ウランゲリ島とうは、1976年ねんにロシアが管理かんりする自然しぜん保護ほご区くに指定していされ、2004年ねんにはユネスコの世界せかい自然しぜん遺産いさんにも登録とうろくされている。厳きびしい気候きこうにもかかわらず、あるいはその気候きこうのおかげで、ここには驚おどろくほど多様たような生物せいぶつが生いきている。極北きょくほくのガラパゴス諸島しょとうと言いっていいかもしれない。

　この島しまは、ホッキョクグマの世界せかい最大さいだいの繁殖はんしょく地ちで、冬ふゆには400頭とうもの母ははグマが子育こそだてをすることがある。気候きこう変動へんどうの影響えいきょうで海うみ氷ごおりが年々ねんねん減へってきているため、最近さいきんでは夏なつの居場所いばしょを求もとめてやって来くるホッキョクグマもいる。またここは、タイヘイヨウセイウチの世界せかい最大さいだいの個体こたい群ぐんが生息せいそくする場所ばしょで、ハクガンのアジア唯一ゆいいつの繁殖はんしょく地ちでもある。そして、シロフクロウやジャコウウシ、ホッキョクギツネやトナカイが暮くらし、タビネズミと海鳥うみどりの大だい規模きぼな個体こたい群ぐんもいる。

人間にんげんを寄よせつけない島しま

　動物どうぶつたちが大昔おおむかしからこの地ちで生いき延のびてきた一方いっぽうで、人間にんげんはそうはいかなかった。シベリア北東ほくとう部ぶの沖合おきあい140キロにあるウランゲリ島とうは、19世紀せいき後半こうはんまで、霧きりに包つつまれた幻まぼろしの存在そんざいだった。

　ウランゲリ島とうが大陸たいりくの一部いちぶではなく、島しまであることを確認かくにんしたのは、1879年ねんに出航しゅっこうした司令しれい官かんジョージ・ワシントン・デ・ロング率ひきいる米国べいこくの北極ほっきょく探検たんけん隊たいだ。だが、一いち行ぎょうは島しまに上陸じょうりくすることはなく、乗のっていたUSSジャネット号ごうは、巨大きょだいな海うみ氷ごおりに取とり囲かこまれて2年間ねんかん近ちかく身動みうごきが取とれなくなった末すえ、最後さいごには沈没ちんぼつしてしまった。

　初はじめて人間にんげんが上陸じょうりくしたのは、1881年ねん8月がつのことだ。上陸じょうりくしたのは、行方ゆくえ不明ふめいになったジャネット号ごうを捜索そうさくしていた蒸気じょうき船せんトーマス・L・コーウィン号ごうに乗のり込こんでいた米国べいこく人じんたちだった。

　その後ご30年ねん以上いじょう、島しまに近ちかづいた者ものはなかったが、1913年ねんのカナダ北極ほっきょく探検たんけん隊たいを皮切かわきりに、不幸ふこうな出来事できごとが再ふたたび続つづくことになる。探検たんけん隊たいが乗のっていた2本ほんマストの帆船はんせんカールック号ごうは破損はそん。8カ月かげつ後ごに救助きゅうじょ隊たいが到着とうちゃくするまでに、25人にんのうち11人にんが島しまやその周辺しゅうへんで命いのちを落おとしてしまう。1921年ねんにもカナダ人じんが中心ちゅうしんとなってウランゲリ島とうに移住いじゅうし、英国えいこく本国ほんごくのために領有りょうゆう権けんを主張しゅちょうしようと試こころみたが、新あらたに4人にんの死者ししゃを出だす結果けっかとなった。

　1926年ねんには、領土りょうど拡大かくだいをもくろんだソ連それんが、シベリアの先住民せんじゅうみんチュコトをウランゲリ島とうに強制きょうせい移住いじゅうさせた。1970年代ねんだいまでは小ちいさな集落しゅうらくがあったが、自然しぜん保護ほご区くの制定せいていと同時どうじに移住いじゅう者しゃの子孫しそんたちはシベリアへ送還そうかんされることになった。

　当面とうめんウランゲリ島とうは、極北きょくほくの動物どうぶつと彼かれらを研究けんきゅうする学者がくしゃのための“野生やせい生物せいぶつ研究所けんきゅうじょ”として存続そんぞくするだろう。

※ナショナル ジオグラフィック5月がつ号ごうから一部いちぶ抜粋ばっすいしたものです。電子でんし版ばんでは、ウランゲリ島とうの美うつくしい自然しぜんを動画どうがでもお楽たのしみいただけます。