井上尚弥はBWAAのサントリキート会長(右)とリング誌のフィッシャー編集長(左)から表彰を受ける(写真・大橋ジム提供)
(RONSPO)
プロボクシングのスーパーバンタム級4団体統一王者の井上尚弥(31、大橋)が6日(日本時間7日)、米国ニューヨークの「583パークアベニュー」で開催された全米ボクシング記者協会(BWAA)による2023年の年間最優秀選手賞「シュガーレイ・ロビンソン賞」の授賞式を兼ねた夕食会に出席。英語と日本語でスピーチし「この先のキャリアを楽しみにしていて欲しい」と宣言した。会場では元3階級制覇王者のホルヘ・リナレス(38、帝拳)と再会し注目を集めているフェザー級への挑戦の時期を「あと1年」と明かした。すでにフェザー級の王者からは続々と挑戦状が届いている。
ネリ戦の当日体重は62キロだった
モンスターが大歓迎を受けた。約200人で満員となったディナー会場で米の権威ある専門誌「ザ・リング」のダグラス・フィッシャー編集長から紹介を受けて壇上に上がった井上は、BWAAのジョセフ・サントリキート会長から、2023年度の年間最優秀選手賞「シュガーレイ・ロビンソン賞」の記念の盾とベルトを受け取り、そしてフィッシャー編集長からさらにリング誌認定のスーパーバンタム級王座ベルトと2023年の年間最優秀選手ベルトを贈られた。
続いて記念スピーチが行われ、井上は、メモを見ながら、まずは英語で「こんばんは。今夜、この授賞式に出席することができて光栄です。ありがとうございます。ここからは、英語が上手に話せないので、日本語でお話をしますことをお許しください」と挨拶。そこからは、帝拳プロモーションの通訳を挟みながら、日本語でこう話した。
「今日、この場に立たせていただくにあたり、BWAAのサントリキート会長をはじめ、投票していただいたBWAAの会員のみなさま、トップランクのボブ・アラムCEO、帝拳プロモーションの本田会長、大橋プロモーションの大橋会長にあらためて感謝を申し上げます。2023年は自分にとって、もっとも大きなチャレンジの年でした。スーパーバンタム級に上げ、いきなり2団体統一チャンピオンのスティーブン・フルトンとのタイトルマッチ、そして12月の2団体統一王者であるマーロン・タパレスと、どちらも簡単な試合ではなかったですが、無事に勝つことができました。そうした結果を今回、みなさんに評価していただき、すごくうれしく思います。この先の自分のキャリアも楽しみにしていてください。今日はありがとうございました」
同行した大橋秀行会長によると、滞在しているホテルでは、地元の中高校生のファンらに記念撮影を求められ、会場の入り口には、多くのファンが待ち構えていて、井上に殺到するなどの大人気ぶり。ファンだけでなく7階級制覇を成し遂げた女子世界フェザー級3団体統一王者のアマンダ・セラノ(プエルトリコ)やWBO世界スーパーライト級王者のテオフィモ・ロペス(米国)からツーショット写真を求められるなどしていた。
そして、そのディナーパーティーでの交流の中でリナレスと再会。その際に2人が交わした注目の会話が、WBAの公式Xに投稿された。
ファンやボクシング関係者の間では、井上がいつフェザー級に転級するかが話題となっているが、リナレスも、その点について興味を抱き、5月6日の東京ドームでルイス・ネリ(メキシコ)を6回TKOで倒した試合の際の当日体重について質問したところ、井上は「この間のネリのときは、試合の日は、62(キロ)」と答えた。
スーパーバンタム級のリミットの55.34キロから7キロ弱のプラス。フェザー級のリミットは57.15キロで、通常、当日の増量は5、6キロが理想とされているため、すでに井上が62キロの当日体重で戦っているとすれば、フェザー級挑戦は十分に可能な範疇。リナレスも、そう感じたのだろう。
「え〜そうなんだ。(フェザー級挑戦は)いけるよ。やっぱりいける」と返した。
すると井上は人指し指を1本立てて「あと1年とか」と、フェザー級挑戦の時期を明かし、リナレスは、「そうね。それでも(フェザー級挑戦を)見たいよ。それでも見たいよ」と2度繰り返した。
井上は5月29日に本格的な練習を再開。その際、フェザー級挑戦の時期に関しては「フェザー級にいく準備はしているが、そこ(いつのタイミングか)はまだなんとも言えない」と濁していた。
9月には、対戦の有力候補だったIBFとWBOの指名挑戦者サム・グッドマン(豪州)が7月10日の調整試合を優先させて敵前逃亡したことで、元IBF世界同級王者のTJ・ドヘニー(アイルランド)との防衛戦が有力視されている。これをクリアすれば、12月にもう1試合行う予定で、グッドマン、あるいはWBAの指名挑戦者で元WBA&IBF世界同級王者のムロジョン・アフマダリエフ(ウズベキスタン)が有力候補として控えている。また今後の対戦候補として、大橋会長は、元3階級制覇王者のジョンリエル・カシメロ(フィリピン)なども候補にあげて「あと3試合はスーパーバンタム級で戦う」とも語っていた。井上が「あと1年」としたフェザー級転級の時期とピタリと一致する。
すでにフェザー級の王者から次から次へと挑戦状が叩きつけられている。トップランク社の所属で、ボブ・アラムCEOが、具体的な対戦候補として名前をあげたIBF世界同級王者のルイス・アルベルト・ロペス(メキシコ)は、自ら「ドリームファイト」と評したフェイクポスターまで作って対戦をアピール。陣営のマネージャーは米専門サイト「ボクシング・シーン」の取材に答えて「井上をKOできる。家を賭けたっていい」とまで豪語した。
また6月1日にサウジアラビアで行われたビッグイベントでWBA世界同級新王者となったばかりのニック・ボール(英国)のヘッドトレーナーも前出の米サイトに「この先戦いたいのは井上だ。奴を動揺させることができる」と訴えた。
そして注目の対戦指令が出た。
WBCが正規王者のレイ・バルガス(メキシコ)と暫定王者のブランドン・フィゲロア(米国)との統一戦を命じたのだ。バルガスはWBC世界スーパーバンタム級王者時代の5年前に暫定王者だった亀田和毅(TMK)と統一戦を戦い3−0判定で勝利している。
フィゲロアは元WBA&WBC世界スーパーバンタム級の統一王者。井上が2つのベルトを奪ったスティーブン・フルトン(米国)に僅差の0−2判定で敗れているが、ネリをボディショットで沈めており、全米では人気が抜群の好戦的なファイター。「ボクシング・シーン」によると、今秋にもこの対戦が実現する見込みで、フィゲロアは大手プロモートのPBCと専属契約を結び直した。
またWBA王者のボールは、この勝者との統一戦を熱望しており、WBA&WBCの統一王者が、井上がフェザー級に転級した場合の最有力対戦候補となるだろう。
「ボクシング・シーン」も「来年中に井上がフェザー級へ転級する可能性が高まっている」と暗に対戦の可能性を示唆した。井上がフェザー級のベルトを手にすれば日本人初の5階級制覇。そしてこの階級でも4団体統一を成し遂げれば世界初の偉業となる。
井上が「あと1年」と明かしたフェザー級転級までモンスターはスーパーバンタム級で“最強”を追求することになる。