中村なかむら倫りん也主演しゅえんドラマ『美食びしょく探偵たんてい 明智あけち五郎ごろう』、世界せかい観かんを盛もり上あげる音楽おんがくはどう生うまれた？　音楽家おんがくか 坂東ばんどう祐ゆう大だいインタビュー

　東村あずまむらアキコの原作げんさくコミックを中村なかむら倫りん也主演しゅえんで実写じっしゃ化かした連続れんぞくドラマ『美食びしょく探偵たんてい 明智あけち五郎ごろう』（日本にほんテレビ系けい）が人気にんきだ。新型しんがたコロナ感染かんせん拡大かくだい防止ぼうしの影響えいきょうから第だい6話わ放送ほうそうまでで一旦いったんストップし、Huluオリジナルストーリーを加くわえた特別とくべつ編へんが3週しゅうにわたって放送ほうそうされていたが、6月14日にちから最終さいしゅう章しょうへ向むけての放送ほうそうが再開さいかいする。美食びしょく家かの探偵たんてい・明智あけち（中村なかむら）が連続れんぞく殺人鬼さつじんき・マグダラのマリア（小池こいけ栄子えいこ）の真相しんそうとハートに迫せまる異色いしょくサスペンスで、その世界せかい観かんを、作曲さっきょく家か・音楽家おんがくかの坂東ばんどう祐ゆう大だいによる音楽おんがくがより盛もり上あげている。

　独特どくとくの世界せかい観かんを象徴しょうちょうするドラマチックなメインテーマには一いち度ど聴きいたら忘わすれられない中毒ちゅうどく性せいがあり、SNSなどでも「クラシックの匂においがして好すき」「音楽おんがくだけで世界せかい観かんが分わかる」「ミステリアスでゾクゾクする」と評判ひょうばんを集あつめている。1991年ねん生うまれで、東京藝術大学とうきょうげいじゅつだいがく作曲さっきょく科かを首席しゅせきで卒業そつぎょうした坂東ばんどうは、クラシック、現代げんだい音楽おんがくのメインフィールドだけでなく、中島なかじま哲也てつや監督かんとくの映画えいが『来くる』や、米津よねつ玄げん師し 「海うみの幽霊ゆうれい」「馬うまと鹿しか」「パプリカ」「カイト（NHK2020ソング・歌唱かしょうは嵐あらし）」にて共同きょうどう編曲へんきょくを務つとめるなど、ジャンルを超こえて活躍かつやくする新進しんしん気鋭きえいの音楽家おんがくかだ。

　2016年ねんにはクラシックの演奏えんそう家かによって結成けっせいされた次世代じせだい型がたアンサンブルの「Ensemble FOVE（アンサンブル フォーヴ）」を立たち上あげ、現在げんざい、Ensemble FOVEも参加さんかした『美食びしょく探偵たんてい  明智あけち五郎ごろう』のオリジナルサウンドトラックが発売はつばい中ちゅう。そんな坂東ばんどうに『美食びしょく探偵たんてい』の音楽おんがくについてはもとより、劇げき伴ともへの意識いしきや、こうした状況じょうきょう下かだからこそ改あらためて感かんじる音楽おんがくの意義いぎ、今後こんごのビジョンなどを聞きいた。（望月もちづきふみ）

バラエティ豊ゆたかなラインナップを狙ねらいつつ、世界せかい観かんの統一とういつを意識いしき

ーードラマとともに音楽おんがくも好評こうひょうです。

坂東ばんどう祐ゆう大だい（以下いか、坂東ばんどう）：ありがとうございます。アニメーションの『ユーリ!!! on ICE』（松まつ司馬しば拓たく名義めいぎ）と映画えいが『来くる』で映像えいぞう音楽おんがくの経験けいけんはありますが、実じつはドラマは初はじめてなんです。いわゆるゴールデンプライムタイムに地上波ちじょうはで流ながれるので、Twitterのトレンドに「美食びしょく探偵たんてい」と出でてくるのが面白おもしろいです。

ーーリアルタイムで反応はんのうが分わかりますからね。

坂東ばんどう：ただ9割わりが「中村なかむらさん、かっこいい」ですけどね（笑）。

ーー作曲さっきょくにあたって、制作せいさく側がわから最初さいしょに何なにかリクエストはあったのでしょうか。

坂東ばんどう：特別とくべつ、こういうトーンで、みたいなものはありませんでした。原作げんさくのコミックと第だい1話わの台本だいほんが仕上しあがっていたので、それを読よみこんで、全体ぜんたいの道筋みちすじをある程度ていど立たて、最初さいしょの会議かいぎのときにアイデアをこちらからプレゼンさせていただきました。

