「人とくるまのテクノロジー展2024 YOKOHAMA」に出展した日本TIのブース
これまでの次世代車の開発では、先進的ビジョンを掲げ、その達成を急ぐ傾向があった。自動化では完全自動運転車の普及を追い求め、電動化ではバッテリー電気自動車(BEV)の生産を理想としていた。
ただ、こうした機能を搭載できるのが高級車だけでは、CO2排出量の低減や交通事故の削減といった次世代車開発の社会的目的を果たすのは難しい。多くのユーザーが利用する多様な車種において、現実的で社会的意義の大きい新技術の早期導入が求められている。
時代と社会の要請に応えるべく、より安全でスマートな次世代車の実現と普及を後押しする半導体メーカーの1社がTIだ。先進性を追求するだけでなく、次世代車の多様なあり方にきめ細かく対応する豊富なソリューションを提供している。
先進運転支援システムを普及車にも展開
幅広い車種に搭載されるようになった先進運転支援システム(Advanced Driver-Assistance Systems:ADAS)。事故を未然に防止する予防安全を広めるため、各国政府の規制当局や業界団体は、対象車種を問わずADASの搭載を義務付ける方針である。
こうした事情を背景に日本TIは「人とくるま展」で、高級車からミドルクラス向け、さらには低コストで必要十分な予防安全機能を実装する普及車向けまで、多様なADASソリューションを披露した。主要機能を処理するプロセッサーのアーキテクチャーを「Arm®」に統一。開発資産の有効利用を促し、より多くの車種への展開を後押ししている。
高級車向けとしては、韓国StradVision社と共同開発した自動駐車・運転などの機能を備えるADASソリューションを展示した。フロントカメラと車両の前後左右に配置した4台の魚眼カメラで収集した200万画素の映像データ5つを、TI製SoC(System on a Chip)「TDA4VH-Q1」1つでディープラーニング(DL)技術を使って解析し、ADASとレベル2+以上の自動運転システムを実現する。「TDA4VH-Q1」にはDL用アクセラレーター「C7xDSP」を4つ搭載している。
「TDA4VH-Q1」SoCを搭載したADASソリューション。単一の「TDA4VH-Q1」を使用し、駐車と運転の双方に対応できるよう最適化している
ミドルクラス向けとしては、カナダLeddarTech®社と共同開発したADASソリューションを披露した。センサーフュージョンのアルゴリズムを、「C7xDSP」を1つ搭載したSoC「TDA4VM-Q1」に最適化した。ミリ波レーダー2台とフロントカメラ1台から得たデータを基に、悪天候でも精度を落とさず周囲を検知できる。
Leddartech®と共同開発したADASソリューションは遮蔽された物体に対する検出性能を備える
普及車向けには、米Phantom AI社と共同開発したソリューションを用意。200万画素のフロントカメラ1台で、予防安全の機能を実現する。2TOPS(Tera Operations per Second)の演算性能を持つDLアクセラレーター「C7x256v」を搭載したSoC「AM62A7-Q1」で、自動車の安全性能評価であるNCAP(New Car Assessment Program)の基準を満たすシステムを構成する。
車室内の状況を検知するソリューションも展示した。AI(人工知能)による目線検知技術を保有する、スウェーデンSmart Eye社と共同開発した車内モニタリング・ソリューションは、ドライバーの注意散漫や眠気を検知して警告を発する機能を実装。子どもの置き去り検知システム向けに、遮蔽物を通して子どもの動きを検知するミリ波センサーを用いたソリューションも披露した。
AM62Aプロセッサーを搭載した、ドライバーおよび車内モニタリングシステム。ドライバーの状態と車内のアクティビティを同時に監視できる
ソフトウエア化をワンストップで支援
自動車業界で注目が高まっているのが、市場に投入した後に機能を追加・更新できる「ソフトウエア定義車両(Software Defined Vehicle:SDV)」である。このSDVを実現するために、電気・電子システムを「ゾーンアーキテクチャー」へと刷新する動きが進んでいる。
ゾーン型では、これまで自動車の各所に設置したマイクロコンピュータ(マイコン)で分散処理していた多様な制御機能を、中央に置く高性能コンピュータや要所に配置したゾーンコントローラーに集中させる。それぞれを高速な車載Ethernetで接続し、機能をソフトウエアで実現することでハードウエア構成を簡素化する。
自動車の代表的なゾーンアーキテクチャー。ゾーンアーキテクチャーでは車内の物理的な位置に基づいて ECU(Electronic Control Unit) を分類し、集中型ゲートウェイを用いて通信を管理する
TIは、各OEMが思い描くゾーン型への移行シナリオに応じて、円滑かつ効率良く移行できるスケーラブルな半導体ソリューションを展示した。
TIでは、中央のコンピュータやゲートウェイに搭載する高性能プロセッサー、ゾーンコントローラー向けの高性能コントローラー、今後も限定的に残るエッジ制御用マイコンまで幅広く提供する。いずれもArm®アーキテクチャーで統一しており、チップ上で動作するソフトウエアを共用することで、多様な車種の効率的な開発を可能にしている。さらに「LIN」などの従来技術から、「CAN-FD」や車載Ethernetの「10BASE-T1」などの新技術まで様々な規格に対応するIPを保有しており、ゾーン型に移行する過渡期での要求に対し柔軟に応えられる。
Arm®アーキテクチャーで統一された半導体ソリューション
GaNやSiCなど新半導体材料を積極活用
電動化の領域では、BEVだけでなく、ハイブリッド車(HEV)や燃料電池車(FCV)などの電動車を適材適所に投入していく機運が高まっている。これに伴い、求められるパワーエレクトロニクスの仕様も多様になってきている。
TIは、制御用コントローラーからドライバーIC、パワースイッチまで、パワーエレクトロニクス・システムを構成する半導体を一括供給できるメーカーとして、オンボードチャージャー(OBC)やトラクションインバーター、バッテリー管理システム(BMS)といった電動化の要所で、競争力の高いソリューションを提供している。
OBCでは高速スイッチング周波数で動作するGaN FETを利用したソリューションを用意し、さらなる小型・軽量化を支援する。トラクションインバーターでは、SiC FETを利用したソリューションによって、一層の高効率化とサイズ・重量の削減を推し進める。BMSでは、ケーブルを削減して車両を軽量にするワイヤレスBMSに向けて、制御ソフトウエアも含めたソリューションを用意する。
TIのパワーエレクトロニクス・ソリューションは、機能単位で基板を分割したモジュラー設計を採用している。このため、車種ごとのシステム要件に応じて、容易かつ迅速にシステムを構成できる。
CASEによる新世界を実現するため、クルマは日々進化している。その恩恵を多くのユーザーに届けるための一翼をTIが担いそうだ。