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住む人の生き方から変える? “日本のガウディ”梵寿綱が創る「寿舞(すまい)」 | スーモジャーナル - 住まい・暮らしのニュース・コラムサイト
りる   |   これからのまい・らし
織田孝一
織田おだ孝一こういち
2017ねん10がつ5にち (木)もく

ひとかたからえる? “日本にっぽんのガウディ”梵寿つなつくる「寿ことぶきまい(すまい)」

住む人の生き方から変える?“日本のガウディ”梵寿綱マンションの魅力を知る
写真しゃしん撮影さつえい/織田おだ孝一こういち
現在げんざい日本にっぽんのマンションのほとんどは画一かくいつてきなデザイン、構造こうぞうです。そうしたなか異彩いさいはなつのが「日本にっぽんのガウディ」としょうされる建築けんちく、梵寿つな(ぼん・じゅこう)のつくられたマンション。その建築けんちく芸術げいじゅつひんとしての存在そんざいかんはなちつつ、なが人気にんきあつめています。そんな梵寿つな作品さくひんめぐるとともに、梵さん自身じしんからおはなしをうかがいました。

ひとしんうごかす建築けんちくをめざす

早稲田わせだえきからあるいて5ふんほどの位置いちにある「ドラード和世かずよ陀」は、梵寿つな作品さくひんなかでももっともよくられたもの。外壁がいへき彫刻ちょうこくやモザイクがほどこされ、曲線きょくせん目立めだ建築けんちくは、まるで生命せいめいたいのようです。

建物たてものそのものがかたりかけてくるような魅力みりょくがあり、周辺しゅうへん建物たてものとはまったくちがうアートとしての存在そんざいかんしめしています。奇抜きばつ外観がいかんえて、年月としつき経過けいかしても、その斬新ざんしんさは陳腐ちんぷしていません。これは近代きんだい建築けんちくでは稀有けうなことだとえるでしょう。それにしてもこれが賃貸ちんたいマンションだとはおどろきです。

梵寿つなさんはこうかたります。
ぼくは、すまいとは、“まい”でなく、“寿ことぶきまい(すまい)”だとっています。よろこびのなかひときる、そんな空間くうかんであるべきだと。ぼくじゅう空間くうかん合理ごうりせいもとめても意味いみがないとおもう。ちいさな日常にちじょう空間くうかん効率こうりつ追求ついきゅうしてもなにまれません。ひと日々ひびのふるまいのなかで、視点してんえながら、かべ天井てんじょうまどる。それによって気持きもちもうごく。そのときの心地ここちよさやゆたかさこそが大切たいせつぼく志向しこうするのは、そうした生活せいかつ感情かんじょう触発しょくはつするひとしんえる建築けんちくなのです」
 

【画像1】梵寿綱さん。独自の作風で日本のガウディと称される。1934 年(昭和9年)東京・浅草生まれ。背後のドラード和世陀の一室に住む(写真撮影/織田孝一)

画像がぞう1】梵寿つなさん。独自どくじ作風さくふう日本にっぽんのガウディとしょうされる。1934 ねん昭和しょうわ9ねん東京とうきょう浅草あさくさまれ。背後はいごのドラード和世かずよ陀の一室いっしつむ(写真しゃしん撮影さつえい織田おだ孝一こういち)

梵さんの仕事しごとすすかたも、現在げんざい基準きじゅんでは常識じょうしきやぶり。
明確めいかく完成かんせいがたがあり、そこにかってつくるというやりかたはしません。ぼく完成かんせい予想よそうえがかない。平面へいめんだてめんき、おおきな方針ほうしんめますが、曖昧あいまい状態じょうたいつくっておくんです。そうしないと完成かんせい予想よそうしばられてしまうからね。そのうちに、った職人しょくにんさんや芸術げいじゅつ参加さんかして、『おまえなにできるの? そうか、じゃ、これやってよ』みたいなかんじで共同きょうどう作業さぎょうはじまる。わば旅芸人たびげいにん一座いちざがあって、その面々めんめん得意とくいわざかし、おきゃくさんの様子ようすながら、たのしませる舞台ぶたいつくげていくかんじです」
梵さん自身じしんもアーティストであり、「ドラード和世かずよ陀」の外壁がいへき彫刻ちょうこくみずかったもの。旅芸人たびげいにん一座いちざ座長ざちょうにして脚本きゃくほん、そして役者やくしゃでもあるわけです。

【画像2】建築家自らが彫った外壁彫刻の一部。芸術性が迸り出ている(写真撮影/織田孝一)

画像がぞう2】建築けんちくみずからがった外壁がいへき彫刻ちょうこく一部いちぶ芸術げいじゅつせいほとばしている(写真しゃしん撮影さつえい織田おだ孝一こういち)

【画像3】エントランスを入った一角にある巨大な手の彫刻は、彫刻家(多摩美術大学名誉教授)の竹田光幸氏の作品(写真撮影/織田孝一)