ーー台本だいほん、原作げんさくを読よんで、まずはどんな印象いんしょうを抱いだきましたか？

坂東ばんどう：とにかく物語ものがたりのふり幅はばが大おおきいな、と。サスペンスになったりコメディになったり。それから主人公しゅじんこうの明智めいちが浮世うきよ離ばなれしているんですよね。漫画まんがだったらそのままでも違和感いわかんなくいけると思おもうのですが、実写じっしゃだときちんとチューニングしないと難むずかしい。実際じっさいには中村なかむらさんの圧巻あっかんの演技えんぎと監督かんとくをはじめとした見事みごとな演出えんしゅつで難なんなくクリアしていますが、原作げんさくを読よんだ最初さいしょの印象いんしょうとしては、主人公しゅじんこうの浮世うきよ離ばなれした雰囲気ふんいきを音楽おんがくでも正当せいとう化かしてあげたいと感かんじました。

ーー結果けっか的てきには演出えんしゅつも舞台ぶたい色しょくがありますし、ドラマチックな音楽おんがくが非常ひじょうに合あっています。

坂東ばんどう：撮影さつえいと制作せいさくのスケジュールの都合つごう上じょう、音楽おんがく制作せいさく時点じてんで映像えいぞうはなかなか見みられませんでしたが、キャストさん全員ぜんいんが入はいっての読よみ合あわせには参加さんかできたんです。そのときに、やっぱり音楽おんがくはこの路線ろせんで、このチューニングでいいんだなと感かんじました。実際じっさいにお芝居しばいを見みると、こういう風ふうに仕掛しかけてくるんだな、と台本だいほんの時点じてんでは掴つかめなかった感覚かんかくも見みえますし。特とくに苺いちごちゃん（小芝こしば風花かざばな）のテンションやテンポは、読よみ合あわせが大変たいへん参考さんこうになりました。

ーー先さきほど坂東ばんどうさんがお話はなしされたように、本当ほんとうにふり幅はばが大おおきな作品さくひんです。そうした作品さくひんに音楽おんがくをつけるのはよりやりがいを感かんじますか？

坂東ばんどう：そうですね。シリアスなだけのものも面白おもしろいですが、いろいろなことをやれるのは作つくる上じょうでは面白おもしろく感かんじます。バラエティの豊ゆたかさは必要ひつようですが、ただ同時どうじに統一とういつ感かんもなくてはいけなくて、そこのバランスは重要じゅうようでした。サウンドに幅はばがあっても作曲さっきょく家か30人にんが集あつまって作つくったみたいなものだと、ドラマとして見みづらくなってしまうので。

メインテーマのイメージは“ネオ火ひサス”

ーーなかでもメインテーマが印象いんしょう的てきです。

坂東ばんどう：最近さいきんサントラのトレンドに関かんして言いうと、全面ぜんめん的てきにメインテーマが目立めだつ作品さくひんって少すくなくなっていると思おもうんです。『アベンジャーズ』のようにテーマ曲きょくが浮うかぶ作品さくひんもありますが、ある時期じきから割合わりあいとしては少すくなくなってきた。たぶん意図いと的てきに音楽おんがくを主役しゅやくに持もっていかせないための演出えんしゅつとしてそうしていると思おもうのですが、ただ、今回こんかいのテーマに関かんしては、ドラマですし作品さくひんとともに印象いんしょうに残のこるものを作つくろうと。

ーー具体ぐたい的てきにはどんなことを意識いしきされたのでしょうか。

坂東ばんどう：作品さくひんのどこのシーンにあてても合あって、作品さくひんの象徴しょうちょうとなるようなもの。原作げんさくの表紙ひょうしにぴったり合あうというか。今回こんかい、中村なかむらさんの衣装いしょうも特徴とくちょう的てきですが、あの雰囲気ふんいきやほかの登場とうじょう人物じんぶつにも似合にあうもの、というのを強つよく考かんがえました。

ーーとてもドラマチックで、メインテーマがかかると、家いえでタクトを振ふりたくなります。

坂東ばんどう：ははは（笑）。もうひとつ意識いしきしたのが、プロデューサーの荻野おぎの哲弘てつひろさんが最初さいしょにコメントされていたように、この作品さくひんは“ネオ火ひサス”のようなサスペンスだということ。心理しんり描写びょうしゃはリアルですが、でも「こんなこと実際じっさいにはないだろう」というサスペンス。

