メタバースとは何なにか？　SF文脈ぶんみゃくとバーチャルリアリティ学がくから読よみ解とく「メタバースの定義ていぎ」

　先日せんじつ掲載けいさいしたインタビューが反響はんきょうを呼よんだ、メタバース原住民げんじゅうみんにしてメタバース文化ぶんかエバンジェリストの「バーチャル美少女びしょうじょねむ」。今回こんかいは彼女かのじょの著書ちょしょ『メタバース進化しんか論ろん』（技術評論社ぎじゅつひょうろんしゃ）が発売はつばい一いちヶ月かげつで四よん冊さつ重版じゅうはんが決きまったことを記念きねんして、メタバースの定義ていぎと革命かくめい性せいに迫せまった同書どうしょの第だい一いち章しょう「メタバースとは何なにか」を特別とくべつに全文ぜんぶん掲載けいさいで前後ぜんご編へんに分わけてお届とどけする。

　バズワードのように使つかわれている「メタバース」だが、さまざまなメディアでの報道ほうどうを見みる限かぎり、“オンラインゲーム”と一緒いっしょになって取とり上あげられたり、“NFT”など別べつの技術ぎじゅつと関連付かんれんづけられたり同一どういつのものとして扱あつかわれることも少すくなくない。前後ぜんご編へんにわたる記事きじを読よみ、あらためて「メタバース」に関かんする知識ちしきをアップデートしてみてはいかがだろうか。（編集へんしゅう部ぶ）

「メタバース」という言葉ことばの由来ゆらい

　ザッカーバーグによる「Meta」発表はっぴょう以降いこう、テレビやニュースで取とり上あげられ、大おおきな注目ちゅうもくを集あつめている「メタバース」 この言葉ことばはいったいどこから来きたのでしょうか。

　「メタバース（Metaverse）」は、「超ちょう（Meta-）」 と 「世界せかい（Universe）」を組くみ合あわせた造語ぞうごで、元々もともとはアメリカのSF小説しょうせつ『スノウ・クラッシュ』（1992） に登場とうじょうする架空かくうの仮想かそう世界せかいの名前なまえです。現実げんじつを超こえた世界せかい、というニュアンスでしょうか。

　作品さくひん中ちゅうのメタバースは、VRゴーグルを被こうむって体験たいけんする三さん次元じげんのオンライン仮想かそう世界せかいで、アバターの姿すがたでたくさんのユーザー同士どうしがコミュニケーションすることができます。VRゴーグルの再現さいげんする視覚しかくと聴覚ちょうかくにより、ユーザーはまるで実際じっさいにそこにいるかのような体験たいけんをすることができます。この作品さくひんではアバターや仮想かそう世界せかいの土地とちの売買ばいばいなど、仮想かそう世界せかいの中なかで経済けいざいが成なり立たっていることが一ひとつの特徴とくちょうで、そういう意味いみでも現在げんざい語かたられているメタバースの概念がいねんを彷彿ほうふつとさせます。本書ほんしょ冒頭ぼうとうで紹介しょうかいした、現在げんざい私わたしの体験たいけんしているソーシャルVRの世界せかいそのものですね。1992年ねんといえばWindows95が発売はつばいされる3年ねん前まえ。インターネットどころかパソコンが一般いっぱん的てきになる前まえの時代じだいに現在げんざいのメタバースの世界せかいを予言よげんしているのは驚おどろきです。

　ただし、アバターは現実げんじつの自分じぶんを模もした姿すがたでなければならないルールがあるなど、異ことなる点てんもたくさんあります。また、現在げんざい「メタバース」と言いうときは、必かならずしもVRゴーグルを用もちいた体験たいけんのみに限定げんていしないと語かたられることが多おおいです。作品さくひん内ないに登場とうじょうする「メタバース」と現在げんざいのメタバースの定義ていぎとは切きり離はなして考かんがえた方ほうが良よさそうです。

　とはいえ、現在げんざいのVR開発かいはつ業界ぎょうかいには『スノウ・クラッシュ』から大おおきく影響えいきょうを受うけたと公言こうげんする人物じんぶつが数多あまたくいます。Metaが買収ばいしゅうしたVRゴーグル開発かいはつ企業きぎょう「Oculus（オキュラス）」の創業そうぎょう者しゃパルマー・ラッキーもその一人ひとりです。そうした経緯けいいから「メタバース」という言葉ことばが「フィクションではない、本物ほんものの仮想かそう空間くうかん」という意味合いみあいで使つかわれるようになっていきました。

フィクションが育はぐくんだメタバースの概念がいねん

　「メタバース」は『スノウ・クラッシュ』で突然とつぜん生うまれたわけではなく、もっと昔むかしからSF作品さくひんで試行しこう錯誤さくごされてきた様々さまざまな仮想かそう世界せかいの文脈ぶんみゃくの延長線えんちょうせん上じょうにあります。有名ゆうめいなものでは「サイバースペース」「マトリックス」「電脳でんのう空間くうかん」など、SFファンにはこれらの言葉ことばの方ほうが馴染なじみがあるかたが多おおいのではないでしょうか。