画像がぞう3】エントランスをはいった一角いっかくにある巨大きょだい彫刻ちょうこくは、彫刻ちょうこく(多摩美術大学たまびじゅつだいがく名誉めいよ教授きょうじゅ)の竹田たけだ光幸みつゆき作品さくひん(写真しゃしん撮影さつえい織田おだ孝一こういち)

人生じんせい経験けいけんをすべて建築けんちく投影とうえいする

一見いっけん奇抜きばつなまでに「ぶっんだ」デザインですが、梵さんの設計せっけいしたマンションには、ながひとおおく、部屋へやるとすぐにまってしまう人気にんき物件ぶっけんです。

その理由りゆうはどこにあるのでしょうか。
いのちかたかかわる価値かちは、言葉ことばでは表現ひょうげんできません。その価値かち基準きじゅんにモノをえら程度ていどには日本にっぽん成熟せいじゅくしたということかな。いいかえれば、芸術げいじゅつひんえらぶのとおな感性かんせいで、すまいをえらひとえてきたということですね」
梵さんは、自分じぶん建築けんちくが、人間にんげん共通きょうつうする芸術げいじゅつもとめるしんひびくのは、ユングのう、集合しゅうごうてき無意識むいしき反映はんえいしているからではないかとかんがえています。

背景はいけいには、激動げきどうする時代じだいきた梵さんの人生じんせい経験けいけんがあります。1934ねん昭和しょうわ9ねん)、東京とうきょう浅草あさくさまれ。本名ほんみょう田中たなか俊郎としお建築けんちく設計せっけい事務所じむしょつくったとき、屋号やごうに、ヒンズひんずきょう最高さいこう原理げんりである「梵」をけたことから、のちにこれを発展はってんさせて「梵寿つな(ぼん・じゅこう)」と名乗なのるようになりました。

小学校しょうがっこう6年生ねんせいのときに敗戦はいせん。このときこった日本にっぽん社会しゃかい価値かちだい転換てんかんは、梵さんに痛烈つうれつ衝撃しょうげきあたえました。「昨日きのうまでべいえい敵視てきししていた大人おとなたちが、これからは民主みんしゅ主義しゅぎだとのひらをかえした。なか信用しんようできない、確固かっこたる自分じぶんがなければ、と心底しんそこおもいました」

早稲田大学わせだだいがく理工学部りこうがくぶ建築けんちく学科がっか卒業そつぎょう、1958ねん昭和しょうわ33ねん)に設計せっけい事務所じむしょ設立せつりつ。その、シカゴに留学りゅうがく、シカゴ美術館びじゅつかん付属ふぞく美術びじゅつ学校がっこうまなぶなど、海外かいがい見聞けんぶんひろめたのち帰国きこく、「賢者けんじゃいし」(賃貸ちんたいアパート)や「無量むりょう寿ことぶきまい:生命せいめい潮流ちょうりゅう」(特別とくべつ養護ようご老人ろうじんホーム)などのユニークな作品さくひんぐんしていきます。

ヨーロッパ様式ようしきのようで、細部さいぶにオリエンタルな独自どくじ作風さくふう

「ドラード和世かずよ陀」のいちかいには、アートギャラリー、アートブックショップ、アンティークショップが入居にゅうきょしています。いずれも経営けいえいしゃ小原おはらきよしさん(52)。20だいころからの梵寿つな建築けんちくのファンで、荻窪おぎくぼでアンティークウォッチのショップを経営けいえいしていましたが、2008ねんにこちらに移転いてんしてきました。

【画像4】「ドラード和世陀」の外壁にあるオブジェ。ヨーロッパ風建築に見えてディテイルには東洋的モチーフがあちこちに使われている(写真撮影/織田孝一)

画像がぞう4】「ドラード和世かずよ陀」の外壁がいへきにあるオブジェ。ヨーロッパふう建築けんちくえてディテイルには東洋とうようてきモチーフがあちこちに使つかわれている(写真しゃしん撮影さつえい織田おだ孝一こういち)

【画像5】「ドラード和世陀」一階にあるアートギャラリーで、オーナーの小原聖史さん(写真撮影/織田孝一)

画像がぞう5】「ドラード和世かずよ陀」いちかいにあるアートギャラリーで、オーナーの小原おはらきよしさん(写真しゃしん撮影さつえい織田おだ孝一こういち)

じつは梵寿つな名前なまえでしょっちゅうネット検索けんさくしてはていたのです。移転いてんさきべつところまりかけていたのですが、正式せいしき契約けいやく寸前すんぜんにネットをると、ちょうどここのきがたところで、おおっ!と。すぐ連絡れんらくりました」。はなしすすめていた物件ぶっけんをキャンセルし、「ドラード和世かずよ陀」に入居にゅうきょしました。

「梵さんの建築けんちく魅力みりょくは、本格ほんかくてきなアールデコ様式ようしきやガウディを彷彿ほうふつとさせる様式ようしきでありながら、けっして模倣もほうではなく、オリジナリティがあること。一見いっけん、ヨーロッパふうえて、細部さいぶにオリエンタリズムが凝縮ぎょうしゅくしているのもたのしいところですね」

