投稿とうこう

はじまりの

 とある世界せかいのおはなし。 とりたねはこんだのか、草原そうげん一本いっぽんえた。 ひょろりとなんともれそうなだが、このあたりでえるのはずらいしい。 周辺しゅうへん動物どうぶつたちも『せっかくえたんだから頑張がんばっておおきくなれ』とはげました。 もそれがうれしくてドンドンおおきくなっていった。 それからなんねんかたち、ふとくなり、えだ四方しほうひろがり、なかなかにおおきくなっていた。 あめれば雨宿あまやどりでき、ふうけばどころになり、こわやつからかくれる場所ばしょにもなる。 とりたちもも動物どうぶつたちもたよりにしたので、はさらにうれしくなり、もっともっとおおきくなろうと頑張がんばった。 おおきくなって大人おとなになったをつけた。 そのじつはとても美味おいしくて、さらにとりたちがあつまってきた。地面じめんちたじつ動物どうぶつたちがべた。 なかにあったたねは、とり動物どうぶつたちがあちこちにまいた。 おかげでまわりには子供こどもえてきた。 その子供こどもおおきくなり、をつけ、さらにとり動物どうぶつあつまり、あちこちにまき、そのまた子供こどもえた。 くと、草原そうげんはやしになり、もりになり、おおくのもの住処すみかになっていた。 はじまりのは、そのもりなかでとてもとてもおおきなになっていた。だからとり動物どうぶつたちはいつもたよりにしていた。 本当ほんとうとしをとり、もうっているのもからくなっていたが、それでもとり動物どうぶつたちをまもるためもっともっとおおきくなろうとした。 おおきいのでとおくまでりたくさんの栄養えいようった。 おおきいのでとおくまでえだばしたくさん太陽たいようひかりびた。 そのせいで、はじまりののまわりは栄養えいようりず、たらない。いつもひょろりとしたくさしかえなかった。 だけどおおきなにはとり動物どうぶつあつまる。 だからはじまりのは、もっともっとおおきくなるために頑張がんばった。 ある、とてもつよあらしがきた。ふうはビュウビュウとおとててもりおおきくらした。 とり動物どうぶつたちもはじまりのせ、かくれ、ブルブルとふるえた。 はじまりの本当ほんとうからかったけど、みんなをまもろうとり、えだをいっぱいにばしてふうふせごうとした。 ふうなんはじまりのらしたが、なんとかった。しかし、なんかえすうちに、ついにはじまりの徐々じょじょつかれてきた。 あまりにとしをとり、あまりにおおきくなりすぎて、かぜをいつまでもつづけることができなくなっていた。 ついにはじまりの根本こんぽんかられれてたおれた。 メキメキドシンとおお

