J-POPシーンの最前線で活躍する振付師にスポットを当て、そのルーツや振付の矜持をインタビューで紐解いていく連載「振付から紐解くJ-POPの現在地」。第7回となる今回は、アイドルのMVから広告CMまで幅広く振付を担当する竹中夏海に取材した。後編となる本稿では、振付するときの音のはめ方へのこだわりや、人生の転機になったという仕事について、また今後一緒に仕事をしてみたいと思う人についても話してもらった。(編集部)
■連載「振付から紐解くJ-POPの現在地」インデックス
第1回:s**tkingz
第2回:TAKAHIRO 前編/後編
第3回:辻本知彦
第4回:YOSHIE
第5回:リア・キム
第6回:akane
楽曲の第一印象を忘れないために「最初に即興で踊ってみる」
――いろいろと振付をされてきた作品を拝見して、ダンサー出身の方だと得意なジャンルや動きを混ぜてくる方が多い印象があるのですが、竹中さんの場合はかなり幅広くいろんな振りやジャンルが混ざっていて。でも特にアイドルの楽曲だと「キラキラした、夢がある雰囲気」というのは一貫している気がして、先ほどテーマパークのダンスという話がチラッと出てきたので、なるほどと。あとバトン部なども経由されていたということで、小道具を使うダンスもすごく魅力的ですね。PASSPO☆でのキャリーバッグとかポンポン、扇子とか。
ぱすぽ☆ - 夏空HANABI
竹中:小道具を使うのは好きですね。ブロードウェイのようなシアタージャズ的なダンスもすごく好きなんですが、扇子を使いながら貴婦人が歩いてきたり、キャリーバッグを引きながらくるっと回ったりという動きに憧れもあるので、何かと使いたいんです。PASSPO☆では花火がテーマの「夏空HANABI」という曲で、パッと一瞬で咲く花火をどう踊りで表現できるだろう? と思ったときに、動きだけでなく小道具を使いたいなと思ったんです。和がテーマでもあったので、番傘か扇子だと考えて、マイクも持ちながら使える扇子にしました。日本の扇子だとすっと開かないので、一瞬で片手で開けるフラメンコ用のアバニコという扇子を探してきて、メンバーカラーが揃うかも確認して、レーベルやマネージャーさんに「扇子ならそんなに高くもないし、壊れたとしても買い換えも利くので」といったプレゼンをたくさんして(笑)、OKをもらったという感じです。
――なるほど。あと素朴な疑問ですが、振付するときの音のはめ方にこだわりのようなものはありますか?
竹中:作品によって違う部分もありますが、私が振付する作品には基本的に歌がついていることのほうが多いので、その場合はオケを聴くだけでなく、自分でも歌いながら作ります。歌いながら気持ちよく踊れるリズムを探しますね。
――以前に「振付するときには一度即興で踊ってみる」と話されていた記憶があります。
竹中:最初に即興で踊ってみるのは、その音に合わせて動いて気持ちいいリズムや動きというものを、何回も聴いていると忘れてしまいがちなので覚えておくためですね。歌っていて、たとえば高い音のときにはやっぱり手を上げたくなる、などの自然な流れは意識して作ります。あとは「この動きだったら歌いやすいかな」「この部分だったらターンしても歌に支障が出ないかな」といったことも考えながら。
――その辺りは、ご自身がミュージカルをやられた経験が活きているんでしょうか?
竹中:振付を始めた最初のころ、歌いやすさについてはあまり意識していなかったんです。なぜかというと、最初に振付を担当したアイドルがPASSPO☆(全楽曲中の約8割を担当)だったんですが、初期のPASSPO☆は基本的にAメロ~Bメロがユニゾンだったんです。それだとなんだかんだで歌いながら踊れてしまうので、あまり歌のことを気にせずに振付をどういうふうに見せたいか、この子たちをどう見せたいかということしか考えていなかった。でもその2~3年後にアップアップガールズ(仮)の楽曲を担当することになって、彼女たちの楽曲は歌割が複雑なので振付に合わせてだと歌いづらくなってしまうケースが出てきたんです。アイドルはダンサーなわけではないですし、歌って踊ってなんぼなので、そこからはすごく意識して作るようになりました。とくにソロパートはその子にとってすごく大切なものなので、そこを邪魔せず立たせる形で、どんなに引きで見ても「この子が今歌っているんだな」とわかるように示しつつ、歌を邪魔しない動きというのを考えるようになりました。
――以前に竹中さんの著作の『IDOL DANCE!!! ―歌って踊るカワイイ女の子がいる限り、世界は楽しい―』で“万華鏡”とか“渡り鳥”といったあだ名が付いている複雑なフォーメーションを図で解説されていましたが、ああいうフォーメーションのユニークさも竹中さんの振付の素晴らしいポイントだと思います。あれはどうやって考えるんでしょうか?
竹中:大人数で踊るチアの経験が反映されている部分はあると思います。それこそ初期のPASSPO☆ですとか、振付師を初めて1~2年のころはチアの考え方をベースに「この子を今真ん中に立たせたい」とか「今この子を前に持ってきたい」という部分に集中して考えていましたが、それはユニゾンだからできていたことなんだということにあとから気づきました。今は基本的に歌割を優先しながら組んでいきます。先ほど言ったように「この子が今歌っている」というのが分かるようにするのが大前提ですね。例えばその子がセンターにいなくて端っこだとしても、みんながその子を見ているとか、一番後ろにいたんだけれども、その子が歌うときにパッとみんなが開いてその子が見えるようになって前に移動して来る……だとか。歌割が地図のような役割を果たしていて、それで自然にできていく部分はあります。もちろん歌割によって縛りが出るので逆に悩まされることもあるんですけれども、助かることも多いですね。
あとは歌詞と動きをリンクさせることはありますが、動きではなくて歌詞をフォーメーションで表現することもあります。例えばPASSPO☆の「WING」で〈回転ドアのような日々〉という歌詞が出てくるときに、メンバーが4人くらい手を合わせてそれをぐっと押すと回るという動きにしたこともありました。
ぱすぽ☆ - WING(Short Ver.)
――竹中さんの振付は、人数が多くなるほど面白くなるイメージがあります。
竹中:メンバーが奇数のグループだと組みやすいですね。私は9人組がベストだと思っています。センターも作れるし、3人×3人×3人という形にもできるので、フォーメーションのパターンが多くなると。逆に偶数は難しいです。センターを作ろうと思うと、歌割的にソロパートの子をセンターに置きたいけれども、そうするとどうしても位置的にかぶってくる子が出てきたり。もちろん少し立ち位置をずらしたりはするんですけれども、ずらすと今度は前後左右どちらかに人数が偏ってしまったりするので悩みどころですね。
――いろいろお話をお聞きしていると、振付師さんなんですけれども、複合的な視点をお持ちだなと感じます。連載(引用:Cakes)でも同業の振付師の方はもちろん、プロデューサーや作詞家、衣装デザイナー、ボイストレーナーの方とも対談されていたりして、振付やダンスというものを本当にあらゆる側面から見ていらっしゃるんだと。
竹中:多分他の振付師さんやダンサーなどダンス業界の方より、よく言えば思考が文化系なんだと思います。ダンス業界の方って、感覚とかフィーリングで生きていらっしゃる方がすごく多いんですよ。だからダンスを言語化するのがあまり得意ではないというか、それよりも「動いて、感じて」という方向性ですね。私は文化系脳で、普通にオタクなんだと思うんですが、いろいろ理屈やギミックを含めて、ダンスや振付をあれやこれやと研究したいんです。