読者どくしゃと選えらぶ2023年ねんの人文じんぶん書しょベスト30「紀伊國屋きのくにやじんぶん大賞たいしょう2024」
（2022年ねん11月～2023年ねん11月／第だい14回かい）

「読者どくしゃの皆みなさまと共ともに優すぐれた人文じんぶん書しょを紹介しょうかいし、魅力みりょくある『書店しょてん空間くうかん』を作つくっていきたい」――との思おもいから立たち上あげた「紀伊國屋きのくにやじんぶん大賞たいしょう」。おかげさまで、毎年まいとしたくさんのご応募おうぼと推薦すいせんコメントをお寄よせいただいております。一般いっぱん読者どくしゃの方々かたがたからいただいたアンケートを元もとに、出版しゅっぱん社しゃ、紀伊國屋きのくにや書店しょてん社員しゃいんによる推薦すいせんを加味かみして事務じむ局きょくにて集計しゅうけいし、ベスト30を選定せんていいたしました。

大賞たいしょう『検証けんしょう　ナチスは「良よいこと」もしたのか？』特別とくべつ寄稿きこう

小野寺おのでら拓也たくやさん

　「歴史れきし研究けんきゅう者しゃの仕事しごとは、事実じじつがあったかなかったかを見極みきわめて社会しゃかいに提示ていじすること。それ以降いこうは人ひとびとが各自かくじで判断はんだんすればよい」。そう考かんがえる方ほうは少すくなくないのではないでしょうか。確たしかに事実じじつの確定かくていは重要じゅうようです。でもそれ以上いじょうに歴史れきし研究けんきゅう者しゃにとって重要じゅうような仕事しごとは、その事実じじつを「文脈ぶんみゃくの中なかに位置いちづける」という営いとなみだと思おもいます。その事実じじつが時代じだいや社会しゃかい全体ぜんたいの中なかでどのような意味いみを持もっていたのかを、適切てきせつに判断はんだんすること。そのために必要ひつようなのが、それまでの研究けんきゅうの膨大ぼうだいな積つみ重かさねと向むかい合あうことです。そうした「研究けんきゅう史し」の蓄積ちくせきを無視むししてしまうと、どんな優すぐれた分析ぶんせき能力のうりょくをもつ研究けんきゅう者しゃであっても、全体ぜんたい像ぞうや文脈ぶんみゃくが見みえないまま、個別こべつの事象じしょうについて誤あやまった判断はんだんをしてしまうことになります。

　ナチズムを例れいにしながら、「歴史れきし的てきに物ものを考かんがえるとはどういうことなのか」をできるだけ多おおくの人ひとびとに伝つたえたいというのが、私わたしが本書ほんしょを執筆しっぴつした一番いちばんの動機どうきでした。多おおくの読者どくしゃに支ささえられてこの賞しょうをいただけたことを、何なによりも嬉うれしく思おもいます。

小野寺おのでら拓也たくや（おのでら たくや）
1975年ねん生うまれ。東京大学とうきょうだいがく大学院だいがくいん人文じんぶん社会しゃかい系けい研究けんきゅう科か博士はかせ課程かてい修了しゅうりょう。 博士はかせ（文学ぶんがく）。昭和女子大学しょうわじょしだいがく人間にんげん文化ぶんか学部がくぶ専任せんにん講師こうしを経へて、現在げんざい、東京外国語大学とうきょうがいこくごだいがく大学院だいがくいん総合そうごう国際こくさい学がく研究けんきゅう院いん准じゅん教授きょうじゅ。専せん門もんはドイツ現代げんだい史し。 著書ちょしょに『野戦やせん郵便ゆうびんから読よみ解とく「ふつうのドイツ兵へい」――第だい二に次じ世界せかい大戦たいせん末期まっきにおけるイデオロギーと「主体性しゅたいせい」』（山川やまかわ出版しゅっぱん社しゃ）、訳書やくしょにウルリヒ・ヘルベルト『第だい三さん帝国ていこく――ある独裁どくさいの歴史れきし』（KADOKAWA）などがある。

