『君きみがまた描えがきだす線せん』『悪魔あくま二に世せい』『Void: No. Nine』　漫画まんがライター・ちゃんめい厳選げんせん！7月がつのおすすめ新刊しんかん漫画まんが

　新刊しんかんコミックの中なかから、おすすめの作品さくひんを紹介しょうかいする本ほん企画きかく。漫画まんがライター・ちゃんめいが厳選げんせんした、いま読よんでおくべき3作品さくひんとは？

『君きみがまた描えがきだす線せん』加藤かとう羽入はにゅう

　本ほん作さくの舞台ぶたいは女性じょせい向むけのマンガ編集へんしゅうプロダクション。そこに集つどいし、元もと声優せいゆうの編集へんしゅう者しゃ、恋愛れんあい以外いがいの少女しょうじょ漫画まんがを描えがきたい漫画まんが家か、とある読者どくしゃからのファンレターを心待こころまちしている漫画まんが家かなど.......。登場とうじょう人物じんぶつたちが夢ゆめと現実げんじつの狭間はざまでもがき、時ときには挫折ざせつを経験けいけんしながらも“自分じぶんの道みち”を歩あゆもうと、マンガを通とおして連帯れんたいする物語ものがたりが展開てんかいされる。

　作中さくちゅうで描えがかれるそれぞれの絶望ぜつぼう、そして再ふたたび自分じぶんの道みちを懸命けんめいに歩あゆみ始はじめるまで......。そこには一切いっさいの綺麗事きれいごとや妥協だきょうがないからこそ、それぞれの想おもいや感情かんじょうが確たしかな手触てざわりを持もって迫せまってくる感覚かんかくがある。また、登場とうじょう人物じんぶつたちが歩あゆむ“自分じぶんの道みち”とは、決けっして根性こんじょう論ろんでも、奇跡きせきの上うえに成なり立たつものではない。自分じぶんの夢ゆめはもちろん、過去かこの悲かなしみや絶望ぜつぼう、自分じぶんを取とり巻まく社会しゃかいも全すべて抱だきしめて“自分じぶんの道みち”を耕たがやしていく。

　理不尽りふじんな出来事できごとや不安定ふあんていな社会しゃかい情勢じょうせいに取とり囲かこまれている今いまの世よの中なか。知しらず知しらずのうちに心身しんしんが疲弊ひへいして、つい悲観ひかん的てきな気持きもちになってしまうけれど「あきらめるのはまだ早はやい」と。『君きみがまた描えがきだす線せん』は、再ふたたび立たち上あがる力ちからを授さづけてくれるような気きがする。

『悪魔あくま二に世せい』志波しば由紀ゆき

　人間にんげんの母ははと悪魔あくまの父ちちの間あいだに生うまれた、タイトル通どおり“悪魔あくま二に世せい”な女子高じょしこう生せいが静しずかに大だい暴あばれする本ほん作さく。彼女かのじょの名前なまえは源みなもと間あいだ菊きく光こう。悪魔あくまの父ちちは行方ゆくえ不明ふめい、さらに母ははを亡なくした菊きく光こうは、その存在そんざいを煙けむたがられながらも母方ははかたの親戚しんせきの家いえに居候いそうろう中ちゅう。正体しょうたいを隠かくしながら日常にちじょう生活せいかつを送おくっていたが、同級生どうきゅうせい・河かわ城じょうと出会であったことをきっかけに共ともに悪魔あくま退治たいじをすることに。

　本ほん作さくの魅力みりょくを挙あげるとするなら、なんといっても作中さくちゅうに漂ただよう独特どくとくな「凪なぎ」感かんだろう。悪魔あくま二に世せいであることに対たいして、何なにか複雑ふくざつな感情かんじょうを抱いだくわけでも、大だいそれた野望やぼうを抱だいてるようにも見みえない、常つねに平穏へいおんな空気くうきを醸かもし出だす菊きく光こう。また、バイト先さきの店長てんちょうが悪魔あくまに憑つかれていたり、その悪魔あくまを難なんなく倒たおしてしまう菊きく光こうと対峙たいじしても、そんなことよりバイトの退勤たいきん時刻じこくの方ほうが重要じゅうようそうな河かわ城じょう。悪魔あくまが存在そんざいする、人間にんげんのすぐ隣となりにいる......そんな衝撃しょうげき的てきな出来事できごとをそう思おもわない、思おもわせないキャラクターたちと話はなしの展開てんかいに妙みょうに引ひき込こまれてしまう。

　そして、物語ものがたりが進すすむにつれて垣間見かいまみえる、菊きく光こうの悪魔あくま退治たいじ（戦たたかい方かた）も非常ひじょうに興味深きょうみぶかい。彼女かのじょは悪魔あくまと渡わたり合あう力ちからを持もつ一方いっぽうで、人間にんげんの血ちも引ひくから悪魔あくまが付つけ入いる人ひとの弱よわさ、欲よくにも寄より添そえる。そんなある種しゅの優やさしさというのか、正義せいぎと悪あくの二ふたつで分断ぶんだんしない余地よちを持もっている。そんなニューヒーローの誕生たんじょうを予感よかんさせる。