豊田とよだ道みち倫りん×澤部さわべ渡わたりが語かたる、パラダイス・ガラージのポップ性せい「ドキドキする感覚かんかくが久々ひさびさに戻もどってきた」

　豊田とよだ道みち倫りんが、パラダイス・ガラージ名義めいぎで18年ねんぶりのアルバム『愛あいと芸術げいじゅつとさよならの夜よる』を発表はっぴょうした。同どう作さくは豊田とよだ道みち倫りんとしては約やく3年ねんぶり、パラダイス・ガラージとしては2000年ねん『愛情あいじょう』以来いらいとなるアルバムだ。収録しゅうろく曲きょくはすべて豊田とよだ自身じしんがミックスまで手掛てがけており、The Beatlesのリマスター盤ばんでグラミー賞しょうを受賞じゅしょうしたSean Mageeがマスタリングを担当たんとうするなど音質おんしつへのこだわりも感かんじられる作品さくひんに仕上しあがっている。

パラダイス・ガラージ（PARADISE GARAGE）「TOKYO GIRL'S BLACK BAY」

　今回こんかいリアルサウンドでは、豊田とよだのライブに10年ねん以上いじょう足あしを運はこび、親交しんこうの深ふかいアーティスト・澤部さわべ渡わたり（スカート）と豊田とよだの対談たいだんを企画きかく。澤部さわべをはじめ、才能さいのう豊ゆたかな音楽家おんがくか・芸術げいじゅつ家かを志こころざす若者わかものたちが次々つぎつぎと虜とりこになってしまうという豊田とよだ道みち倫りんの音楽おんがく／アーティストの魅力みりょくはどんなところにあるのだろうか。パラダイス・ガラージの待望たいぼうのアルバムをき込きこんだ澤部さわべから、豊田とよだに率直そっちょくな感想かんそうや質問しつもんを投なげかけてもらった。（編集へんしゅう部ぶ）

“強引ごういんさ”と“身みのこなしの上品じょうひんさ”があるアルバム（澤部さわべ）

澤部さわべ：新作しんさく『愛あいと芸術げいじゅつとさよならの夜よる』びっくりしました。相変あいかわらず人ひとを驚おどろかせようとする方ほうなのかなと。最初さいしょのノイズから豊田とよださんの声こえが聞きこえる感かんじが……何なにて言いうんですかね……変へんない方いかたですけど、すごい久ひさしぶりな感かんじがして。誤解ごかいを招まねく表現ひょうげんかもしれませんですけど、聞きいていて懐なつかしいとも思おもいました。パラダイス・ガラージのアルバムってどれも1曲きょく目めのインパクトが今いままでも素晴すばらしかったと思おもうんです。今回こんかいもまさに『愛情あいじょう』（2000年ねん）以降いこうという感かんじがすごくして。そのあたりは意識いしきされてたんでしょうか？

豊田とよだ：1曲きょく目め「paradise garage band」は俺おれもよくわからなくて、このミックスを冷ひえ牟田むた敬たかしくん（冷ひや牟田むた敬たかしband、豊田とよだ道みち倫りん & mtvBAND、元もと Paradise、昆虫こんちゅうキッズ）に送おくったのよ。で、エレキギターの音おとは全部ぜんぶラインだったんだけど、「これいいじゃないですか」って言いわれて。それがきっかけで今回こんかいはいっさいアンプの音おとは使つかわないでラインで行いこうと決きめたね。これで「ノイズがしょぼい」って言いわれたらすぐ変かえてたかもしれないけど。わりと人ひとの意見いけんは聞きくようにしたね。

澤部さわべ：今いまのラインの話はなしで一ひとつ思おもい出だしたのが、豊田とよだ道みち倫りんwith昆虫こんちゅうキッズ『ABCD』の冷ひや牟田むた敬たかしくんのギターって全部ぜんぶラインでしたよね。あとでリアンプ（アンプやエフェクターを通とおさずに録音ろくおんし、後ごからアンプ等とうを通とおして音おと作づくりする作業さぎょう）するからって言いって始はじめたけど、結局けっきょくこの音おとがいいんじゃないかみたいな。アウトローな選択肢せんたくしですよね、空気くうきを通とおさないっていうのは。

