(Translated by https://www.hiragana.jp/)
サステナビリティに向けた新イノベーション 実証実験が進むサーバーの「液浸冷却」とは - 日経クロステック Special
抽選ちゅうせんで50めいさまにAmazonギフトカード
7000えんぶんたる! アンケートを実施じっしちゅう
サーバーの利用りようじょうきょうかんする実態じったい調査ちょうさ
サステナビリティにけたしんイノベーション

実証じっしょう実験じっけんすすむサーバーの

えきひた冷却れいきゃく」とは

サステナビリティへの要求ようきゅうたかまるなか、サーバーぐん消費しょうひ電力でんりょくおおきな問題もんだいとなっている。これを抑制よくせいするじょう重要じゅうようなカギをにぎるとかんがえられているのが、「えきひた」による冷却れいきゃくシステムのイノベーションだ。国内こくないでもすで実証じっしょう実験じっけんすすめられており、Dell PowerEdgeのような汎用はんようサーバーをえきひたするみがおこなわれている。2023ねん10がつ13にち都内とない開催かいさいされた「アイデアをすみやかにイノベーションへ」とだいされたデル・テクノロジーズの年次ねんじイベント「Dell Technologies Forum 2023 Japan」で、その内容ないよう披露ひろうされた。ここでその概要がいよう紹介しょうかいしたい。

データセンター消費しょうひ電力でんりょくの43%をめる冷却れいきゃく電源でんげん

デル・テクノロジーズ株式会社かぶしきがいしゃ
執行しっこう役員やくいん
データセンター ソリューションズ事業じぎょう統括とうかつ
製品せいひん本部ほんぶちょう
上原うえはら ひろし

DX(デジタル・トランスフォーメーション)の進展しんてんともない、データセンターやクラウドないのサーバーすう増加ぞうかし、かくサーバーの処理しょり能力のうりょく飛躍ひやくてき向上こうじょうした。生成せいせいAIの利用りよう拡大かくだいも、そのながれに拍車はくしゃをかけている。しかしその一方いっぽうで、あらたな課題かだいりになった。それはサーバー消費しょうひ電力でんりょく急増きゅうぞうである。人類じんるい生存せいぞんつづけられる地球ちきゅう環境かんきょう維持いじするには、消費しょうひ電力でんりょくをいかにおさえるかは喫緊きっきん課題かだいだといえるだろう。

性能せいのう向上こうじょうとサステナビリティをいかに両立りょうりつさせるか。この実現じつげんには、設計せっけいそのものからえていかなければなりません。そのためにデル・テクノロジーズは、標準ひょうじゅん冷却れいきゃくファンにくわえた高速こうそくファンの投入とうにゅう、ヒートシンクの高性能こうせいのう、エアフローの観点かんてんからのシステムボードの見直みなおしなどによる、『マルチベクタークーリング 2.0』を採用さいようしています」とデル・テクノロジーズの上原うえはら ひろしかたる。

またサーバーに実装じっそうする温度おんどセンサーも7わりやし、ファンとシステムの電力でんりょく最適さいてき。これらの最新さいしん技術ぎじゅつでエネルギー効率こうりつたかめることで、環境かんきょう評価ひょうかシステム「EPEAT(イーピート)」のシルバー/ブロンズ認定にんていや、国際こくさいエネルギースタープログラム「ENEGY STAR」の認定にんていけているという。

ただしデータセンター全体ぜんたい消費しょうひ電力でんりょく増加ぞうかおさえていくためには、さらにおおきな変革へんかく必要ひつようとなる。それが「あらたな冷却れいきゃく手法しゅほう開発かいはつ実装じっそうだ」と上原うえはらはなす。

「これまでの冷却れいきゃく手法しゅほう主流しゅりゅうは、空調くうちょうやされた空気くうきでCPUやGPUを冷却れいきゃくする『空冷くうれい方式ほうしき』でした。その空気くうきちゅうへの放熱ほうねつ効率こうりつするための『水冷すいれい方式ほうしき』も登場とうじょうしましたが、これらに共通きょうつうする『空気くうきやす』というアプローチでは、はいねつ効果こうか限界げんかいがあります。そこでいますすんでいるのが、『えきひた(Immersion Cooling)』という冷却れいきゃく方式ほうしき研究けんきゅう開発かいはつなのです」

