eスポーツの選手せんしゅ寿命じゅみょうは20代だい。その後ごはどうなる？　チームオーナーに聞きくゲーマーのキャリア

良好りょうこうな関係かんけいを築きずき業界ぎょうかい全体ぜんたいの底上そこあげを目指めざす、有名ゆうめいeスポーツチームオーナーのふたり

eスポーツ対談たいだん　後編こうへん

　eスポーツ業界ぎょうかいにおける選手せんしゅ寿命じゅみょうは長ながくない。ゲームのジャンルによっては10代後半こうはんで最盛さいせい期きを迎むかえ、20代だい前半ぜんはんで引退いんたいする例れいも多おおい。だからこそ「引退いんたい後ごのキャリア形成けいせいが難むずかしい」と言いわれがちだが、選手せんしゅたちの仕事しごとぶりを間近まぢかで見みるeスポーツチームのオーナーに聞きくと「仕事しごとは増ふえつつある」そうだ。日本にっぽんのeスポーツ業界ぎょうかいをけん引いんするプロチーム「ZETA DIVISION」（ゼータ・ディビジョン）代表だいひょうの西原にしはら大輔だいすけ氏しと「REJECT」（リジェクト）の甲山こうざん翔しょう也氏に、選手せんしゅに求もとめられる資質ししつやキャリアについて聞きいた。

――ZETA DIVISIONとREJECTもそれぞれ「チームらしさ」があると思おもいますが、選手せんしゅやストリーマーを集あつめる上うえでこだわっている点てんはありますか。

甲山こうざん　「一番いちばん強きょうそう」「しっかりしてそう」ですね。そういうリーダー気質きしつのプレーヤーを最初さいしょに採とり、その人ひとから「どういう選手せんしゅが成長せいちょうするのか」「チームに何なにが足たりていないのか」などをヒアリングしながらチームを作つくっていきます。あとは、REJECTっぽい人ひとが好すきですね。

西原にしはら　REJECTっぽい人ひと......僕ぼくは何なんとなくわかるけど、具体ぐたい的てきにはどういう人ひと？

甲山こうざん　前まえに行いきたがる、アタッカー気質きしつの選手せんしゅですね。バンバン詰つめていくような人ひとが好すきです。ストリーマーであれば、キャラが濃こい方ほう、攻せめている方ほう。「反骨はんこつ精神せいしん」はREJECTのどの部門ぶもんにも共通きょうつうしているテーマです。人気にんきはあとからついてくるので、選手せんしゅとしては優秀ゆうしゅうだけどSNSは下手へた。そんな子こが好このみですね。

西原にしはら　すごく甲山こうざんさんらしいね。「強つよい」は大前提だいぜんていですけど、僕ぼくの場合ばあいはもう少すこしマイルドです。既存きそんの部門ぶもんに新あらたにメンバーを加くわえる時ときなどは、コーチの意見いけんも参考さんこうにして採用さいようすることが多おおいかな。

　あと「敬意けいいを持もって活動かつどうできる」ってところは重要じゅうようかもしれない。我々われわれチームは選手せんしゅやストリーマーに敬意けいいを持もって支ささえているつもりだけど、お互たがいの信頼しんらい関係かんけいが構築こうちくできないと、長ながく続つづかないですよね。

　あと、あえて僕ぼくの個人こじん的てきな好このみを言いうなら、スタイルを持もっている人ひとが好すきですね。ファッションセンスや雰囲気ふんいき、オーラが独特どくとくな人ひと。eスポーツはファンビジネスでもあるから、唯一ゆいいつ無二むにの空気くうきをまとっている人ひとをほしいと思おもっちゃいます。

――オーナーとして、選手せんしゅのキャリアについて話はなすこともあるのでしょうか？　特とくに、eスポーツ選手せんしゅのセカンドキャリアは業界ぎょうかいの課題かだいとして挙あげられることも多おおいですよね。

西原にしはら　僕ぼくの場合ばあい、ZETAに加入かにゅうしてもらう際さいに必かならずキャリアの話はなしをします。選手せんしゅなら現状げんじょうの選手せんしゅ活動かつどうについてしっかり話はなし合あいつつ、将来しょうらいの話はなしもします。選手せんしゅは競技きょうぎに集中しゅうちゅうしがちですが、ファンがいなければ何なにも成なり立たちませんよね。だから、ファンに対たいする活動かつどうも選手せんしゅ自身じしんが頑張がんばらなくてはいけません。それが本人ほんにんのためでもあり、チームのためにもなる。