テナントとして入居にゅうきょしてからやく9ねんいまはギャラリー事業じぎょう比重ひじゅうたかくなっているそうです。小原おはらさんは画家がかとしてのかおち、公募こうぼてん運営うんえいなどもしています。

「梵さんについてのほんしたり、公募こうぼてん審査しんさいんをおねがいしたりと、ご本人ほんにんともしたしくさせていただいています」(小原おはらさん)

【画像6】 一階のショップから外を見る。小原さんは丸窓がはめ殺しなので風を通せないことが唯一、残念な点という(写真撮影/織田孝一) 

画像がぞう6】 いちかいのショップからそとる。小原おはらさんはまるまどがはめごろしなのでふうとおせないことが唯一ゆいいつ残念ざんねんてんという(写真しゃしん撮影さつえい織田おだ孝一こういち) 

東京とうきょうには「ドラード和世かずよ陀」のほか、梵さん設計せっけい集合しゅうごう住宅じゅうたく数カ所すうかしょにあります。なかでも、世田谷せたがや代田橋だいたばしえき(京王線けいおうせん)ちかくには、「ラポルタイズミ」と「マインド」のむねがあり、あるける範囲はんいふたつの作品さくひんることができます。

【画像7】「ラポルタイズミ」のエントランス。巨大なレリーフが特徴(写真撮影/織田孝一)

画像がぞう7】「ラポルタイズミ」のエントランス。巨大きょだいなレリーフが特徴とくちょう(写真しゃしん撮影さつえい織田おだ孝一こういち)

【画像8】エントランスを内側から見る。ステンドグラスが幻想的な雰囲気を醸し出している(写真撮影/織田孝一)

画像がぞう8】エントランスを内側うちがわからる。ステンドグラスが幻想げんそうてき雰囲気ふんいきかもしている(写真しゃしん撮影さつえい織田おだ孝一こういち)

とくに「マインド」は梵さん自身じしんがやりたいように設計せっけいできたとかんじている建物たてもの施主せしゅがガウディきだったことから指名しめい設計せっけい依頼いらいされました。外壁がいへきにオレンジをおもわせるモザイク・いろのタイルが使つかわれ、内部ないぶにはパティオを設置せっちするなど、みなみスペインの雰囲気ふんいきかんじさせます。それがなぜか日本にっぽん住宅じゅうたくがいにしっくりとおさまっているのも梵寿つな建築けんちく不思議ふしぎなところです。

【画像9】「マインド和亜」の全景。一階にはコンビニのデイリーヤマザキが入居(写真撮影/織田孝一)

画像がぞう9】「マインド」の全景ぜんけいいちかいにはコンビニのデイリーヤマザキが入居にゅうきょ(写真しゃしん撮影さつえい織田おだ孝一こういち)

【画像10】「マインド和亜」の外壁は、オレンジの木を模したようなデザイン。南欧を感じさせる(写真撮影/織田孝一)

画像がぞう10】「マインド」の外壁がいへきは、オレンジのしたようなデザイン。南欧なんおうかんじさせる(写真しゃしん撮影さつえい織田おだ孝一こういち)

「マインド」の住民じゅうみん一人ひとりは、梵寿つな建築けんちくをめざしてここをおとずれ、りょう物件ぶっけん比較ひかく検討けんとうして入居にゅうきょしたそうです。「ここで生活せいかつできてとても満足まんぞく賃貸ちんたい価格かかくも10すうまんで、たかいとはおもいません。入居にゅうきょしゃはみなさん、ながむようです」
建築けんちく学生がくせいさんなどもおおいとのことでした。

【画像11】「マインド和亜」の内部には吹き抜けのパティオがある。日本とは思えない空間だ(写真撮影/織田孝一)

画像がぞう11】「マインド」の内部ないぶにはけのパティオがある。日本にっぽんとはおもえない空間くうかんだ(写真しゃしん撮影さつえい織田おだ孝一こういち)

名物めいぶつ建築けんちく、ユニーク物件ぶっけん出会であたのしさ

「マーケティングや合理ごうりせいだけで建築けんちくをしたらみなおなじになってしまう。しかも現在げんざいはITでそれが加速かそくする時代じだいいまこそ、アートの復権ふっけんをしなくてはいけないとおもいます」と、梵さんはかたります。

梵寿つな建築けんちく唯一ゆいいつ無二むに存在そんざいですが、ほかにも名物めいぶつ建築けんちくのマンションがないわけではありません。いまんでいる部屋へや、あるいは生活せいかつ不満ふまんかんじたら、そんな物件ぶっけんさがしてみてはどうでしょうか。自分じぶん個性こせいった、ユニークな物件ぶっけん出会であえれば、そこは梵さんのう、“寿ことぶきまい(すまい)”になるかもしれないのですから。

取材しゅざい協力きょうりょく
・梵寿つな
小原おはらきよし(DORADO GALLERY、DORADO BOOKS、Antique OLDTIMES)
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