人手不足や生産性の低迷などさまざまな課題に直面している地方の中小企業。DX(デジタルトランスフォーメーション)やリスキリングも大企業に比べ遅れがちだが、その中でも果敢に挑戦し、成果を出している企業がある。今回取り上げるのは、創業100年超の愛媛県の老舗で、イタリアンレストランなど5つの飲食店を展開するマルブンだ。2020年からDXを本格的に始め、1人当たりの時間売上高は3年で2割増。現場のスタッフも自主的にリスキリングし、成長のスピードが上がるなど目覚ましい変化があったという。5代目社長の眞鍋一成さんに、地方の小さな企業のDX・リスキリング戦略を聞いた。
――マルブンは去年、創業100周年を迎えたそうですね。
1923年に愛媛県西条市で初代が開いた「丸文食堂」が始まりです。店があるのは、西日本最高峰の石鎚山の麓にあるJR伊予小松駅という無人駅の前。今も本店はそこです。4代目の私の父が大衆食堂からイタリアンに転換し、店舗も増やして「家業」から「企業」になりました。現在は県内でイタリアン、洋食、海鮮丼など5店舗とECを展開し、社員16名、パートアルバイト60名程度が働いています。
創業当時の「丸文食堂」
――地元密着でやってきたのですか。
地元の農家さんの安心安全な食材を使う「地産地消」をモットーとするローカルレストランです。一方で、当店の「鉄板ナポリタン」が西条市のソウルフードとしても有名なので、県外からのお客様も多いですね。
地方で深刻化する人手不足
――会社としては16年に飲食業として初めて「日本でいちばん大切にしたい会社」(人を大切にする経営学会主催)で審査員特別賞も受賞していますね。
5代目社長の眞鍋一成さん
受賞は父の代でしたが、地元の農家40軒から適正価格で食材を仕入れていることや、人材育成に力を入れ離職率が低いことなどが評価されました。
飲食業は、人と人の関わりがモノをいうアナログな商売です。ここ数年進めてきたDXでも、デジタルで効率化すること自体が目的ではなく、デジタルを活用して僕たちが大切にしてきたアナログの部分をどれだけ強化できるかを第一に考えてきました。
――なぜDXに取り組んだのですか。
人手不足、人件費の高騰、IT化の遅れ、古いマネジメント体質、長時間労働、若い人たちの価値観とのズレなど、さまざまな経営課題を解決したいという思いからです。