慈悲じひおう

 とある世界せかいのおはなし。 宰相さいしょうおうのもとをおとずれた。 「親愛しんあいなるきみよ、みん賢明けんめいなるおう恩恵おんけいけ、よろこびにちた日々ひびごしております」 おう宰相さいしょうにらんだ。 「世辞せじはいい、問題もんだいはなにか」 宰相さいしょうがこのようないいかたをするときはまって深刻しんこく問題もんだいつけたときだ。 そのおかげで、これまでなん問題もんだいつまむことができたのも事実じじつだ。面白おもしろくはないが。 おう機嫌きげんなどにする様子ようすもなく宰相さいしょういちまい書類しょるいした。 「賢明けんめいなるおうよ、過去かこ20ねんとしごとにまれたかずをまとめたひょうです」 ちょうど王位おういについたころからだ。おうはこれをくびをかしげた。 「ここ5ねんまれてくるつづけているのか?」 「きみおうとなり、くに他国たこくがうらやむほどゆたかで安全あんぜんくにとなりました。その影響えいきょう一時いちじおおまれましたが、いま減少げんしょうてんじています」 おう眉間みけんにしわをよせた。 「みんかずつづけているといていたが?」 「きみ慈悲じひにより各地かくち病院びょういんやしたのが15ねんまえ。それ以後いご不意ふいいたものり、みん寿命じゅみょう大幅おおはばびました。これがみんつづけている要因よういんおもわれますが、一方いっぽうまれてくるかずっています」 おうだまってつめはじめた。かんがごとをするときくせだが、宰相さいしょうじろぎもせずった。 「して、原因げんいんなにか?」 宰相さいしょうくびった。 「いくつか仮説かせつ調しらべていますが、まだ特定とくていできていません。しかしまれてくるっているのは数字すうじ証明しょうめいしています」 またおうだまってつめはじめたが、それほどあいだかずにくちひらいた。 「みん長生ながいきするのはいことだが、いつか寿命じゅみょうむかえる。20ねんか、30ねんかはからんが、どこかでみんかずはじめるということか」 「賢明けんめいなるおうよ、おっしゃるとおりです」 こう宰相さいしょうこたえるときは、かんがえのベクトルは間違まちがっていない。 またおうつめんだ。結果けっかはすぐにたが、自分じぶんばかりこたえず宰相さいしょうかんがえがりたかった。 「みんると国力こくりょく低下ていかする。国力こくりょく低下ていかすとどうなるか、具体ぐたいてきべよ」 宰相さいしょうしずかにうなずいた。 「いまのままだと全体ぜんたいすうまえに、わか世代せだい絶対ぜったいすうります。年寄としより寿命じゅみょうび、若者わかものるのですから、全体ぜんたいすうえても若者わかもの比率ひりつります。それはまず、経済けいざい影響えいきょうをおよぼすでしょう」 「経済けいざい影響えいきょうが…」 「はい、経済けいざい影響えいきょうおよぶとみんまずしくなります。結果けっか税収ぜいしゅうこくまずしくなります。

賛成さんせいするひとさがひと

 とある世界せかいのおはなし。 オフィスがい片隅かたすみ無口むくち大将たいしょう居酒屋いざかやがあった。 カウンターしかないちいさな居酒屋いざかやだが、常連じょうれんきゃくおおくけっこう繁盛はんじょうしていた。 ある、20だいらしき男女だんじょおとずれた。 カウンターのはしすわり、まずはのビールを注文ちゅうもんしたのちおんなのほうが「彼氏かれしができた」とはなしはじめた。 おとこ友達ともだちは「それはおめでとう」とうれしそうに祝福しゅくふくしたが、彼氏かれし名前なまえいて表情ひょうじょうくもった。 おんなはそれにづかないのか、あたらしい彼氏かれしがどれほど素晴すばらしいかはなつづける。 たまりかねたおとこ友達ともだちは「あいつはよせ」とはなしめ、その彼氏かれし以前いぜんからっているが、どれほどひどいやつ見聞みききしてきたことをかたった。 しかしおんなは「そんなことはない」「わたしにはちがう」と反発はんぱつする。おとこ友達ともだちはなんとか説得せっとくこころみ、次第しだい雰囲気ふんいきわるくなり、おんなだまってうつむいてしまった。 それからあまり時間じかんもたたないうちににんともかえってしまった。 それから数日すうじつおんなべつおんな友達ともだち来店らいてんした。 前回ぜんかいおなじようにカウンターのはしすわり、おんなのほうが「彼氏かれしができた」とはなしはじめた。 おんな友達ともだちも「やったー、おめでとう」とうれしそうに祝福しゅくふくしたが、彼氏かれし名前なまえいて表情ひょうじょうくもった。 おんなはそれにづかないかのように、あたらしい彼氏かれしがどれほど素晴すばらしいかはなつづける。 たまりかねたおんな友達ともだちは「そのひとはやめたほうがいい」とはなしめ、その彼氏かれし以前いぜんからっているが、どれほどひどいやつ見聞みききしてきたことをかたった。 しかしおんなは「そんなことはない」「わたしにはちがう」と反発はんぱつする。おんな友達ともだちはなんとか説得せっとくこころみ、次第しだい雰囲気ふんいきわるくなり、おんなだまってうつむいてしまった。 それからあまり時間じかんもたたないうちににんともかえってしまった。 さらに数日すうじつおんなべつおとこ友達ともだちと、また数日すうじつ、さらにべつおんな友達ともだちおとずれた。 そしてカウンターのはしすわり「彼氏かれしができた」とはなしはじめた。 どの友達ともだちもはじめはうれしそうに祝福しゅくふくするが、彼氏かれし名前なまえくと表情ひょうじょうくもる。 そして彼氏かれしとのいをめようとするが、おんなだまってうつむいてしまい、あまり時間じかんもたたないうちにかえってしまう。 だがその数日すうじつべつおんな友達ともだちちがった。 いつものようにカンターのはしすわり「彼氏かれしができた」といて祝福しゅくふくするのはおなじだが、彼氏かれし名前なまえいても「イケメンだね」「やさしそうでいいな~」と調子ちょうしわせる。 おんなもこれまでとはちがうれしそうに彼氏かれしがいかにいいじんかをはなしつづけた。 しばらくしてじょ友達ともだちがトイレ