えきひた冷却れいきゃくとは、電気でんきとおさない「絶縁ぜつえんせいのある活性かっせい液体えきたい」のなかにサーバー全体ぜんたいひたし、この液体えきたいによってサーバーを冷却れいきゃくするというもの。すで日本にっぽん国内こくないでも実証じっしょう実験じっけんすすめられている。そのみについて説明せつめいしたのが、上原うえはらつぎ登壇とうだんした、KDDIの北山きたやま しん太郎たろうだ。

KDDI株式会社かぶしきがいしゃ
プラットフォーム技術ぎじゅつ
コアスタッフ
北山きたやま しん太郎たろう

「KDDIグループは、かけがえのない地球ちきゅうつぎ世代せだいぐことができるよう、地球ちきゅう環境かんきょう保護ほご推進すいしんすることがグローバル企業きぎょうとしての重要じゅうよう責務せきむであるととらえ、サステナビリティにんでいます。具体ぐたいてきには、KDDIのCO2の実質じっしつてき排出はいしゅつりょうを2030ねんまでゼロにする『KDDI GREEN PLAN 2030』という長期ちょうき計画けいかく推進すいしんしています。そのなか課題かだいの1つとなっているのが、データセンターにおける冷却れいきゃく消費しょうひ電力でんりょくです。実際じっさいに、我々われわれのプロジェクトでは、データセンターにおける消費しょうひ電力でんりょくやく43%は、データセンターの冷却れいきゃく機器きき冷却れいきゃく電源でんげん消費しょうひされていると試算しさんしています」(北山きたやま

この冷却れいきゃく消費しょうひ電力でんりょく低減ていげんするためのブレークスルーとなるのが、えきひた冷却れいきゃく技術ぎじゅつだ。えきひた冷却れいきゃく技術ぎじゅつによりデータセンター冷却れいきゃく消費しょうひ電力でんりょく削減さくげんができる。さらに、現在げんざい汎用はんようサーバーに採用さいようされている空冷くうれい方式ほうしきでは、空気くうきながれをつくるための冷却れいきゃくファンだけでも、IT機器きき必要ひつよう電力でんりょくの10~20%を消費しょうひしてしまう。この冷却れいきゃくシステムの消費しょうひ電力でんりょく削減さくげんすれば、必要ひつようとなる給電きゅうでん能力のうりょく抑制よくせいできるため、機器きき冷却れいきゃくのための消費しょうひ電力でんりょく削減さくげん可能かのうとなるという。

えきひたのための4つの対策たいさく商用しょうようけた

すでにKDDIでは2020ねんにフェーズ1として、台湾たいわん工業こうぎょう技術ぎじゅつ研究けんきゅういん(ITRI)とともえきひた冷却れいきゃく採用さいようしたコンテナがたデータセンターを試作しさく。その翌年よくねんにはフェーズ2として、三菱重工みつびしじゅうこうの「Yokohama Hardtech Hub」において、コンテナがたデータセンターの実証じっしょう実験じっけんおこなった。そして2022ねんはじまったフェーズ3では商用しょうよう導入どうにゅう見据みすえ、デル・テクノロジーズをふくめた21しゃ合同ごうどう運用うんよう体制たいせい確立かくりつ。そのなかで、KDDIの小山こやまネットワークセンターにおける実証じっしょう実験じっけんすすめられてきた。

それではこの実証じっしょう実験じっけんでは具体ぐたいてきに、どのようなことがおこなわれているのか。北山きたやまつぎのように説明せつめいする。

わたしたちがおこなっているのはえきひた専用せんようサーバーの開発かいはつではなく、Dell PowerEdgeサーバーのような汎用はんようサーバーをカスタマイズし、えきひた対応たいおうするというものです。そのためにまず、基本きほんてきな4つの対策たいさくほどこしています」