「競技きょうぎで結果けっかを出だすこと」は"目的もくてき"ではなく、本人ほんにんが競技きょうぎ含ふくめゲームをプレーして稼かせげるようになるための"手段しゅだん"と考かんがえなければキャリアは続つづかないと、具体ぐたい的てきな話はなしも交まじえて明確めいかくに伝つたえています。

　選手せんしゅ生命せいめいが短みじかい点てんも必かならず説明せつめいしますね。eスポーツの世界せかいは想像そうぞう以上いじょうに厳きびしいし、今後こんごもさらに激化げきかすると思おもいます。一部いちぶの例外れいがいはありますが、選手せんしゅとしての全盛期ぜんせいきはあっという間まに終おわる現実げんじつは必かならず伝つたえています。

甲山こうざん　選手せんしゅのセカンドキャリアって、実じつはどこにでもあると思おもっています。選手せんしゅたちは情報じょうほうを集あつめるのが速はやく、実際じっさいにリサーチを任まかせていることもあります。プロの世界せかいを知しっているからこそ、他たとは違ちがう情報じょうほうも持もっていますしね。コーチや講師こうし、アナリスト、チームスタッフなどいろんな選択肢せんたくしがあります。

　だから、まずはファーストキャリアの整備せいびこそが第だい一いち。ファーストキャリアでしっかり活躍かつやくすれば、ちゃんと生いきていける世界せかいを作つくりたいですね。そういう思おもいで練習れんしゅう環境かんきょうを整ととのえていますし、選手せんしゅ約やく40人にんに対たいして20人にんの社員しゃいんも抱かかえています。

　ストイックな選手せんしゅに対たいして全力ぜんりょくでサポートしますが、逆ぎゃくに練習れんしゅうしない選手せんしゅは厳きびしい目めで見みてしまいますね。僕ぼくが選手せんしゅ活動かつどうを諦あきらめてオーナー業ぎょうに専念せんねんした経験けいけんがあるので、小ちいさなジェラシーもあって（笑）。

西原にしはら　特とくに運営うんえい側がわの目線めせんや演者えんじゃとしての意識いしきも持もてるような意識いしきの高たかい選手せんしゅは、重宝ちょうほうされますよね。そういう意識いしきがある選手せんしゅはまだ少すくないですが、今後こんごはどんどん増ふえてくると思おもいます。

　とはいえ、まずは選手せんしゅとしての価値かちを高たかめることが重要じゅうようです。eスポーツだと20代だいでキャリアが終おわることが多おおく、特殊とくしゅな事例じれいでも30代だいがギリギリのラインです。そこは選手せんしゅたちもわかっていて、この世界せかいでどれくらい影響えいきょう力りょくを持もてるか、勝かつだけではなくSNSや配信はいしんも頑張がんばれるか、自分じぶんのコミュニティを作つくれるか。自分じぶんのファンとダイレクトにコミュニケーションを取とる部分ぶぶんは、最近さいきんの音楽おんがく業界ぎょうかいとよく似にていますね。これをネイティブに理解りかいして実践じっせんできるプレーヤーには先さきがあると思おもいます。

甲山こうざん　「勝かちたい」だけじゃなくて「勝かってこうなりたいから、今いまこれを頑張がんばります」って言いえる選手せんしゅも増ふえてきましたね。運営うんえいからしても大切たいせつな存在そんざいですし、間違まちがいなく将来しょうらいの選択肢せんたくしも増ふえます。

西原にしはら　eスポーツ選手せんしゅのセカンドキャリアでの花形はながたはストリーマーですが、実際じっさいはストリーマーとして活躍かつやくできる人ひとは非常ひじょうに少すくない。しかし他たの選択肢せんたくしはより現実げんじつ的てきな可能かのう性せいがあります。たとえばうちのチームのマネージャーやディレクター陣じんは元もとプロ選手せんしゅが多おおく在籍ざいせきします。eスポーツ関連かんれんの専門せんもん学校がっこうなども、講師こうしが足たりていないと聞ききます。実績じっせきを残のこしたプレーヤーなら、セカンドキャリアを心配しんぱいする必要ひつようはありません。

甲山こうざん　ゲームのテストプレーも、プロは重宝ちょうほうされていますよね。普通ふつうのプレーヤーだと思おもいつかないようなことをやりますし。

西原にしはら　開発かいはつ期間きかんが長ながいタイトルだと、企画きかく段階だんかいから意見いけんを求もとめられることもあります。テストプレーが実際じっさいに仕事しごとになっていて、興味深きょうみぶかい分野ぶんやですよね。

