"まぼろしゆめ世界せかいへの案内あんないじん"おついち異色いしょくアンソロジーをむ 多様たよう作品さくひん、それぞれの魅力みりょく

乙一ら異色アンソロジー書評

 まぼろしゆめ世界せかいへの案内あんないじん。それが作家さっかおついち」だとおもっている。

 朝日新聞あさひしんぶん出版しゅっぱんより5がつ刊行かんこうされた『しずみかけのふねより、あいめて まぼろしゆめコレクション』は、おついち中田なかた永一えいいちやまはく朝子あさこくわえ、かく作品さくひん冒頭ぼうとうされた解説かいせつ担当たんとうする安達あだちひろしだかけい4めい参加さんかするアンソロジーだ。「まぼろしゆめコレクション」1さくは『メアリー・スーをころして』(2016ねん)であり、ほんさくだい2だんとなる。

 内容ないようはいまえに、まずはおついち中心ちゅうしんに「かく著者ちょしゃについてれておきたい。

 おついちは、おさな兄妹きょうだいと〝ひとつ〟の死体したいえがいた『なつ花火はなびわたし死体したい』で、1996ねんだい6かいジャンプ小説しょうせつ・ノンフィクション大賞たいしょう受賞じゅしょうし、デビューした。残酷ざんこくでグロテスクな描写びょうしゃおお短篇たんぺんしゅう『ZOO』や『GOTH』シリーズ、繊細せんさいなタッチでつづられる『うしなはれる物語ものがたり』など、ホラーとミステリ、ファンタジーを絶妙ぜつみょう融合ゆうごうさせた作品さくひんおおい。物語ものがたりによっては、ぎゃく印象いんしょうけるものもある。

 また、昨年さくねんデビュー25周年しゅうねんむかえ、今年ことし4がつには記念きねんさくとして短篇たんぺんしゅう『さよならにはんする現象げんしょう』も刊行かんこうされた(収録しゅうろく作品さくひんのうち、異彩いさいはなつのは「なごみ探偵たんていおそまつさん・リターンズ」。タイトルからさっしたほうもいるとおもうが、ある有名ゆうめいさくとのコラボである)。さらに、『ジョジョの奇妙きみょう冒険ぼうけん』のノベライズや特撮とくさつ『ウルトラマンジード』のシリーズ構成こうせい担当たんとうするなど、多方面たほうめん活躍かつやくしている。

 つづいて中田なかた永一えいいちは、青春せいしゅん恋愛れんあいせつなくもユーモラスにえが作家さっかだ。映画えいがされたデビューさく百瀬ももせ、こっちをいて。』をはじめ、『くちびるにうたを』『わたし存在そんざい空気くうき』など、甘酸あまずっぱくもどこかくるしさをおぼえる青春せいしゅん物語ものがたりとしむ。

 一方いっぽうやまはく朝子あさこくのはしくもあやしい怪奇かいき小説しょうせつ独特どくとく世界せかいかん魅力みりょくの『エムブリヲたん』は、みながらおもわず背後はいご確認かくにんせずにはいられない、ホラーかんあふれる短篇たんぺんしゅうだ。

 最後さいごに、「まぼろしゆめコレクション」2さく解説かいせつ担当たんとうしている安達あだちひろしだか。『ウルトラマンジード』や、2021ねん公開こうかいされた映画えいが『サマーゴースト』などの脚本きゃくほん担当たんとうする映画えいが監督かんとく脚本きゃくほんである。

※※※

 『しずみかけのふねより、あいめて』収録しゅうろくの11へんのうち、おついち執筆しっぴつしているのは6さくだ。なかでも表題ひょうだいさくは、離婚りこんする両親りょうしんを「査定さてい」するむすめはなしちちははどちらであれば、自分じぶん最愛さいあいおとうと人生じんせい安心あんしんしてゆだねられるのか。おやどもにける愛情あいじょうしちりょうは、はかれない。それをかっているからこそ主人公しゅじんこうはては、一切いっさい感情かんじょうきに両親りょうしん品定しなさだめする。経済けいざい状況じょうきょうから人間にんげん関係かんけいまで、徹底的てっていてきむすめ調しらべられる両親りょうしん姿すがたはどこか滑稽こっけいであり、悲哀ひあいをもかんじさせる。だが、愛情あいじょう介在かいざいさせないからこそ、「あい」そのものがりになっていく。不思議ふしぎ作品さくひんである。

 ほかにも、ほんアンソロジーのうちもっとながい「ふたつのかお表面ひょうめん Two faces and a surface」は、設定せっていからして異様いようで、おついち本領ほんりょう発揮はっきされている。かたが、主人公しゅじんこうである少女しょうじょみみうらにできた人面じんめんかさなのだ。カルト宗教しゅうきょう信仰しんこうする両親りょうしんのもとにそだった少女しょうじょは、奇妙きみょう人面じんめんかさ協力きょうりょくして学校がっこうきたある事件じけんいどむ。ジャンルとしてはミステリだが、人面じんめんかさ視点してんかたられる少女しょうじょ成長せいちょうたんにもなっている。

 中田なかた永一えいいち執筆しっぴつの4さくのうち、「かに喰丸くいまる」は、著者ちょしゃにしてはめずらしくSF仕立したてである。余命よめいわずかな酒飲さけのみのおとこ魑魅魍魎ちみもうりょうたちの世界せかいまよみ、そこで宴会えんかい参加さんかする。うたげあるじは、乱暴らんぼうしゃ周囲しゅういからおそれられているかに喰丸くいまるというおにだ。うたげとおして交流こうりゅうふかめるうち、かに喰丸くいまるおとこ心情しんじょう吐露とろするようになる。告白こくはくされるその内容ないようは、意外いがいにも人間味にんげんみあふれるものばかり。オニとヒトの境界きょうかい曖昧あいまいになり、怪異かいい日常にちじょうとがはいじった世界せかいあらわれてくる。

 やまはく朝子あさこ作品さくひんは1さくで、「背景はいけい人々ひとびと」。深夜しんやドラマの撮影さつえいに、エキストラとして参加さんかした女性じょせい遭遇そうぐうした不可解ふかかい事象じしょうかたられる。最初さいしょ紹介しょうかいした『エムブリヲたん』と同様どうよう、タイトルからしてうしろをにせずにはいられないはなしである。

※※※

 最後さいごに、以下いかたのしみを先取さきどりしたいほうけて――。

 じつ本書ほんしょ、「ひとりアンソロジー」と銘打めいうたれている。あえてせていてきたが、「かれ彼女かのじょら」が名義めいぎ活動かつどうしていること――おついち中田なかた永一えいいちやまはく朝子あさこであり、その本名ほんみょう安達あだちひろしだかであること――はおついちファンには周知しゅうち事実じじつだ。っているひとは、他人事たにんごとのように作品さくひん解説かいせつする安達あだちひろしだかひょうわらってしまうかもしれない。反対はんたいに、らないひとからすると、本当ほんとうどう一人物いちじんぶつあらわしたのかうたがいたくなる作品さくひんばかりだろう。「作者さくしゃとはなにか」。このいを根底こんていからかんがなおしたくなるほど、多様たよう作品さくひんおさめられたアンソロジーである。

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