1つは、えきひた対応たいおう前提ぜんていとなる、冷却れいきゃくようファンのはずしだ。これだけでも前述ぜんじゅつのように、サーバーの消費しょうひ電力でんりょくを10~20%削減さくげん試算しさんしている。これにともない、ファームウエアの改修かいしゅうおこなわれている。また、空冷くうれいサーバーは20~40℃といった、空調くうちょうシステムが提供ていきょうする温度おんど範囲はんいない稼働かどうするように設計せっけいされており、温度おんどセンサーによってそれをえる温度おんど検出けんしゅつされたさいには、加熱かねつ防止ぼうし機能きのう動作どうさするようになっている。これにたいしてえきひたサーバーでは、たか冷却れいきゃく効率こうりつから50℃ちかくの温度おんどでもやすことが可能かのうであるため、ファームウエア改修かいしゅうにより温度おんど閾値をげる改修かいしゅうおこなっている。稼働かどう可能かのう温度おんどたかくなれば、それだけ冷却れいきゃく必要ひつようなエネルギーもすくなくなる。

2つは、CPUとヒートシンクを密着みっちゃくさせているグリス成分せいぶん変更へんこうだ。えきひた冷却れいきゃくでは「冷却れいきゃく」にサーバーをひたすことになるが、通常つうじょうのグリスでは冷却れいきゃくしてしまうからだ。

3つは、冷却れいきゃくたいする「耐油たいゆせい」をつケーブルやサーバーラベルなどを可能かのうかぎ選定せんていして導入どうにゅうしている。そして最後さいごの4つが、えきひた対応たいおうひかりケーブルの活用かつようだ。「空冷くうれいサーバーで使つかわれているひかりケーブルを冷却れいきゃくなかれてしまうと、ひかり冷却れいきゃく侵入しんにゅうし、リンクアップしないという問題もんだい発生はっせいします。そこでプラスチック素材そざい充填じゅうてんし、ひかりへの冷却れいきゃく侵入しんにゅう防止ぼうししています」(北山きたやま)。

ファンをはずすだけではなく、サーバーを構成こうせいする部品ぶひん素材そざいも、冷却れいきゃくひたすことを前提ぜんてい選定せんていなお必要ひつようがあった

これらの対策たいさくくわえて、商用しょうよう視野しやれたいくつかのみもおこなわれている。

その1つが、ケーブル実装じっそう方式ほうしき改善かいぜんだ。空冷くうれいサーバーの場合ばあい、ラックへの格納かくのう水平すいへい方向ほうこうおこなうが、えきひたサーバーでは冷却れいきゃくたしたえきひたシステムにサーバーを格納かくのうする必要ひつようがあるため、うえから格納かくのうする必要ひつようがある。

つまりラックをよこたおしてうえからのみアプローチする、といったかたちにならざるをない。サーバーの格納かくのう方法ほうほうわれば当然とうぜんながら、ケーブリングの方法ほうほうあらためてかんがなお必要ひつようしょうじる。サーバーをえきひたシステムかられするさいに、邪魔じゃまにならないように配線はいせんすることがもとめられるからだ。そのために、えきひたシステムの上部じょうぶにサーバーと平行へいこうになるようケーブルハルタ(ケーブルるいをまとめるための収束しゅうそく器具きぐ)を設置せっち、ケーブル種別しゅべつごとに配線はいせん干渉かんしょうしないようにケーブルガイドパネルも準備じゅんびされた。また、ケーブルの終端しゅうたん接続せつぞくさき識別しきべつするケーブルラベルなども冷却れいきゃくれても識別しきべつ支障ししょうがないような工夫くふうおこなっている。

えきひたシステムにうえからサーバーを実装じっそうするために、ケーブル実装じっそう方式ほうしきさい検討けんとうされた。ケーブルるいをまとめるケーブルハルタも、専用せんようのものがあらたに追加ついかされている

またメンテナンスをかんがえれば、えきひたシステムからしてサーバー単体たんたい動作どうさ確認かくにんおこなうための仕組しくみももとめられる。そのために、動作どうさ確認かくにん一時いちじてき可能かのうにする「簡易かんいえきそう環境かんきょう」を用意よういされている。

さらに、えきひたシステムの動作どうさじょうきょう確認かくにん異常いじょう検知けんちのための監視かんしシステムもかせない。そのために、遠隔えんかく操作そうさ可能かのう統合とうごう管理かんりシステムも実現じつげんした。

これらにくわえ、えきひた利用りようしたサーバーを、もと空冷くうれいサーバーにもどすための手順てじゅん策定さくていされた。えきひた利用りようしたサーバーには冷却れいきゃく付着ふちゃくしているが、これを洗浄せんじょう洗浄せんじょうし、冷却れいきゃくファンのさいけや空冷くうれい使用しようのPSUへの交換こうかん通電つうでん確認かくにん、サーバーOSの起動きどう確認かくにんまでを、明確めいかくしているわけだ。

