米津玄師や藤井 風、櫻坂46といったアーティストの衣装制作/スタイリングを手がけるスタイリスト・Remi Takenouchi。2007年からイギリスでスタイリストとしての活動を始め、日本に帰国後は雑誌やCMだけではなく、MVなど幅広い作品に携わってきた。そんな彼女の世界観はエッジの効いた刺々しさがありながらも、マイルドな謙虚さを同時に持ち合わせている。今回は櫻坂46が2024年2月21日にリリースした8thシングル『何歳の頃に戻りたいのか?』の衣装も手掛ける同氏にインタビュー。スタイリストになるまでの経緯や、どんなカルチャーから影響を受けてきたのか、彼女が大切にしている価値観に迫った。(川崎龍也)
音楽から影響を受けたファッションスタイル
――Takenouchiさんは現在スタイリストとして米津玄師さんや櫻坂46、藤井 風さんなど様々なアーティストのスタイリング/衣装を手がけられていますが、元々ファッションに興味があったのでしょうか?
Remi Takenouchi(以下、Takenouchi):元々どこから服に興味を持ち始めたのかは曖昧なのですが、どれだけファッションで人が変われるかと思って、日によって全く違う服装をしていたんです。例えば、今日はパンクの日で、明日はロリータの日みたいな感じで。ひとつのファッションが好きというよりは、いろんな服を着て、どういう見え方をするのかみたいなことを楽しんでいたような気がします。そういう意味では少し変わっていたかもしれないですね。
――ファッションで言うと、どんなスタイルをすることが多かったですか?
Takenouchi:音楽から影響を受けていましたね。いろんなジャンルの曲を聴いていて、その音楽に付随した格好をすることが多かったです。
――例えば、どんなアーティストから影響を受けていたのでしょうか。
Takenouchi:可愛いところで言うとビョーク。ハイテクスニーカーを履いていたこともありますし、パンクを聴いていた頃にはパンクスなスタイルをすることもありました。あとは、私はアートや映画が大好きで、よく美術館に行くのですが、作品のキャプションを見てアウトプットの仕方を学ぶことも多いですし、映画に登場する衣装から影響を受けることもあります。
――いろんなカルチャーから影響を受けている、と。
Takenouchi:そうですね。特に専門職ってそうだと思うんですけど、スタイリストが服のことを知っているのは当たり前だと思っていて、そこから引き出しとか世界を広げるには、やっぱりそれ以外のことをどれだけ見ているか、知っているかだと思うんです。そうすることによって、だんだんと肉付きが生まれてくる。その肉付きが私にとっては音楽や絵なのかなと思います。
――高校卒業後はイギリスに行かれたそうですが、ファッションの勉強を兼ねていたのでしょうか?
Takenouchi:そうですね。ただ、服飾関係の仕事に就きたいという明確な目的があったわけではなくて、なんとなく人生を変えたいと思ってイギリスに行ってスタイリスト科に進学しました。
――本格的にアーティストの衣装制作に携わるようになったのはいつ頃からですか?
Takenouchi:イギリスから帰国して以降のことです。最初は雑誌の撮影や、ファッションショーのスタイリングをする“ザ・ファッション”の仕事ばかりをしていたのですが、帰国して2年ほどが経ったタイミングで、ご一緒した監督さんから「MVのスタイリングをやってみないか?」というお話をいただきました。
――アーティストの衣装制作やMVのスタイリングに携わりたいという思いはあったのでしょうか?
Sigur Rós - Untitled #1 - Vaka (Official 4K Remastered Music Video)
Takenouchi:なかったです。あまりにも夢のような話だったので、想像できなかったと言う方が正しいかもしれません。自分が携われるとは思っていなかったけど、確かに憧れはありました。若い頃に見たMVで影響を受けた作品が二つあって。まず一つが、Sigur Rósの「Untitled #1 - Vaka」。MVが素晴らしくて、こういう世界観を作りたいと思ったのはこの作品がきっかけでした。そしてもう一つがzilchのMVで、初めて見た時にかっこよすぎて衝撃を受けました。当時はマリリン・マンソンが好きだったので、日本にもこんなにかっこいいMVを出すアーティストがいるんだと感動したのを覚えています。
作り込まれた世界観をさらに輝かせる衣装作り
米津玄師 - 月を見ていた Kenshi Yonezu - Tsuki Wo Miteita / Moongazing
King Gnu - 雨燦々
――衣装制作の時に意識していることや大切にしていることはありますか?
Takenouchi:服だけが一人歩きしないようにまずは本人を生かすことと、見た人の印象に残り続けることの二つは意識しています。藤井 風さんは楽曲の延長線でライブでも関わらせていただいたのですが、米津さんやKing Gnuさんは監督からMVの世界観を作るに当たって全体の衣装を作って欲しいとの理由で呼ばれました。例えば、米津さんの「月を見ていた」の時には「見たことのない米津さんを作りたい」というテーマを受けて制作しましたし、King Gnuさんの「雨燦々」の時も「あらかじめ作り込まれた世界観を表現してほしい」というお話をいただいて。だからこそ、確固たる世界観の中でいかに本人が輝くことができるのか、それを常に考えています。
――Takenouchiさんの衣装は、見た目は華やかで統一感があるのにもかかわらず、どこか謙虚な印象があるんですよね。
Takenouchi:いい意味でも悪い意味でも合わないことをしたくないという思いが自分の中にあって。「この人、こんな格好しちゃうの?」みたいな飛び抜けたことはしたいんですけど、その中でいかに人物と衣装のズレを生じさせないのかが大切。ダサくなるズレはしたくないなというか、たとえズレが生じたとしても、スッと受け入れられるような衣装にはしたいと思っています。
――それこそが私が感じた謙虚さなのかもしれないなと今感じました。ちなみにその考え方に至ったきっかけなどはありましたか?
Takenouchi:きっかけで言うと、やっぱりいろんなアーティストさんのスタイリングをやらせていただくようになってからだと思います。それとアイドルの衣装/スタイリングを手掛けるようになってから、よりその意識が強くなりました。