かねきなおう子供こどもきなおう

  とある世界せかいのおはなし。 おかねきな王様おうさまがいました。しろなかめられたおかねながめて、いつもうれしそうにわらっていました。 そしてもっとめたくて、なにかと理由りゆうをつけてみんからおかねてます。 みちをつくるからとぜいり、耕作こうさくひろげるからとぜいり、しろをなおすからとぜいりました。   でもみちをつくりわっても、べつみちをつくるからとぜいつづけます。 耕作こうさくひろわっても、べつ耕作こうさくひろげるからとぜいつづけます。 しろをなおしわっても、べつ場所ばしょをなおすからとぜいつづけます。 それどころか、またべつ理由りゆうあたらしいぜいてます。おかげでみんは、どんなにはたらいてもほとんどぜいられてしまいます。   これでは勤勉きんべんはたらものみんたちもつかれてしまい、どんどんくにててげてしまいました。 おかげでみんっていき、おうおさめられるぜいすくなくなっていきます。 「みんってはおかねまらないではないか! もっとみんやさねば」 そこで外国がいこくからひとめばみんえるとかんがえました。外国がいこくからひとやすいように、3年間ねんかん無税むぜいにしました。 その費用ひようまかなうため、またあらたなぜいてました。   おかげでさらにみんし、どんどんひとります。 また外国がいこくからひとたちも、無税むぜい期間きかんわればくにかえっていきました。 結局けっきょく、このくにみんり、ぜいおさめるじんがいなくなり、王様おうさままずしくなってしまいました。   一方いっぽうしたみんうつんださきおうは、とにかく子供こどもきなおうでした。子供こどもたちがしあわせにらせるようかんがえていました。 おや子育こそだてではたらけないだろうと、国庫こっこひら援助えんじょしました。おかげでおやたちは安心あんしんして子育こそだてできます。 だからどんどん子供こどもえていきました。   10ねん、20ねん、その子供こどもたちも大人おとなになり、一生懸命いっしょうけんめいはたらきます。ひとりひとりがおさめるぜいはわずかでも、たくさんのひとおさめればたくさんのおかねになります。 またわかひとほどよくはたらき、よくものもするので、くに全体ぜんたい活気かっきのあるゆたかなくにになっていきました。 おうえた税収ぜいしゅうをまた子供こどもたちのために使つかい、またひとえ、ゆたかになり、けば周辺しゅうへんでいちばんおおきなくにとなっていました。

