラクターがCGになりました。「It's MyGO!!!!!」からは一段いちだんとアニメーション作づくりへのこだわりが強つよくなっていて、感情かんじょうが伝つたわるような表情ひょうじょうなどにすごく助たすけられています。

武田たけだ　表情ひょうじょうや仕草しぐさがいいですよね。（長崎ながさき）そよちゃんが顕著けんちょで、最初さいしょのほうからずっと意味深いみしんでしたけど、案あんの定じょう「あららら」って。確たしかに冷静れいせいに考かんがえるとそよちゃんが言いっていることっておかしいんですよね。でも（千早ちはや）愛あい音おんちゃんも変へんだからスルッと流ながれていく。

綾あや奈　お互たがいに踏ふみ込こまないからこそ会話かいわが成なり立たつんですよね。

武田たけだ　この2人ふたりで特とくに好すきなやり取とりがあるんです。そよちゃんが愛あい音おんの前まえで「やっぱりみんながいないと」と言いうところ。

綾あや奈　第だい6話わの、一緒いっしょに帰かえるシーンですよね。（椎名しいな）立たて希のぞみちゃんが思おもわずバンドメンバーに本音ほんねをぶつけちゃった後のち。

武田たけだ　そうです。そよが言いう「みんな」に、愛あい音おんは自分じぶんも含ふくまれていると当然とうぜんのように思おもっているけど、それまでの流ながれや不穏ふおんな雰囲気ふんいきもあって、そよにとっての「みんな」は、前まえに立たて希のぞみちゃんたちとやっていたバンドの「みんな」だとわかる。しかもそれを愛あい音おん本人ほんにんを前まえにして言いうなんて……。「そよ、怖こわ！」ってなりました（笑）。もう、ホラーですよホラー。

綾あや奈　そよちゃんは本音ほんねを隠かくすのがうまいから、それでも愛あい音おんちゃんはずっと信頼しんらいしていて。

武田たけだ　そう！ だから「愛あい音おん、早はやく気付きつけ！」って言いいたくなる。そよは本音ほんねを言いっているのに周まわりはその真意しんいに気付きづかない。ああいうシーンが大好だいすきなんですよね。あと余談よだんですけど、その後ごにバンドの練習れんしゅうに来こなくなり、学校がっこうの机つくえで突つっ伏ぷしている立だて希のぞみちゃんの上うえに「遅刻ちこく厳禁げんきん」という張はり紙がみが貼はってあるところも切せつない（笑）。

綾あや奈　「リズと青あおい鳥とり」でも張はり紙がみを使つかった演出えんしゅつがありましたね。

武田たけだ　アニメのスタッフさんは、ああいう細こまかいところで演出えんしゅつしてくれるんですよね。

「ここまでシリアスに振ふり切きって大丈夫だいじょうぶ？」という迷まよいとともに

武田たけだ　そんな感かんじで途中とちゅうまでは「そよちゃん、おもしれー女おんなだぜ」と思おもいながら観みていたけど、後半こうはんは彼女かのじょの言動げんどうがヤバ過すぎて「これ、視聴しちょう者しゃが許ゆるせるラインを超こえてきてない？」とハラハラしていました。

綾あや奈　そうですよね……。そもそも私わたし自身じしんは香澄かすみちゃんたちみたいなかわいらしい話はなしのほうがなじみがあるので、今回こんかいの「It's MyGO!!!!!」は企画きかくのスタート時じどれくらいシリアスにするか悩なやんでいたんです。

武田たけだ　視聴しちょう者しゃが引ひいちゃう可能かのう性せいがありますからね。

綾あや奈　「重じゅうめのドラマをやりたい」と（ブシロードの）根本ねもと雄貴ゆうきプロデューサーに依頼いらいされたので、シリアスをやるつもりではありました。せっかく0から作つくれるのならと、私わたしが当時とうじプライベートで経験けいけんした裏切うらぎりや人間にんげん不信ふしんの時期じきに覚おぼえた感情かんじょうを、バンドというフィルターを通とおして表現ひょうげんしようと思おもって。それが（高松たかまつ）燈とうちゃんの「一生いっしょう、バンドしてくれる？」という第だい1話わのセリフにつながるんですけど。

武田たけだ　ええー！ 恐おそろしい話はなし。

綾あや奈　ただ、どこまでシリアスにしていいかは迷まよいました。そんなときに、柿本かきもと広ひろ大だい監督かんとくから、もっと振ふり切きる方針ほうしんが出でたので、「本当ほんとうに大丈夫だいじょうぶ？」なんて思おもいながらもどんどん突つき進すすんで。それでも第だい9話わの脚本きゃくほんが形かたちになったときはみんながバラバラになり過すぎて、「これ、本当ほんとうにバンドになるのかな？」という思おもいもあって。もちろん先さきにざっくりとした流ながれは作つくってあるんですけど……。

