「日本人にっぽんじんの祖先そせんはどこからやってきたのか」。このロマンに満みちた問といに対たいしては、祖先そせんは縄文じょうもん人じんと大陸たいりくから渡来とらいした弥生やよい人じんが混血こんけつしたとする「二に重じゅう構造こうぞうモデル」が長ながくほぼ定説ていせつとなっていた。そこに日本人にっぽんじんのゲノム（全ぜん遺伝いでん情報じょうほう）を解析かいせきする技術ぎじゅつを駆使くしした研究けんきゅうが盛さかんになり、最近さいきんの、また近年きんねんの研究けんきゅうがその説せつを修正しゅうせいしつつある。

　日本人にっぽんじん3000人にん以上いじょうのゲノムを解析かいせきした結果けっか、日本人にっぽんじんの祖先そせんは3つの系統けいとうに分わけられる可能かのう性せいが高たかいことが分わかったと理化学研究所りかがくけんきゅうしょ（理研りけん）などの研究けんきゅうグループが4月がつに発表はっぴょうした。この研究けんきゅうとは別べつに金沢かなざわ大学だいがくなどの研究けんきゅうグループは遺跡いせきから出土しゅつどした人骨じんこつのゲノム解析かいせきから「現代げんだい日本人にっぽんじんは大陸たいりくから渡わたってきた3つの集団しゅうだんを祖先そせんに持もつ」と発表はっぴょうし、「三重みえ構造こうぞうモデル」を提唱ていしょうしている。

　理研りけんグループの「3つの祖先そせん系統けいとう」説せつは「三重みえ構造こうぞうモデル」と見方みかたが重かさなり、従来じゅうらいの「二に重じゅう構造こうぞうモデル」の修正しゅうせいを迫せまるものだ。日本人にっぽんじんの祖先そせんを探究たんきゅうする進化しんか人類じんるい学がくはDNA解析かいせき、ゲノム解析かいせきの技術ぎじゅつという有力ゆうりょく手段しゅだんを手てにして、大陸たいりくからさまざまな人々ひとびとが渡来とらいして現代げんだいの日本人にっぽんじんにつながった複雑ふくざつな過程かていが見みえてきた。今後こんごさらに詳くわしい私わたしたちのルーツが明あきらかになっていくだろう。それは「私わたしたちの本質ほんしつは何なにか」という壮大そうだいな探究たんきゅうテーマの回答かいとうを知しることにつながる。

大規模な日本人のゲノム解析により日本人集団の遺伝的構造を明らかにする研究の概念図（理研などの研究グループ提供）
大だい規模きぼな日本人にっぽんじんのゲノム解析かいせきにより日本人にっぽんじん集団しゅうだんの遺伝いでん的てき構造こうぞうを明あきらかにする研究けんきゅうの概念がいねん図ず（理研りけんなどの研究けんきゅうグループ提供ていきょう）
[画像がぞうをタップでギャラリー表示ひょうじ]

祖先そせんは「縄文じょうもん系けい」「関西かんさい系けい」「東北とうほく系けい」の3つに

　母ははから子こへ受うけ継つがれるミトコンドリアにはわずかながらDNAが含ふくまれ（ミトコンドリアDNA）、これを解析かいせきすることにより、母系ぼけいの血縁けつえんの有無うむが分わかって遺伝いでん的てきなルーツを調しらべることができる。細胞さいぼう核かくに存在そんざいする核かくDNAは両親りょうしんから半分はんぶんずつ子こに伝つたえられる。このため、その配列はいれつや突然変異とつぜんへんいの規模きぼなどを解析かいせきすることで人類じんるいの混血こんけつ、交流こうりゅうや移動いどうを調しらべることができる。

「3つの祖先そせん系統けいとう」説せつを発表はっぴょうしたのは、理研りけん生命せいめい医科いか学がく研究けんきゅうセンターゲノム解析かいせき応用おうよう研究けんきゅうチームの寺尾てらお知とも可か史しチームリーダー、劉りゅう暁あきら渓けい上級じょうきゅう研究けんきゅう員いんや東京大学とうきょうだいがく医科いか学がく研究所けんきゅうじょ附属ふぞくヒトゲノム解析かいせきセンターの松田まつだ浩一こういち特とく任にん教授きょうじゅら。寺尾てらお氏しは静岡しずおか県立けんりつ総合そうごう病院びょういんの免疫めんえき研究けんきゅう部長ぶちょうや静岡県立大学しずおけけんりつだいがく薬学部やくがくぶ特とく任にん教授きょうじゅを兼任けんにんし、同どう総合そうごう病院びょういんや同どう大学だいがくも研究けんきゅうに参画さんかくした。

　寺尾てらお氏しらの研究けんきゅうグループは、多おおくの人ひとの血液けつえきや遺伝いでん情報じょうほうを集あつめて保存ほぞんしている組織そしき「バイオバンク・ジャパン」を活用かつよう。北海道ほっかいどう、東北とうほく、関東かんとう、中部ちゅうぶ、関西かんさい、九州きゅうしゅう、沖縄おきなわの7地域ちいきの医療いりょう機関きかんに登録とうろくされた日本人にっぽんじん3256人にん分ぶんのDNAの全ぜん配列はいれつを詳細しょうさいに分析ぶんせきしてゲノムの特徴とくちょうを明あきらかにする膨大ぼうだいな作業さぎょうを続つづけた。