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田野たの大輔だいすけさん

　「ナチスは良よいこともした」という主張しゅちょうが後こうを絶たたないのは、自分じぶんの願望がんぼうに合あわせて都合つごうよく歴史れきしを語かたろうとする姿勢しせいがあまりにも広ひろまっているからです。人ひとそれぞれの立場たちばから過去かこを見みようとする姿勢しせいは、ある程度ていどは避さけられないものですが、だからといって、好すきなように歴史れきしを切きり取とって叙述じょじゅつしてよいというわけではありません。著いちじるしく妥当だとう性せいを欠かいた恣意しい的てきな主張しゅちょうに対たいしては、専門せんもん家かがきちんと反論はんろんしておかなければならない。さもないと、社会しゃかいを成なりたせている基本きほん的てきな価値かち観かんまで損そこなわれてしまう。私わたしが本書ほんしょを執筆しっぴつしようと考かんがえた理由りゆうには、そうした危機きき感かんがありました。

　本書ほんしょの刊行かんこう後ご、「歴史れきし修正しゅうせい主義しゅぎと闘たたかう武器ぶきを与あたえてもらった」という感想かんそうが寄よせられました。巷ちまたに蔓延はびこるナチス肯定こうてい論ろんに自信じしんをもって反論はんろんする手段しゅだんを提供ていきょうすること、それが本書ほんしょを執筆しっぴつした最大さいだいの狙ねらいでしたから、まさに意いを得えたりという思おもいです。社会しゃかいの基盤きばんを守まもるための「雪ゆきかき」にも似にた仕事しごとでしたが、そうした努力どりょくが多おおくの方々かたがたに支持しじされ、このような賞しょうまでいただけたことを、とても心強こころづよく思おもっています。

田野たの大輔だいすけ（たの だいすけ）
1970年ねん生うまれ。京都きょうと大学だいがく大学院だいがくいん文学ぶんがく研究けんきゅう科か博士はかせ後期こうき課程かてい研究けんきゅう指導しどう認定にんてい退学たいがく。
博士はかせ（文学ぶんがく）。大阪経済大学おおさかけいざいだいがく人間にんげん科学かがく部ぶ准じゅん教授きょうじゅ等とうを経へて、現在げんざい、甲南大学こうなんだいがく文学部ぶんがくぶ教授きょうじゅ。専せん門もんは歴史れきし社会しゃかい学がく、ドイツ現代げんだい史し。
著書ちょしょに『ファシズムの教室きょうしつ――なぜ集団しゅうだんは暴走ぼうそうするのか』（大月書店おおつきしょてん）、『愛あいと欲望よくぼうのナチズム』（講談社こうだんしゃ）、『魅惑みわくする帝国ていこく――政治せいじの美学びがく化かとナチズム』（名古屋大学出版会なごやだいがくしゅっぱんかい）などがある。

＊「紀伊國屋きのくにやじんぶん大賞たいしょう2024」は2022年ねん11月がつ以降いこうに刊行かんこうされた人文じんぶん書しょを対象たいしょうとし、2023年ねん11月1日にち～11月がつ30日にちの期間きかんに読者どくしゃの皆みなさまからアンケートを募つのりました。
＊当とう企画きかくにおける「人文じんぶん書しょ」とは、「哲学てつがく・思想しそう、心理しんり、宗教しゅうきょう、歴史れきし、社会しゃかい、教育きょういく学がく、批評ひひょう・評論ひょうろん」のジャンルに該当がいとうする書籍しょせき（文庫ぶんこ・新書しんしょ含ふくむ）としております。
＊推薦すいせんコメントの執筆しっぴつ者しゃ名めいは、一般いっぱん応募おうぼの方ほうは「さん」で統一とういつさせていただき、選考せんこう委員いいんは(選せん)、紀伊國屋きのくにや書店しょてん一般いっぱんスタッフは所属しょぞく部署ぶしょを併記へいきしています。

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▼「紀伊國屋きのくにやじんぶん大賞たいしょう2024」選考せんこう委員いいんが選えらぶ！選外せんがいこの1冊さつ

紀伊國屋きのくにやじんぶん大賞たいしょう2024
（2022年ねん11月～2023年ねん11月／第だい14回かい）