豊田とよだ：どうかなっと思おもったけど、まあええわと思おもって（笑）。

澤部さわべ：そもそも、なんでパラダイス・ガラージで新作しんさくを出だそうと思おもったんですか？

豊田とよだ：『実験じっけんの夜よる、発見はっけんの朝あさ』が1998年ねん9月がつ15日にち発売はつばいなので、その節目ふしめってわけじゃないけけど、いろんな要素ようそが集あつまって宅たく録ろくがしたいと思おもい始はじめたんだよね。MacBook Proを買かうお金かねはなかったけどMacBook Airならと思おもってApple Storeに行いったんだけど、Logicが使つかいたいって言いったら「30トラックくらい使つかうんだったらダメです」って言いわれて。でも「10トラックくらいしか使つかわないです」って言いったら「じゃあAirでもいいです」って（笑）。それでAirを買かった（笑）。

澤部さわべ：えー！　そうだったんですね！

豊田とよだ：実際じっさいトラック数すう、10〜15しか使つかってないから。

澤部さわべ：すごい！

豊田とよだ：なんにもすごくないよ（笑）。

澤部さわべ：実際じっさい僕ぼくもカセットの4トラックで多重たじゅう録音ろくおんをしていたのが最初さいしょということもあるのでトラックは少すくなめな方ほうだと思おもうんですけど、豊田とよださんも最初さいしょ8トラックでしたっけ。

豊田とよだ：一番いちばんはじめはカセット4トラック。でも『ROCK'N'ROLL 1500』（1995年ねん。パラダイス・ガラージのデビュー作さく）のときは8トラックだね。

澤部さわべ：トラック数すうが減へることでポップさが増ますってところもあると思おもうんですよ。音おと数すうが増ふえれば増ふえるほど豪華ごうかにはなるけど、なにを見みたらいいかわからなくなると思おもうんですよね。

豊田とよだ：くるりとかはトラック数すう100とか使つかってるらしいけどね。

澤部さわべ：100トラックを使つかう凄すごみはもちろんあると思おもうんですけど、豊田とよださんが持もってるポップさはどこを見みたらいいかすぐわかるところにあると思おもうんです。このアルバムにはそれがしっかりあった気きがします。昔むかし、豊田とよださんのライブ会場かいじょうで売うってた『I Like You EP』（2006年ねん）っていう作品さくひんが好すきなんですけど、あれもGarageBand録音ろくおんでしたね。その時ときよりも明あきらかにポップの密度みつどが違ちがう気きがするんですよね。で、曲きょくの構造こうぞうが……。

豊田とよだ：簡単かんたんよね。

澤部さわべ：いやいやいやいや！　全然ぜんぜん簡単かんたんじゃないでしょ！　今回こんかいのアルバム。

豊田とよだ：いや、簡単かんたんだけどね。

澤部さわべ：全然ぜんぜん違ちがいますよ！　もう、なんていうんですかね……転調てんちょうのしかたとかが、おかしいんですよ。豊田とよださんのパラガ節ぶし、とまでは言いえないかもしれないですけど、「あー！　こういくんだ！」みたいなものの連続れんぞくがパラダイス・ガラージの一ひとつの快かい楽らくなんです。

豊田とよだ：3曲きょく目め「やられちゃったおじさん」とか、よくわからないよね。強引ごういんにキーが変かわるし。あれも手てグセでやってて。

澤部さわべ：あの強引ごういんにもってかれる感かんじがすごいんですよ。強引ごういんなだけだったらいろんな人ひとがやってると思おもうんですけど、でも、そうじゃない。あきらかな身みのこなしの上品じょうひんさというか。僕ぼくはこのアルバムは特とくにそれを感かんじました。

豊田とよだ：近年きんねんのサニーデイ・サービスの曽我部そがべ恵一けいいちくんもずっと基本きほんは宅たく録ろくだよね。『DANCE TO YOU』（2016年ねん）を聞きいて「もう、手ても足あしも出でないな」「なんでこんなに音おとがいいんだろう」って。俺おれはどうしたらいいかわからなくて、しょうがなくしょぼしょぼ作つくりましたね。たしか、9月4日にちに久下くげ惠めぐみ生せいさんのライブがあったんです。そのとき、澤部さわべくんとも会場かいじょうで会あったよね。でも音源おんげんはできてなくて、発売はつばいは1カ月かげつ後ごだったんだけど（笑）。

澤部さわべ：すごいスケジュールですね……！　アルバムを作つくろうと思おもったときに、どの曲きょくができたからアルバムが作つくれるみたいなときってあるじゃないですか。それに相当そうとうする曲まがってどの曲きょくだったんですか？