スマホ投票とうひょう

 とある世界せかいのおはなし。 わかきIT起業きぎょうかんがえた。 「選挙せんきょ投票とうひょうをスマホからできればわかひと投票とうひょうりつがる!」 さっそく試作しさくアプリの開発かいはつをはじめた。 りすましでの投票とうひょうふせぐため、マイナンバーと生年月日せいねんがっぴ利用りようしようとかんがえた。 投票とうひょうした結果けっか役所やくしょ住民じゅうみんデータと照合しょうごうすれば、投票とうひょうけんひと判別はんべつもでき、集計しゅうけいしばたあいだわり予算よさん削減さくげんにもつながる。 これは一石二鳥いっせきにちょうだとかんがえた。 わかきIT起業きぎょうはこれを地域ちいき選挙せんきょ管理かんり委員いいんかいんだ。 担当たんとうしゃ提案ていあんをひととおりつぶやいた。 「おなじんなん投票とうひょうできちゃうじゃない」 「2かい投票とうひょうできないようロックできますし、最後さいご投票とうひょう有効ゆうこうにするルール設定せっていもできます」 「スマホの画面がめん名前なまえだけで投票とうひょうするって、まさしくえらべるとはおもえないな」 「候補者こうほしゃ名前なまえとサイトをリンクすれば、そのでどういうじんかも確認かくにんでき、よりよい選択せんたくができます」 「サイト? リンク?? まあしかし、わかひと投票とうひょうするかね」 「投票とうひょうしょかなくてもよいので投票とうひょうりつがるとおもいます。もし投票とうひょうしたひとにマイナポイントとう付与ふよすれば、よりたか効果こうか期待きたいできます」 「マイナポイントはわたし管轄かんかつじゃないから…まあしかし、マイナンバーを使つかうって適当てきとう入力にゅうりょくしてたったらどうするの」 「マイナンバーは12けた1ちょうパターンあります。これに誕生たんじょう月日つきひ365パターンをわせれば、365ちょうパターンとなり『適当てきとう』は無視むしできるかくりつです」 「そうはってもねえ…そういえばスマホ投票とうひょう個人こじん情報じょうほう漏洩ろうえいしたら大変たいへんだよ」 「投票とうひょう結果けっかはクラウドじょう保管ほかんされますが、マイナンバー12けた誕生たんじょう年月としつきけたわせで個人こじん特定とくていすることは不可能ふかのうです。この投票とうひょうデータをコピーし、ネットとはなされた役所やくしょない住民じゅうみんデータと照合しょうごうし、投票とうひょう結果けっか集計しゅうけいすれば問題もんだいありません」 「しかしね、それでも漏洩ろうえいしたらどうするんだ」 「365ちょうパターンから個人こじん特定とくていするなど、そもそも個人こじん情報じょうほうれていなければ不可能ふかのうです。なので住民じゅうみんデータが漏洩ろうえいしていないかげりありえません」 「それでも、それでもだよ、漏洩ろうえいしたらどうするんだ」 「それは事前じぜん漏洩ろうえいがあったことが前提ぜんていです。事前じぜん漏洩ろうえいしていたことがだい問題もんだいです」 「しかしひとがやることだから……そうだ! これだれだれ投票とうひょうしたかわかっちゃうんじゃない。そんなことできるとマスコミがだまってないよ」 「それはコンプライアンスの問題もんだい

まずしいむら

 とある世界せかいのおはなし。 中央ちゅうおうからはなれたまずしいむらがあった。日々ひびどうにからしていたが、およそ娯楽ごらく贅沢ぜいたくとは縁遠えんどおむらだった。 どのいえもおかねはなく、なにかあればたちまちべるものにもこま状態じょうたいだった。 そのためこまっているいえがあると『明日あした』と村人むらびとたちはたすけあった。 なにか不足ふそくしているいえがあれば、みなあたえた。どもは村人むらびと全員ぜんいんそだてた。病気びょうき年老としおいてはたらけないものがいれば当番とうばん世話ぜわをした。 おかげで村人むらびとたちには『なにかあってもみなたすけてくれる』という安心あんしんかんはあり、人々ひとびと不安ふあんなくあかるく、そんな大人おとなたちのしたどもたちもわらっていた。 あるおとこむら中央ちゅうおうへとうつんだ。 がせる財産ざいさんがないいえでは、子供こどもむら生計せいけいてるのはよくあることだった。 それから月日つきひながれ、おとこ中央ちゅうおう成功せいこう帰省きせいした。おさないころ面倒めんどうてくれたむら人々ひとびとにもおおくの土産みやげってかえった。 村人むらびとたちは『立派りっぱになった』『むらほこりだ』と口々くちぐちめたたえよろこんだ。 よろこんでもらうとおとこうれしくなる。さらに仕事しごとせいし、成功せいこうし、土産みやげっては帰省きせいするようになった。 以前いぜんおとこのように、むら若者わかものがいれば中央ちゅうおう場所ばしょはたらさき世話せわした。 中央ちゅうおう役人やくにんはたらきかけ、むらあたらしいみちいたり、病院びょういんてたりもした。 私財しざいげうち工場こうじょうて、若者わかものむらはなれなくてもはたらける場所ばしょつくった。 むら生活せいかつ格段かくだんゆたかになり、人々ひとびとは『まるで天子てんしさまだ』とおとこ感謝かんしゃした。 生活せいかつゆたかになると、村人むらびとたちは多少たしょうたくわえもつくれるようになった。 おかねめ、必要ひつようものしいものうようになった。 するとされにべつしくなり、それがつぎのやるとなり、さらにかせごうとはたらいた。 おかげでますますゆたかになり、いつしかおとこはな自力じりき発展はってんしていったが、いそがしさのあまり、徐々じょじょ周囲しゅういひとにしなくもなっていた。 そのむら発展はってんつづけ、すでにおおくの村人むらびと必要ひつようものしいものれていた。 かくいえっているものはほとんどなく、以前いぜんんのようにりをすることもなくなっていた。 それでも『なにかあったら』と人々ひとびとはおかねめつづけ、いつしかめるためにはたらくようになっていた。 くと村人むらびとたちは『あのいえかせいでいる』『このいえんでいる』とうわさするようになっていた。 一所懸命いっしょけんめいはたらいているのにかげうわさされると気分きぶんわるくなる。うわさされたいえ徐々じょじょ距離きょりをおくようになる。 する