えきひたシステムの普及ふきゅうにおける「3つのりつそく条件じょうけん

「これまでの実証じっしょう実験じっけんつうじて、いくつかの知見ちけんることができました」と北山きたやま講演こうえんではそのなかから、2つが紹介しょうかいされた。

1つは、えきひた冷却れいきゃくてきしたヒートシンクの設計せっけいである。「通常つうじょう空冷くうれいヒートシンクでは、フィンピッチ1.6mm、フィンあつ0.3mmが最適さいてきだとされています。しかしこれをそのままえきひたシステムで使用しようすると、冷却れいきゃく流速りゅうそく空気くうきことなるため、ねつまりが発生はっせいすることがかりました。そこで複数ふくすうのフィンピッチ/フィンあつでシミュレーションをおこなった結果けっかえきひたもとではフィンピッチ3.5mm、フィンあつ0.8mmが最適さいてきだと判明はんめい、これによって冷却れいきゃく効率こうりつを1.24ばいたかめています」。

空気くうき冷却れいきゃくでは流速りゅうそくことなるため、CPUヒートシンクの形状けいじょうえる必要ひつようがある

もう1つは、「えきひたシステムにてきした冷却れいきゃく素材そざい」だ。サーバー内部ないぶには、接着せっちゃくざいやPVC(ポリ塩化えんかビニル)、EPDM(エチレンプロピレンジエンゴム)が使つかわれているが、これらと相性あいしょうわる冷却れいきゃくすくなくない。そこで代表だいひょうてきな19種類しゅるい冷却れいきゃくをリストアップし、これらの素材そざい実際じっさいひたすことで、それぞれの相性あいしょう検証けんしょう長期ちょうきてき運用うんよう見据みすえたさいに、使つかうべきではない冷却れいきゃく基礎きそデータが収集しゅうしゅうできたという。

わたしたちは商用しょうよう利用りよう見据みすえてこれらの実証じっしょう実験じっけんすすめていますが、実際じっさいえきひたシステムの普及ふきゅうには3つも条件じょうけん存在そんざいするとかんがえています。だい1はニーズの拡大かくだい汎用はんようだい2はAI/5GなどのIT高度こうどともな冷却れいきゃく要求ようきゅうたかまり、そしてだい3が運用うんよう改善かいぜん保守ほしゅ体制たいせい整備せいびです。だい3の条件じょうけんかんしては、えきひたシステムをメンテナンスできる人材じんざい育成いくせいや、えきひた利用りようしたパーツの廃棄はいきさい利用りようといった問題もんだい解決かいけつしなければなりません。これら3つの要素ようそ成熟せいじゅくするとともに、環境かんきょう保護ほごしょう電力でんりょくへの要求ようきゅう外部がいぶ要因よういんとしてさらにたかまることで、えきひたシステムの普及ふきゅうすすむのではないでしょうか」(北山きたやま

なお実証じっしょう実験じっけん使つかわれているようなえきひたシステムソリューションは、デル・テクノロジーズが東京とうきょう大手町おおてまち本社ほんしゃ開設かいせつした「えきひた冷却れいきゃくラボ」でも、デモンストレーションをることが可能かのうだ。「実際じっさい実証じっしょう実験じっけんのシステムを見学けんがくしたときには、Dell PowerEdgeが冷却れいきゃくえきからげられて洗浄せんじょうされている様子ようすて、まるでうみからげられたようで感動かんどうしました。ぜひおおくのひと見学けんがくしていただきたい」と上原うえはらはなす。

当日とうじつは、PCを使つかったえきひたシステムのデモ展示てんじされ、来場らいじょうしゃ関心かんしんあつめていた

えきひたシステムが実際じっさいのデータセンターに実装じっそうされれば、消費しょうひ電力でんりょく低減ていげんおおきな効果こうか発揮はっきし、サステナビリティにも貢献こうけんすることになるだろう。今後こんごもこのイノベーションの動向どうこう着目ちゃくもくしたい。

わせ

デル・テクノロジーズ株式会社かぶしきがいしゃ

WEBサイトはこちら