――eスポーツチームとしても「チーム運営うんえい」以外いがいのビジネスに挑戦ちょうせんする事例じれいが増ふえてきました。おふたりが新あらたに挑戦ちょうせんしたい分野ぶんやはありますか？

西原にしはら　eスポーツ、つまりゲームを競技きょうぎとして見みるカルチャーは、ゲームコミュニティのなかでは最もっとも濃こい部分ぶぶんだと思おもいます。ZETAでも濃こいタイトルに注力ちゅうりょくしていますが、今後こんごはよりライトな、たとえば「ゲームを見みる」カルチャーも重視じゅうししていきたいです。

　タレントやミュージシャンと一緒いっしょに取とり組くむなど、別べつのエンタメ分野ぶんやとのクロスオーバーをしていきたいですね。ふだん交まじわらない人ひとが一緒いっしょに楽たのしめる世界せかいを目指めざしていきたいです。

甲山こうざん　僕ぼくのミッションはeスポーツの産業さんぎょう化かです。YouTuberに対たいする見方みかたが大おおきく変かわったように、eスポーツ選手せんしゅに対たいする印象いんしょうも変かえていきたいですね。今いま、徐々じょじょにポジティブな認識にんしきが広ひろまってきているので、この流ながれをどんどん推おし進すすめていきたい。

　そのためにはeスポーツチームがビジネスとして成立せいりつしていることを、あらゆる方面ほうめんに発信はっしんしていく必要ひつようがあります。チームとしての露出ろしゅつを増ふやし、経済けいざい界かいにも積極せっきょく的てきにアプローチしたい。REJECTが筑波大学つくばだいがくとの共同きょうどう研究けんきゅうを始はじめたのも、スポーツ科学かがくという切きり口くちで発信はっしんしたいと考かんがえたからです。

西原にしはら　eスポーツ業界ぎょうかいの環境かんきょうが整ととのいつつある今いま、次つぎのステップは甲山こうざんさんが言いうような多方面たほうめんへのPR、特とくに4大だいマスメディアへの露出ろしゅつが重要じゅうようになると思おもいます。お茶ちゃの間あいだにも届とどくレベルで、認知にんち拡大かくだいを目指めざしていきたいですね。

甲山こうざん　トップのプロ選手せんしゅにはものすごく価値かちがあるし、ひとつの分野ぶんやに特とく化かしている人ひとがどれだけカッコいいか、もっと知しってもらいたい。多様たよう性せいの重要じゅうようさが広ひろまるにつれ、必かならず評価ひょうかされるようになると確信かくしんしています。

　ただ、外そとから見みるとまだまだ仮説かせつ検証けんしょうの段階だんかいです。僕ぼくたちなりにロールモデルを形成けいせいしていくしかなく、そのためにREJECT では広告こうこく代理だいり店てんや芸能げいのうマネジメント経験けいけん者しゃの力ちからを積極せっきょく的てきに借かりていますが、この方針ほうしんが正解せいかいかどうかわかるのはこれからですね。

西原にしはら　選手せんしゅだけじゃなくて、専門せんもん性せいの高たかい人材じんざいが入はいってこないと欧米おうべいのチームのように成長せいちょうしていけないですよね。今いままでも手探てさぐり状態じょうたいでしたし、これからも未知みちの世界せかい。どういった手法しゅほうが正解せいかいかは誰だれにもわからない。だからこそ、挑戦ちょうせんし甲斐がいがあると思おもいます。

【Profile】
西原にしはら大輔だいすけ（にしはら・だいすけ）
eスポーツチーム「ZETA DIVISION」のオーナー。GANYMEDE株式会社かぶしきがいしゃ代表だいひょう取締役とりしまりやく。20代だいよりグラフィックデザイナー、アートディレクターとして広告こうこく制作せいさくや音楽おんがくアーティストのアートワークなどのデザイン業ぎょうでキャリアを重かさね、現在げんざいはeスポーツチーム運営うんえいに携たずさわる。

甲山こうざん翔しょう也（こうやま・しょうや）
株式会社かぶしきがいしゃREJECT代表だいひょう取締役とりしまりやく社長しゃちょう。1999年ねん生うまれ、大阪おおさか府ふ出身しゅっしん。10代前半ぜんはんよりFPSのプレーヤーとして活躍かつやくし、プロゲーミングチームのメンバーに勧誘かんゆうされるもオーナーが失踪しっそう。そこで大学だいがく在学ざいがく中ちゅうの19歳さいで自みずから会社かいしゃを立たち上あげ、選手せんしゅからオーナーに転身てんしんした。