武田たけだ　喧嘩けんかばかりで、きちんとバンドを結成けっせいできるか怪あやしかったと。

綾あや奈　それくらい不安ふあんでした。

武田たけだ　でも全然ぜんぜんそよちゃんを許ゆるせるくらい、第だい10話わのライブシーンはすごかったですよ。あんな泣なき顔がおでベースを弾ひかれたら許ゆるすしかない。ライブ映像えいぞうの妙みょうというか、絵えってすごいなと感動かんどうしました。

綾あや奈　すごかったですよね！ コンテ・演出えんしゅつの梅津うめづ朋美ともみさんを始はじめ、関かかわる皆みなさんの情熱じょうねつが詰つまっていました。あの話はなしは後藤ごとうみどりさんが脚本きゃくほんを書かいてくださって。それから曲きょくの発注はっちゅうだったんですけど、脚本きゃくほん会議かいぎの場ばで、音楽おんがく担当たんとうの方ほうが普段ふだんはそんなことを言いわないのに「曲きょくができたので、今いま聴ききます？」と。いざ流ながしてもらったらみんなで泣なきそうになって（笑）。

武田たけだ　曲きょくを作つくられる方ほうは大変たいへんですよね。完全かんぜんにシナリオと連動れんどうさせなくてはいけないし。

綾あや奈　特とくに「詩し超ちょう絆きずな」は大変たいへんだったかと思おもいます。曲きょくだけで泣なけるんですよね……。

武田たけだ　燈ひちゃんの歌声うたごえもいいですし。あと第だい10話わに関かんしてはバンドものの物語ものがたりで珍めずらしいパターンだったと思おもっていて。バンドものってライブをやったら大だい成功せいこう、それでめでたしめでたしというのが普通ふつうなのに、あの話はなしは少すこしずつライブの評判ひょうばんが広ひろがって動員どういんが増ふえていったじゃないですか。あれもリアルでした。

綾あや奈　これまでのシリーズでは、ライブで気持きもちが昇華しょうかされるとか物語ものがたりがきれいに収おさまるといったある種しゅのセオリーで作つくってきたんですけど。

武田たけだ　でも「It's MyGO!!!!!」は人間にんげん関係かんけいが主軸しゅじくですよね。

綾あや奈　はい。ライブをやっても何なにも解決かいけつしないとか、むしろライブをやってこじれるとか。

武田たけだ　「なんであの曲きょくをやったの！」とか怒いかり出だしたり（笑）。「嘘うそ!? ライブ成功せいこうしたのにー」とびっくりしましたよ。

綾あや奈　これまで「バンドリ！」を楽たのしんできてくださった方ほうは特とくに驚おどろかれたのでは。

武田たけだ　でも最初さいしょからずっと喧嘩けんかをしていたからこそ、音楽おんがくで1つにまとまったときのカタルシスがすごかったですから。「みんなよかったね」って親戚しんせきのおばちゃんみたいになりました（笑）。

綾あや奈　私わたしもそんな感かんじで、第だい10話わ以降いこうの愛あい音おんとそよの関係かんけいがすごく好すきで。

武田たけだ　「そよさんを『さん』付つけするのをやめます」から、ですよね。女子じょし同士どうしのキャピキャピした関係かんけいではなく、肩かた組くんで「がんばろうな」みたいな感かんじになっていく。女おんなの子こ同士どうしでもああいう関係かんけい性せいってありますけど、あまりフィーチャーされる機会きかいがないから特とくにいいなと思おもいました。

綾あや奈　バンドだから成なり立たつ関係かんけい性せいかもしれません。バンドって友達ともだちではなく、一緒いっしょに何なにかをやっている仲間なかまなので。もちろんバンド以外いがいでもあり得えるでしょうけど。

武田たけだ　会社かいしゃのチームに近ちかいですよね。キャラクターが一緒いっしょに行動こうどうする理由りゆう付づけが大人おとなっぽくて、今いままでの「バンドリ！」は少すこしファンタジーっぽさもあったけど、「It's MyGO!!!!!」で描えがかれていることは現実げんじつ世界せかいに起おこってそうなんです。当然とうぜんだけど最初さいしょに作つくったバンドでずっと続つづけることなんてほとんどなくて、みんな結成けっせいと解散かいさんを繰くり返かえすものだし。

綾あや奈　そう言いっていただけてよかったです。今いままで、「バンドリ！」以外いがいを含ふくめてもここまでリアル寄よりに（脚本きゃくほんを）描えがくことがなかったので、自分じぶんにとっては大おおきな挑戦ちょうせんでしたし、「ここまでやっていいんだ」というのも見みえてきました。

文章ぶんしょうに込こめるニュアンスと、受うけ取とる側がわの認識にんしきのズレ

綾あや奈　私わたしが「バンドリ！」第だい1期きでこだわったのは、劇げき中ちゅうの彼女かのじょたちの間あいだだけで成立せいりつするような生々なまなましい会話かいわなんです。それを「すごくいい」と言いってくださった方ほうもいたけど、「わからない」という方ほうもいて。私わたしは後者こうしゃの感想かんそうが目めについて、「『バンドリ！』はたくさんの人ひとに届とどけないといけない作品さくひんだった」とすごく反省はんせいしたんです。なので第だい2期き、3期きのときは広ひろく届とどけられるものにしようと自分じぶんのエゴを抑おさえていました。でも「It's MyGO!!!!!」はそこで得えた、人ひとに届とどけるための作法さほうを使つかって自分じぶんが書かきたいものを書かいているので、ある種しゅの原点げんてん回帰かいきなんです。