ーー第だい1話わでマリアが崖がけから落おちていく感かんじとか。

坂東ばんどう：こういう世界せかい観かんなんだと提示ていじして、かつ肯定こうていできるもの。『火曜かようサスペンス劇場げきじょう』や、『ヒッチコック劇場げきじょう』のようなトーンが少すこしでも出だせればいいなと思おもって作曲さっきょくしました。

現在げんざいのテレビにはあまり流ながれないような曲きょくも積極せっきょく的てきに

ーーサントラ6曲きょく目めのマグダラのマリアのテーマ「罪深つみぶかい女おんな」も、流ながれた瞬間しゅんかんに、マリアの世界せかいに引ひき込こまれます。

坂東ばんどう：ソプラノの佐藤さとう裕ひろし希まれ恵めぐみさんにお願ねがいしました。彼女かのじょはヨーロッパでルネサンスの時代じだいの歌唱かしょうをきっちりと勉強べんきょうされた方ほうなんです。バッハより以前いぜんの音楽おんがくといえばイメージがつきやすいでしょうか?

ーーいわゆる宗教しゅうきょう曲きょくということでしょうか。

坂東ばんどう：ざっくり言いうとそうですね。他たの曲きょくとの整合せいごう性せいを持もたせながら、全体ぜんたいを組くみ立たてているときに、マリアには現代げんだいから遠とおいところにあるボーカリーズが一番いちばん合あうと思おもいました。

ーー今回こんかいのサントラで特とくに冒険ぼうけんできたと感かんじている曲きょくがありましたら教おしえてください。

坂東ばんどう：サントラの25曲きょく目めに入はいっている「Eclipse S」かな。もちろん軸じくはありますが、50年代ねんだいの実験じっけん音楽おんがくのようなテイストで、ドラマーの石いし若わか駿しゅん君くんとスタジオで即興そっきょう的てきにやってみようと取とり組くみました。50年代ねんだいのシュトックハウゼンの電子でんし音楽おんがくのような、アナログテープを使つかったような超ちょう前衛ぜんえい的てきな感かんじでやってみようと。今いまのテレビではあまりかからないテイストの曲きょくだと思おもいます。

ーーサントラのラストに収録しゅうろくされている、宇多田うただヒカルさんの主題歌しゅだいか「Time」編曲へんきょく版ばんもすごくステキで聴きくだけで切せつなくなります。第だい6話わのラスト、明智めいちと苺いちごの二人ふたりのシーンは、今回こんかいの新型しんがたコロナの影響えいきょうで撮影さつえい法ほうが変かわりましたが、より印象いんしょう的てきなシーンに仕上しあがっていて、この「Time」が本当ほんとうにハマっていました。特別とくべつ編へん第だい1夜やで志田しだ未来みらいさん演えんじる茜あかねのバックでかかったときも本当ほんとうに切せつなかったです。

坂東ばんどう：ヒカルさんの曲きょくがいいから、のひと言ことに尽つきると思おもうのですが（笑）。ただ編曲へんきょくにあたって、定番ていばんの編曲へんきょくの感かんじにはしたくなくて。単純たんじゅんにテンポを落おとして弦楽器げんがっきのバラードにすればお涙なみだ頂戴ちょうだいな感かんじになるだろう、というような。い方いかたが難むずかしいですが（苦笑くしょう）。

ーー宇多田うたださんの曲きょくのエッセンスをもらって、再さい構築こうちくした感かんじでしょうか。

坂東ばんどう：そうですね。これかなというところを見みつけ出だして、サスペンスの心理しんり描写びょうしゃと、サスペンスが終おわったあとの切せつない感かんじが、また違ちがった形かたちで響ひびき合あうように。

ーー編曲へんきょくという作業さぎょうはお好すきですか？

坂東ばんどう：特別とくべつ、中毒ちゅうどくのように大好だいすきというわけではないですよ（笑）。専業せんぎょうの編曲へんきょく家かではないですし（笑）。ただ今回こんかいのサントラで、何なん曲きょくかは僕ぼくが書かいたものではなくて選曲せんきょくしています。たとえば1曲きょく目めのジョヴァンニ・ガブリエーリの作品さくひんとか。編曲へんきょくというよりはキュレーションのような方向ほうこうで、サウンドトラック全体ぜんたいの幅はばが広ひろがればと考かんがえました。