徳永とくなが英明ひであき、セルフカヴァーで今いまこそ伝つたえる楽曲がっきょくのメッセージ　原曲げんきょくとの違ちがいを全曲ぜんきょく解説かいせつで読よみ解とく

　德永とくなが英明ひであきがセルフカヴァーアルバム『永遠えいえんの果はてに～セルフカヴァー・ベストI～』を発表はっぴょうする。ここ近年きんねんは女性じょせい歌手かしゅの楽曲がっきょくカヴァーで構成こうせいされた『VOCALIST』シリーズの印象いんしょうが強つよいが、彼かれの本領ほんりょうはオリジナルナンバーだ。本ほん作さくでは、1986年ねんから1994年ねんの間あいだに世よに出でた名曲めいきょくがセレクトされて、新しん録音ろくおんされている。これらの楽曲がっきょくがどのように変化へんかし、成長せいちょうしたのかを分析ぶんせきしてみたい。

1. 永遠えいえんの果はてに

　アルバムタイトル曲きょくであり、德永とくながにとっては「歌手かしゅ生命せいめいが尽つきるんじゃないかと思おもうほど魂たましいを込こめて作つくった」と語かたるほどの重要じゅうような一いち曲きょくだ。オリジナルは1994年ねんのシングルであり、本ほん作さくでは最もっとも新あたらしい楽曲がっきょくではあるが、それでも24年ねん前まえのナンバーである。原曲げんきょくはシンセを使つかったアレンジが広ひろがりを感かんじさせるものだったが、ここではピアノを中心ちゅうしんとしたシンプルなバンドにストリングスをかぶせたクラシカル・ロック風ふうのサウンドになっている。今回こんかいのセルフカヴァーアルバムでは、基本きほん的てきに特記とっきするもの以外いがいは、『VOCALIST』シリーズでもタッグを組くむ坂本さかもと昌之まさゆきがアレンジを担当たんとう。輪廻りんね転生てんせいの思想しそうを背景はいけいに、生命せいめいの尊とうとさを伝つたえる歌うたの世界せかいは、彼かれの楽曲がっきょくの中なかでも屈指くっしのスケール感かんを誇ほこるドラマチックな内容ないようだが、德永とくながの安定あんていした歌唱かしょうで安堵あんど感かんとともにじっくりと聴きかせるのはさすが。オープニングには申もうし分ぶんない一いち曲きょくだ。

2. 最後さいごのい訳いわけ

　1988年ねん発表はっぴょう6枚まい目めのシングルで、ベストアルバム『ALL TIME BEST Presence』ではオープニングだったこともあり、初期しょき楽曲がっきょくの中なかでも非常ひじょうに重要じゅうような一いち曲きょくと言いえるだろう。原曲げんきょくのアレンジではピアノが効果こうか的てきに使つかわれていたが、ここではあえてそれをギターに差さし替かえ、スネアのブラッシングによるリズムで音おと数すうを最小限さいしょうげんに抑おさえたサウンドになっている。またサビで声こえを張はり上あげるのが特徴とくちょう的てきな楽曲がっきょくだったが、今回こんかいはチェロの多重たじゅう録音ろくおんに導みちびかれながら比較的ひかくてき抑おさえめの歌うたい方かたにすることにより、じわりと心しんの襞ひだに入はいり込こんでくるような表現ひょうげんを試こころみている。このアルバム全体ぜんたいに言いえることだが、ヒット曲きょくを、原曲げんきょくの雰囲気ふんいきに呑のまれるのではなく、きっちりと歌うた本来ほんらいが持もつ意味いみを伝つたえようとしていることに好感こうかんを持もてるし、説得せっとく力りょくも増ましている。

3. 壊こわれかけのRadio

　これも、德永とくながの初期しょきを代表だいひょうする名曲めいきょくのひとつ。1990年ねん発表はっぴょうの10枚まい目めとなるシングルヒット。セルフカヴァーでは、こういった誰だれもが知しっている楽曲がっきょくほど料理りょうりするのが難むずかしい。しかも、少年しょうねんから大人おとなに変かわるという微妙びみょうなうつろいを描えがいたこのような曲きょくを歌うたうなら、年齢ねんれいが若わかい方ほうが有利ゆうりかもしれない。しかし、今いまの德永とくなががフェイクもせずに丁寧ていねいに歌うたうことで、少すこし達観たっかんしたかのようなさ深ふかみがにじみ出でているように感かんじられる。また、意外いがいにもハードなエレクトリックギターのストロークから始はじまり、ザラッとした手触てざわりのアレンジを施ほどこすことによって、原曲げんきょくが持もつエモーションを損そこなうことなく大人おとなっぽい雰囲気ふんいきに仕上しあげているのも見事みごとだ。

4. MYSELF ～風ふうになりたい～（Tokunaga's Track Remix）

　1989年ねん発表はっぴょうの8枚まい目めのシングル曲きょく。原曲げんきょくは少すこしエスニック調ちょうのアレンジが特徴とくちょう的てきだったが、ここではハードでエッジの効きいたギターや、少すこしブルージーにうねるリズムセクションが非常ひじょうに躍動やくどう的てきで、ガラッと印象いんしょうが変かわっている。サウンドがヨーロッパからアメリカへと変化へんかしたというと、わかりやすいかもしれない。この曲きょくは今回こんかいのための新しん録ろくではなく、2016年ねんのシングル『君きみがくれるもの』のカップリングに収おさめられていたロックバージョンをリミックスしたもの。德永とくなが自身じしんがキーボードを演奏えんそうし、アレンジも自身じしんで行おこなっている。ボーカルも原曲げんきょくよりも骨太ほねぶとになっていて、バラードシンガーのイメージとはまた違ちがう德永とくながの魅力みりょくが引ひき出だされている。

5. 僕ぼくのそばに（Self Cover Ver.Remix）

　この曲きょくも新しん録ろくではなく、昨年さくねん発表はっぴょうしたオリジナルアルバム『BATON』のボーナストラックとして発表はっぴょうされたバージョンをリミックス。原曲げんきょくは1993年ねん発表はっぴょうの18枚まい目めとなるシングル曲きょくだ。ピアノ、ベース、ギターというリズムレスの編成へんせいによるアコースティックなアレンジが、メロディの美うつくしさを引ひき立たてている。原曲げんきょくの刹那せつな的てきな面影おもかげを残のこしながらも、温あたたかみのあるボーカルによって、この曲きょくの歌詞かしが本来ほんらい持もっている包容ほうよう力りょくがふんだんに表現ひょうげんされている。約やく25年ねんの月日つきひが経たっているということもあり、同おなじ歌詞かしでも表現ひょうげん力りょくによって、楽曲がっきょくが持もつ意味いみや力ちからが変化へんかするのだということを、まざまざと感かんじさせる一いち曲きょくと言いってもいいだろう。