　「サイバースペース（Cyberspace）」はカナダの巨匠きょしょうウィリアム・ギブスンのSF小説しょうせつ『クローム襲撃しゅうげき』（1981）に登場とうじょうするもので、今いまではオンラインの仮想かそう空間くうかんを表あらわす広ひろい意味いみの言葉ことばとして定着ていちゃくしています。ギブスンはそのアイデアを更さらに練ねり上あげ、小説しょうせつ『ニューロマンサー』（1984）で「マトリックス（Matrix）」として描えがきました。これは脳のうに埋うめ込こんだ電極でんきょくで接続せつぞくし、意識いしきごと全ぜん感覚かんかくで没入ぼつにゅう（フルダイブ）できる仮想かそう空間くうかんです。相手あいての脳のうへのハッキング攻撃こうげきやそれに対たいするセキュリティシステムなど、斬新ざんしんな概念がいねんが多数たすう登場とうじょうします。とても刺激しげき的てきで面白おもしろい反面はんめん、非常ひじょうに難解なんかいな小説しょうせつです。

　その『ニューロマンサー』の難解なんかいな世界せかい観かんを一般人いっぱんじんにも理解りかいできる形かたちで、ビジュアルで美うつくしく表現ひょうげんすることに成功せいこうしたのが、士郎しろう正宗まさむね先生せんせいの漫画まんが『攻殻機動隊こうかくきどうたい』（1991）に登場とうじょうする「電脳でんのう空間くうかん」 です。そしてそれを映像えいぞう化かしたのが世界せかい的てきに高たかい評価ひょうかを受うけた押井おしい守まもる監督かんとくのアニメ映画えいが『GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊こうかくきどうたい』（1995、Windows95発売はつばいの年とし！） 更さらに、それにインスパイアされて生うまれたのがアメリカのウォシャウスキー姉妹しまいによる仮想かそう空間くうかんアクション映画えいがの金字塔きんじとう『マトリックス』（1999）です。

　フィクションの世界せかいで我々われわれが抱いだき、いま遂ついに現実げんじつのものになろうとしている仮想かそう世界せかい「メタバース」のイメージには、日本にっぽんのSFアニメや漫画まんがの影響えいきょうも色濃いろこく反映はんえいされているのです。

セカンドライフと初期しょきのメタバース概念がいねん

　Metaの発表はっぴょう以前いぜんにも、「メタバース」という言葉ことばが世界せかい的てきに注目ちゅうもくされた時期じきがありました。それは2007年ねんにアメリカのリンデンラボ社しゃが提供ていきょうする仮想かそう空間くうかん「セカンドライフ」が社会しゃかい現象げんしょうになったときです。

　セカンドライフはパソコンの画面がめんの中なかの自分じぶんの分身ぶんしんであるアバターのキャラクターを操作そうさして世界中せかいじゅうのユーザーとテキストチャットや音声おんせいでコミュニケーションできるサービスです。ゲーム内ない通貨つうかを現実げんじつのお金かねに換金かんきんできることが画期的かっきてきで、実際じっさいに大金たいきんを稼かせぐユーザーが現あらわれ、大手おおて企業きぎょうが次々つぎつぎと参入さんにゅう、約やく100万まん人にんのアクティブユーザー数すうを誇ほこりました。

　日本にっぽんバーチャルリアリティ学会がっかいが2011年ねんに刊行かんこうしたVR技術ぎじゅつの教科書きょうかしょ『バーチャルリアリティ学がく』では、当時とうじ注目ちゅうもくされていたセカンドライフを前提ぜんていとして、メタバースを以下いかの四よん要件ようけんを兼かね備そなえたオンラインの仮想かそう空間くうかんとして定義ていぎしています。現在げんざい語かたられるメタバースと比くらべると足たりない部分ぶぶんもありますが、非常ひじょうに明快めいかいに整理せいりされており理解りかいしやすいので、まずはこれを見みていきたいと思おもいます（それぞれ最後さいごの括弧かっこは私わたしが独自どくじに付つけ加くわえた注釈ちゅうしゃく）。

（１）三さん次元じげんのシミュレーション空間くうかん（環境かんきょう）を持もつ（「空間くうかん性せい」）
（２）自己じこ投射とうしゃ性せいのためのオブジェクト（アバタ）が存在そんざいする（「自己じこ同一どういつ性せい」）
（３）複数ふくすうのアバタが、同一どういつの3次元じげん空間くうかんを共有きょうゆうすることができる（「同時どうじ接続せつぞく性せい」）
（４）空間くうかん内ないに、オブジェクト（アイテム）を創造そうぞうすることができる（「創造そうぞう性せい」）

　さらに同書どうしょでは、セカンドライフで行おこなわれ始はじめた経済けいざい活動かつどう（「経済けいざい性せい」）に注目ちゅうもく。また、当時とうじまだ一般いっぱん向むけに発売はつばいされていなかったVRゴーグルが将来しょうらい的てきに普及ふきゅうし、現実げんじつと同おなじように仮想かそう空間くうかんを体験たいけん（「没入ぼつにゅう性せい」）できる技術ぎじゅつ進歩しんぽに大おおきく期待きたいしていました。後述こうじゅつしますが、この「経済けいざい性せい」と「没入ぼつにゅう性せい」は現在げんざいではメタバースの必須ひっす要件ようけんとして語かたられることが多おおいです。

　しかしこの後のち、当時とうじのインターネット環境かんきょうの制約せいやくやパソコンのスペックの低ひくさ、またFacebookなどSNSが普及ふきゅうしたことによりセカンドライフのブームは一時いちじ失速しっそく、ザッカバーグのMeta宣言せんげんまで「メタバース」は一般いっぱん的てきには長ながらく忘わすれられた言葉ことばとなっていました（なお、セカンドライフはその後ごも着々ちゃくちゃくと進化しんかを続つづけており、現在げんざいでは当時とうじと同等どうとう規模きぼまでアクセス数すうは回復かいふくしています）。