『大奥おおおく』西野にしの七瀬ななせが表現ひょうげんする“子供こどもを守まもり通とおす”という決意けつい　お品しなの板挟いたばさみ状態じょうたいが切せつない

「今日きょうからそなたは『貞次郎ていじろう』だ」

　『大奥おおおく』（フジテレビ系けい）第だい8話わでお品しな（西野にしの七瀬ななせ）と家治いえはる（亀梨かめなし和也かずや）の間あいだに貞次郎ていじろうが誕生たんじょうした。家治いえはるにとっては2人ふたり目めとなる男おとこの子こだ。優やさしい目めつきで赤子あかごを見みつめる家治いえはるとは対照たいしょう的てきにお品しなはどこか腹はらを決きめたような顔かおつきをしていた。

　お品しなは生うまれた子こに「貞さだ」の字じを使つかってほしいと直接ちょくせつ、家治いえはるに願ねがい出でた。この字じはお品しなの想おもい人じんであった貞之助ていのすけ（小関おぜき裕ひろし太ふとし）の名なの一部いちぶでもある。きっとこれから育そだっていくであろう貞次郎ていじろうの中なかに貞之助ていのすけの影かげを見みていたいという、お品しなのひとりの女性じょせいとしてのささやかな願ねがいが込こめられているのだろう。

　ひょんなことからお品しなと知しり合あい、大奥おおおくの料理りょうり役人やくにんになった貞之助ていのすけは、お品しなとともに倫子ともこ（小芝こしば風花かざばな）を支ささえる者ものとして言葉ことばを交かわすことが多おおかった。貞之助ていのすけは早はやいうちからお品しなに好意こういを寄よせていたようだし、お品しなも道端みちばたで人ひとにぶつかりそうになった時ときに、とっさに自分じぶんの方ほうへ引ひき寄よせて守まもろうとする貞之助ていのすけのふとした優やさしさに心しんをときめかせており、彼かれと会あえる時間じかんを楽たのしみにしていた。だが、倫子ともこを尊敬そんけいし、慕したっていたお品しなにとっては倫子ともこのことが何なによりも優先ゆうせんするべきこと。貞之助ていのすけと一緒いっしょに過すごすことを心地ここちよいと思おもっていてもそれを口くちに出だすことはおろか、自覚じかくすることすら危あやういことだった。

　それでも止とめられないのが恋こいというもの。お品しなはなかなか子こを授さずかることのできない倫子ともこのために食事しょくじを工夫くふうしたいなどと相談そうだんを持もちかけ、定期ていき的てきに蔵ぞうで貞之助ていのすけと会あうようになる。そこでふと、家治いえはるの側室そくしつであるお知ち保ほ（森川もりかわ葵まもる）が自分じぶんの生うんだ子こをこれまで見みたこともないような優やさしい顔かおで見みつめていたこと、それにとても驚おどろいたことを貞之助ていのすけに打うち明あけたお品しな。これまでならそういう話はなしは倫子ともこにしていたことだろう。倫子ともことお品しなは気きが合あい、最初さいしょの頃ころはざっくばらんに様々さまざまなことを語かたり合あっていたはずだからだ。

　しかし、家治いえはるがお知ち保ほを側室そくしつにしてからは、“お世継よつぎ”を誰だれが産うむかという問題もんだいも生うまれ、お品しなにとっては恋愛れんあいに関かんする話はなしは口くちにしづらかったのかもしれない。いつの間まにかそんなデリケートな話はなしもしてしまうほどお品しなは貞之助ていのすけに心しんを許ゆるしていたのだ。こっそり会あっていたいつもの蔵ぞうに差さし込こむ夕陽ゆうひに包つつまれながら、肩かたを寄よせ合あい、遠回とおまわしでも思おもいを伝つたえ合あいながら口くちづけを交かわす貞之助ていのすけとお品しなの姿すがたは、ドロドロとした人間にんげんの欲よくが渦巻うずまく『大奥おおおく』の中なかでも、随一ずいいちの純粋じゅんすいな、心しんに残のこる一いち場面ばめんだったのではないだろうか。