クセのなおかた

 とある世界せかいのおはなし。 少年しょうねんぐんはいたんやりたい配属はいぞくされた。 この世界せかい戦争せんそうは、ゆみたいかけてきうごきをめ、そのあいだちょうやりたいよこいちれつ前進ぜんしんして距離きょりめ、騎馬きばたい突撃とつげきしててき陣形じんけいくずし、たんやりたい接近せっきん仕留しとめるながれになっている。 騎馬きばたいたんやりたいてきとの距離きょりちか危険きけんでもあるが、そのぶん花形はながたともいえた。 そんなたんやりたいなかでも、少年しょうねん配属はいぞくされた部隊ぶたい隊長たいちょう小柄こがらやさ、およそ軍人ぐんじんのイメージからはとお雰囲気ふんいきちぬしだった。 訓練くんれんこそ部隊ぶたいよりきびしいが、いつも隊員たいいんにかけ、およそおこったり怒鳴どなったりするところをたことがない。 そのため先輩せんぱい隊員たいいんたちもさくなひとおおく、少年しょうねんもすぐ馴染なじみメキメキうでをあげ、若手わかてのホープとして期待きたいされるようになった。 そんな少年しょうねんにはひとつわるいクセがあった。やりよこってしまうのだ。 やり使つかとき以外いがいたてち、穂先ほさきうえける。これは周囲しゅういひと穂先ほさききずつけないようにするため鉄則てっそくだ。 少年しょうねん当然とうぜん理解りかいしており、普段ふだんから意識いしきもしている。しかしつかれたり、ふと意識いしきゆるんだ瞬間しゅんかん、ついよこってしまう。 隊長たいちょうからなんたてつようわれ、先輩せんぱいたちからも注意ちゅういされる。ばちとして腕立うでたてやランニングをせられることもあったが、それでもなかなかなおらないまますうヵ月かげつぎた。 あるきびしい訓練くんれんえヘトヘトになったとき、またついよこやりってしまった。 その途端とたん、いつもやさ隊長たいちょうおに形相ぎょうそう少年しょうねんなぐばし『いい加減かげんやりよこつことをおぼえろ!』と怒鳴どなった。 少年しょうねんはもんどりうって地面じめんころがったが、あわててちあがるとやりたて謝罪しゃざいした。 隊長たいちょうったあと、先輩せんぱいたちが心配しんぱいしてってきた。口々くちぐちに『あの隊長たいちょうおこらせたのはおまえはじめてじゃないか』と冗談じょうだんった。 少年しょうねんなぐられたいたみより、やさしい隊長たいちょうおこらせたことがショックだった。 それ以来いらいやりにするたびに隊長たいちょうかおがうかび、よこつことはなくなった。 そして10ねん月日つきひながれた。少年しょうねん青年せいねんとなり、幾多いくた戦場せんじょういてきた。 立派りっぱたんやりへいとしていくつか手柄てがらて、ふく隊長たいちょう出世しゅっせ隊長たいちょう補佐ほさしていた。 ある若手わかて訓練くんれん報告ほうこくえたのち、ふとやりよこつクセがなおらずなぐられたことをおもした。 おかげでクセがなおりましたとれいうと、隊長たいちょうおもいだしてほほんだ。 「あのクセだけはなんってもなおらなかったからな。クセをじき