　その結果けっか、日本人にっぽんじんの祖先そせんは主おもに、沖縄おきなわ県けんに多おおい「縄文じょうもん系けい」、関西かんさいに多おおい「関西かんさい系けい」、そして東北とうほくに多おおい「東北とうほく系けい」の3つに分わけられることが分わかった。さらに調しらべると縄文じょうもん系けいの遺伝いでん情報じょうほうの割合わりあい（祖先そせん比率ひりつ）は沖縄おきなわ県けんが一番いちばん高たかく28.5％、次ついで東北とうほくで18.9％、関西かんさいでは最もっとも低ひくく13.4％だった。

「二に重じゅう構造こうぞうモデル」に疑問ぎもん提示ていじ

　この祖先そせん比率ひりつは縄文じょうもん人じんと沖縄おきなわの人々ひとびとの間あいだに高たかい遺伝いでん的てき親和しんわ性せいがあるとの以前いぜんの研究けんきゅうとも一致いっちし、関西かんさい地方ちほうは漢かん民族みんぞくと遺伝いでん的てき親和しんわ性せいが高たかいことが明あきらかになった。また、東北とうほく系けいも縄文じょうもん人じんとの遺伝いでん的てき親和しんわ性せいが高たかく、沖縄おきなわ県けん・宮古みやふる島とうの古代こだい日本人にっぽんじんや韓国かんこく三さん国こく時代じだい（4～5世紀せいき）ごろの古代こだい韓国かんこく人じんに近ちかかったという。

　こうした研究けんきゅう成果せいかは、縄文じょうもん時代じだいの狩猟しゅりょう採集さいしゅう民族みんぞくである縄文じょうもん人じんと弥生やよい時代じだいに大陸たいりくの北東ほくとうアジアから渡来とらいした稲作いなさく移民いみんの弥生やよい人じんの混血こんけつにより現代げんだいの日本人にっぽんじんが形成けいせいされたとする「二に重じゅう構造こうぞうモデル」に疑問ぎもんを投なげかける内容ないようという。

　現代げんだい人じんの祖先そせんはネアンデルタール人じんやデニソワ人じんと交雑こうざつしたとされている。一連いちれんのゲノム解析かいせきでは、現代げんだいの日本人にっぽんじんにネアンデルタール人じんやデニソワ人じんから受うけ継ついだとみられるDNA配列はいれつも見みつかっている。

　デニソワ人じんから受うけ継ついだ配列はいれつには興味深きょうみぶかいことに2型がた糖尿とうにょう病びょうに関連かんれんするものも含ふくまれていたという。DNAの解析かいせきは「病気びょうき感受性かんじゅせい」をも明あきらかにして個別こべつ化か医療いりょうに道みちを開ひらくと期待きたいされている。さらに詳くわしい分析ぶんせきが待またれる。研究けんきゅう論文ろんぶんは4月がつ17日にち付づけの米べい学術がくじゅつ誌し「サイエンス・アドバンシズ」に掲載けいさいされた。

ゲノム解析による7地域の日本人集団は3つの集団に分けることを示す図。日本人の祖先が沖縄系（K1）、東北系（K2）、関西系（K3）の「3つの祖先系統」に分かれることを示す。（地域ごとの縄文系の祖先比率を示すグラフではない）（理研などの研究グループ提供）
ゲノム解析かいせきによる7地域ちいきの日本人にっぽんじん集団しゅうだんは3つの集団しゅうだんに分わけることを示しめす図ず。日本人にっぽんじんの祖先そせんが沖縄おきなわ系けい（K1）、東北とうほく系けい（K2）、関西かんさい系けい（K3）の「3つの祖先そせん系統けいとう」に分わかれることを示しめす。（地域ちいきごとの縄文じょうもん系けいの祖先そせん比率ひりつを示しめすグラフではない）（理研りけんなどの研究けんきゅうグループ提供ていきょう）
[画像がぞうをタップでギャラリー表示ひょうじ]
寺尾知可史氏（左）と劉暁渓氏（理研などの研究グループ提供）
寺尾てらお知とも可か史し氏し（左ひだり）と劉りゅう暁あきら渓けい氏し（理研りけんなどの研究けんきゅうグループ提供ていきょう）
[画像がぞうをタップでギャラリー表示ひょうじ]

人骨じんこつのゲノム解析かいせきから「三重みえ構造こうぞうモデル」提唱ていしょう

　理研りけんなどの研究けんきゅうグループの発表はっぴょうに先立さきだつ2021年ねん9月がつ。金沢かなざわ大学だいがくなどの共同きょうどう研究けんきゅうグループは、縄文じょうもん、弥生やよい、古墳こふん時代じだいの遺跡いせきから出土しゅつどした人骨じんこつのゲノム解析かいせきした結果けっか、現代げんだいの日本人にっぽんじんは大陸たいりくから渡わたってきた3つの集団しゅうだんを祖先そせんに持もつことが分わかったと、同おなじくサイエンス・アドバンシズに発表はっぴょうしている。

次じページ：2段階だんかいにわたって大陸たいりくから遺伝いでん的てきに異ことなる集団しゅうだんが流入りゅうにゅう