4月から全面開場した需給調整市場が、深刻な機能不全に陥っている。調整力の募集量に対して応札量が極端に少なく、全商品で必要量の2〜8割が不足する異常事態が続いているのだ。落札価格も高騰しており、特に東京エリアの三次調整力②では1カ月の落札総額が「2023年度1年分の落札総額」に匹敵する規模に膨張している。調整力の調達価格が膨らむと、託送料金などの形で国民負担を増大させる。早急な対応が不可避だが、国の動きは鈍く、正常化の道筋は見えない。
需給調整市場とは、電力の需給バランスや周波数制御に必要な調整力(ΔkW)を調達する新しい仕組みだ。この市場の導入前は、東京や関西などの電力エリアごとに、一般送配電事業者が個別に調整力(調整電源)を公募・調達していた。しかし、調整力の効率的な調達や、調達コストの透明化などを目的として、2021年度に需給調整市場が創設された 。
需給調整市場は対応する需要変動別に5つの商品で構成されている(図1)。商品の性質を決める主たる要素は、応動時間(送配電の指令を受けてから発電出力が実際に変化するまでの時間)と、継続時間(指令された出力を継続する時間)だ。最も応動時間が短く、秒単位の瞬間的な変動に対応するのが一次調整力であり、二次調整力は一次よりも応動時間が長い。三次調整力はさらに余裕のある応動時間になっている。
対応する変動ごとに5つの商品で構成される
図1●需給調整市場の商品区分と導入スケジュール(出所:資源エネルギー庁)
需給調整市場の商品には、毎日取引が行われるもの(前日商品)と、週に1度だけのもの(週間商品)とがある。三次調整力②は毎日、翌日分の入札・約定が行われるが、その他の一次〜三次調整力①は、土曜日から金曜日までの1週間分を直近の火曜日にまとめて約定する仕組みだ。
2021年度に需給調整市場が開場した際は、三次調整力②の取引だけが始まり、2022年度に三次調整力①が、そして2024年度から一次・二次調整力の取引が開始された。つまり、この4月に初めてすべての商品の取引が始まったばかり。今年こそが”需給調整市場元年”なのである。
極端な応札不足が1カ月以上継続
しかし、需給調整市場の幕開けは惨憺(さんたん)たるものだ。というのも、2024年3月26日に実施した週間商品の初取引から、全面的な応札不足に陥っているからだ。
図2は4月1日から5月半ばまでの、各商品の募集量と応札量である。ほとんどの商品で極端な応札不足となっていることが分かるだろう。
需給調整市場は全面的な応札不足が続いている
図2●2024年4~5月半ばの需給調整市場各商品の募集量と応札量(出所:電力広域的運営推進機関)
特にひどいのは一次・二次調整力①で、募集量に対する不足率が70〜80%に達する。それ以外の商品でも20〜70%の不足が常態化している。
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