政治せいじ資質ししつ

 とある世界せかいのおはなし。 かれおさないころから人々ひとびとしあわせにしたいとおもっており、いつしか政治せいじになりたいとかんがえるようになった。 もう勉強べんきょうすえ大学だいがく政治せいじまなぶと同時どうじに、時間じかんがあれば経済けいざい福祉ふくし軍事ぐんじ自然しぜん科学かがくとう、とにかくやくちそうな知識ちしきにつけた。 またバイトは、あえて時給じきゅうやすひといやがる仕事しごとえらんだ。そこではたら人々ひとびとこえ気持きもちをりたかったからだ。 たまのやすみにはボランティアをしたり、ダムなどの公共こうきょう施設しせつ見学けんがくしてあるいた。 卒業そつぎょう公務員こうむいんとなった。実際じっさい内側うちがわりたかったからだ。あれがわるい、これを改善かいぜんしろというのは簡単かんたんだが、実際じっさいになぜそうなるのか、どういう改善かいぜん可能かのうなのかを体感たいかんしたかったのだ。 そして30さいえ、自分じぶんなりに「こうすればおおくのひとためになる」というこたえをつけ、かれ公務員こうむいんめて立候補りっこうほした。 見栄みばえもパッとせず、口下手くちべた演説えんぜつ上手うまいとはいえない。しかし誠心せいしん誠意せいいうったえればとどくはずだとしんじて街頭がいとうった。 選挙せんきょ資金しきんかぎられるので、とにかく自分じぶんでできることはあいだしんでやった。 この選挙せんきょには、かれおな年頃としごろ立候補者りっこうほしゃがいた。はじめはライバルというより、同志どうしのようにかんうれしかった。 しかしその立候補者りっこうほしゃ演説えんぜつ落胆らくたんした。 容姿ようしがよく耳障みみざわりのよいこえでおこなう演説えんぜつ人々ひとびとあしめ、またた評判ひょうばんになった。 だがその内容ないようは、およそ実現じつげん不可能ふかのうなことを派手はで宣言せんげんし、その具体ぐたいてき方法ほうほうしめさず『できます、やります、まかせてください』の一点張いってんばり。 ただ当選とうせんすることが目的もくてき中身なかみのないようにしかかんじない。 かれは、このような立候補者りっこうほしゃけるわけにはいかないと必死ひっし選挙せんきょ活動かつどうをつづけた。 そして投票とうひょう結果けっかがでた。かれ落選らくせんした。それも最下位さいかいだった。 一方いっぽうで『できます、やります、まかせてください』はトップ当選とうせんだった。 あきらかに自分じぶんのほうがすぐれた政策せいさくち、それを実現じつげんするため努力どりょくもしてきた。そしておおくのひとしあわせにしたいという気持きもちもだれにもけないつもりだ。 しかしそれは有権者ゆうけんしゃつたわらなかった。 そしてがついた。 どれほど努力どりょくし、よい政策せいさくあんっていても、相手あいてしんとどじゅつがなければ政治せいじにはなれない。 ぎゃく中身なかみはなくても、そのじゅつさえあれば政治せいじになれるのだと。