豊田とよだ：7曲きょく目めの「飛田ひだの朝あさごはん」だけ2016年ねんに書かいてて別べつなんだけど、何なん曲きょくか録音ろくおんしつつ、3曲きょく目めの「やられちゃったおじさん」。これを録音ろくおんしてるときに軽かるく歌うたっただけなのにレーベルから「良よい」って言いわれて、じゃあこの路線ろせんでいこうって。それで決きまったね。今回こんかいはZOOM R8というインターフェースを使つかってて、その内蔵ないぞうマイクもかなり使つかってる。

澤部さわべ：ステレオマイクみたいな音おとがありますよね。あれは内蔵ないぞうのものなんですか？

豊田とよだ：うん。2曲きょく目めの「果はてるなどして」の歌うた、ギターも。スタジオ・テクニックがないから、そういったところで違ちがったことを試ためさないとすぐ音おとに飽あきる。

澤部さわべ：だからこそ奔放ほんぽうに音おとが変かわっていくんですよね。それもめちゃくちゃ気持きもちがいいし、また、どの曲きょくも曲きょくのはじまりと終おわりがすごい曖昧あいまいというか。

豊田とよだ：たしかにね（笑）。よくわかんないよね。

澤部さわべ：それもなんかすごい……なんていったらいいかすごく難むずかしいんですけど……それがなにか一ひとつこのアルバムを通とおして流ながれる、ただの気楽きらくな宅たく録音ろくおん源げん集しゅうじゃない感かんじをもたらしているんですよ。

豊田とよだ：ただのお気楽きらくだよ（笑）。

澤部さわべ：ぜんぜんそんな感かんじしないじゃないですか。少すこし前まえにどついたるねんとのインタビューを読よんでたら「おもちゃっぽい」という発言はつげんもあって、実じつは今回こんかいの新作しんさく、ちょっと心配しんぱいしてたんですよ……！

豊田とよだ：（爆笑ばくしょう）。たしかあのとき曲きょくは半分はんぶんくらいできてたかな。なんもなかったよ、自信じしんは。

澤部さわべ：でも実際じっさい聞きかせてもらって、豊田とよださんの頭あたまの中なかを見みてるんじゃないかってくらいドキドキするような感覚かんかくが、久々ひさびさに戻もどってきたような気きがするんです。豊田とよださんがフォークギター1本ほんでライブで歌うたってるときも別べつの情景じょうけいが歌うたの中なかから湧わき上あがってくる感覚かんかくがあるんですけど、このアルバムは1曲きょくごとにたくさんのパラレルワールドが音像おんぞうの中なかに詰つまっている気きがして。正直しょうじき怖こわいくらい、です。『愛あいと芸術げいじゅつとさよならの夜よる』にはある種しゅの豊田とよださんの問題もんだい意識いしきが出でてると思おもうんですよ。いろんなトラックメイキングがある中なかで、9曲きょく目めの「ソフトランディング」で弾ひき語がたりにバッとふれるんですけど、アルバム全体ぜんたいで聞きくと、この曲きょくが単たんなる弾ひき語がたりではない、もっと濃密のうみつなもののような気きがする。あんまり意識いしきして作つくっていらっしゃらないかもしれないんですけど、それがこのアルバムの肝きもだと思おもったんです。

豊田とよだ：その曲きょくは入いれるか若干じゃっかん迷まよってたんだよね。いくつかテイクがあるけど、これでまあええかって。

澤部さわべ：「ソフトランディング」のテイクは、素すっ裸ぱだかなんだけれどもそうではない、豊田とよださんの歌うたの凄すごみの真骨頂しんこっちょうなような気きがしましたね。歌うたもステレオですよね。

豊田とよだ：これもZOOMの内蔵ないぞうマイク。

澤部さわべ：それが生々なまなましいし、でもすごいロマンチックだし。本当ほんとうに感動かんどうしました。

豊田とよだ：そっか。俺おれはあんまり聞きいてないんだよな。ちょっと怖こわくて。

澤部さわべ：最後さいごの〈失敗しっぱいだった〉っていう言葉ことばが出でてきてまたドッキリするんですよ。「失敗しっぱい」という言葉ことばは、『実験じっけん〜』を思おもい出だすフレーズですよね。すごくドキドキしました。それでしばらく間あいだがあって、最後さいごの「君きみの往ゆく道みち、私わたしの喫茶店きっさてん」に続つづくっていう構成こうせい、やっぱりパラガはすごいと思おもいました。