武田たけだ　無事ぶじに届とどきました。でも脚本きゃくほんは難むずかしいですよね。同おなじ会話かいわ劇げきでも、小説しょうせつだとセリフだけでなく地ちの文ぶんに説明せつめいを投なげることができるので。

綾あや奈　ただ武田たけだ先生せんせいの御ご本ほんを拝読はいどくすると、地ちの文ぶんに映像えいぞう的てきな表現ひょうげんというか、人物じんぶつの様子ようすや仕草しぐさだけが書かかれている文章ぶんしょうがありますよね。それを読者どくしゃがどう受うけ取とってもいいというか、想像そうぞうさせる幅はばが広ひろいなと。

武田たけだ　ああいうのは、私わたしが書かくのが好すきだし、説明せつめいし過すぎないほうが意外いがいと読者どくしゃはいい感かんじに受うけ取とってくれるので入いれています。ただでさえ小説しょうせつは説明せつめい過多かたになりがちなのに、そこで受うけ取とってほしい感情かんじょうまで限定げんていしてしまうと、私わたしの考かんがえ以外いがいの幅はばが消きえちゃうので。

綾あや奈　その余地よちの部分ぶぶんに、アニメ化かにあたってスタッフさんの解釈かいしゃくが入はいりますよね。アニメは多おおくのスタッフで作つくるので、解釈かいしゃくを確定かくていさせなくてはいけないのは自分じぶんも経験けいけんがあるので知しっていますが……アニメを観みてから武田たけだ先生せんせいの小説しょうせつの該当がいとうする部分ぶぶんを読よむと「こんなに解釈かいしゃくの余地よちがあるんだ」と。

武田たけだ　そうですね。今いまは「花はなは咲さく、修羅しゅらの如しく」というマンガの原作げんさくをやっていて脚本きゃくほんを毎月まいつき作つくっているんですけど、そこで編集へんしゅうさんに「表情ひょうじょうを指定していしてください」と言いわれて最初さいしょは「どういうことだろう？」って感かんじたんです。細こまかい表情ひょうじょうって本ほんを書かいているときには考かんがえたことがなかったのですが、絵えにするときは確定かくていさせなくちゃいけないんですよね。だからト書とがきに加くわえて、セリフのあとに「（怒いか）」とか「（曖昧あいまいな笑えみ）」とか感情かんじょうを表あらわす言葉ことばを入いれています。小説しょうせつだとそんな感情かんじょうの指定していの仕方しかたは最悪さいあくですけど（笑）。

綾あや奈　アニメの脚本きゃくほんでも、ここ数すう年ねんはそういうものが求もとめられてて。セリフだけでなく、どんな表情ひょうじょうや感情かんじょうで言いっているかまでなるべく書かいています。受うけ取とる側がわと齟齬そごが生しょうじないように。

武田たけだ　けっこうニュアンスのズレが生うまれるんですよね。「ユーフォ」だと当時とうじの部長ぶちょうである晴香はるかに自分じぶんのいいところを聞きかれた久美子くみこが「優やさしいところ」と繰くり返かえしたせいで、「優やさしいなんてほかにほめるところがない人ひとに言いうセリフでしょ」とい返いかえされるシーンがあるんですが、私わたしは最初さいしょは軽けいめのトーンで最後さいごにバシッと決きめるつもりで書かいていたんです。でもアニメではずっとシリアスになっていて（笑）。「私わたしの感覚かんかくがズレてるんだな」と反省はんせいすることはよくあります。

綾あや奈　第だい1期き第だい7話わは冒頭ぼうとうからシリアスでまとめられていましたね。武田たけだ先生せんせいのイメージも想像そうぞうすると意図いとがわかります。脚本きゃくほんの場合ばあい、そういった狙ねらいがあれば書かいておいて、コンテやアフレコ段階だんかいで確認かくにんさせていただくこともあります。

武田たけだ　けっこうコントロールできているんですね。

綾あや奈　最終さいしゅう的てきなジャッジは監督かんとくなので全部ぜんぶとはいきませんが。「It's MyGO!!!!!」のコンテを見みて驚おどろいたことといえば、例たとえば、そよちゃんに裏うらがあることが第だい2話わでもう判明はんめいしてしまうところですね。脚本きゃくほん段階だんかいでは、「序盤じょばんは隠かくそう」って監督かんとくの方針ほうしんだったので。

武田たけだ　でもそういった匂におわせがないと。そよちゃんを普通ふつうに優やさしいお姉ねえさんだと思おもっていた人ひとは中盤ちゅうばんで心臓しんぞうが止とまっちゃうかもしれませんし。

綾あや奈　おかげで、サスペンスっぽい楽たのしみ方かたができるようになりました（笑）。