わらしべ長者ちょうじゃ

 とある世界せかいのおはなし。 まずしいおとこがいた。はたらものだが生活せいかつくるしく、どうにかならないかとなやんでいた。 あるよる枕元まくらもと観音かんのんさまがあらわれおとこげた。 「明日あしたいえてはじめににしたもの使つかいなさい。よくかんがえて使つかいなさい」 ましたおとこは『不思議ふしぎゆめたものだ』とおもったが、ものためしにしんじてみることにした。 翌朝よくあさおとこいえるといしにつまづいてころんでしまった。その拍子ひょうしちていた わら しべ( わらしん)をにぎっていた。 あき収穫しゅうかくえたばかりなので わら しべはあちこちにちていてめずらしくもない。 しかし観音かんのんさま言葉ことばおもし、これをあるした。 しばらくあるいていると、おおきなアブがおとこかおまわりをブンブンうるさくまわる。 あまりにうるさいのでこれをつかまえ、っていたわらしべにくくりけてやった。 するとアブはげようとするが、わらしべにつながれているため、ブンブンおとをたててグルグルまわるしかできない。この様子ようすがなかなか面白おもしろい。 おとこかんがえた。 「これをしがる子供こどもがいるかもしれない。あまおやならってくれとうかもしれない。そういえば今日きょう秋祭あきまつりのだ。おや財布さいふもゆるかろう」 そこでおとこは、アブをくくりけたわらしべをって秋祭あきまつりにかった。 秋祭あきまつりの場所ばしょには、おおくの人々ひとびとあつまっていた。 ブンブンおとをたててグルグルまわわらしべにつながれたアブは人目ひとめいた。 ねらどおりあるおとこが『しい』と父親ちちおやにせがみはじめた。父親ちちおや仕方しかたがないというかおで、ってほしいとおとここえをかけ、巾着きんちゃくぶくろから財布さいふりだした。 その巾着きんちゃくぶくろなか蜜柑みかんがいくつかえた。 おとこかんがえた。 「これをったところで、どうせしょうぜににしかならん。それより、今日きょう秋晴あきばれでのどかわくので、あまくさっぱりした蜜柑みかんしがるひとがいるかもしれない」 そこでおとこは、アブをくくりけたわらしべを蜜柑みかん交換こうかんした。 秋祭あきまつりの場所ばしょはなれしばらくあるいていると、道端みちばたかげやすんでいる行商ぎょうしょうじんつけた。 反物たんもの行商ぎょうしょうじんたびをしながらものあるひと)らしいが、秋晴あきばれのあつさでつかれてやすんでいるそうだ。 こういうときこそ、あまくて酸味さんみのある蜜柑みかん美味おいしい。 おとこ蜜柑みかん反物たんもの交換こうかんしないかとけると、行商ぎょうしょうじんのこった反物たんものでよければとおうじた。 おとこかんがえた。 「わらしべが反物たんものわった。これをみせればそこそこのかねになるかもしれんが、もとがのこりなのでいたたかれるだろう。それよりも

それぞれ

 とある世界せかいのおはなし。 あるおとこ仕事しごと途中とちゅうでラーメンてんまえとおりかかり、豚骨とんこつにおいにちどまった。 はらはすいていなかったが、無性むしょうべたくなりてんにはいった。 仕方しかたがない。美味おいしいものにひかれるのはひと習性しゅうせいだ。 あるおとこ仕事しごと途中とちゅうでラーメンてんまえとおりかかり、豚骨とんこつにおいにちどまった。 はらがすいていたが、豚骨とんこつにおいは苦手にがてなのでとおりすぎた。 仕方しかたがない。美味おいしいものでもこのみがかれるのは個性こせいだ。 あるおとこ配達はいたつ途中とちゅうでラーメンてんまえとおりかかり、豚骨とんこつにおいにちどまった。 はらがすいていて豚骨とんこつラーメンは好物こうぶつだが、仕事しごとちゅうなのでとおりすぎた。 仕方しかたがない。べたくても感情かんじょうおさえるのが理性りせいだ。 あるおとこ散歩さんぽ途中とちゅうでラーメンてんまえとおりかかり、豚骨とんこつにおいにちどまった。 はらがすいていて豚骨とんこつラーメンは好物こうぶつ時間じかんもあったが、食事しょくじ時間じかんではないととおりすぎた。 仕方しかたがない。おとこまった時間じかん食事しょくじをとるのが習慣しゅうかんだ。 それぞれの選択せんたくは、そのときのそれぞれの正解せいかいだ。 仕方しかたがない。