名古屋市内にタイニーハウス専門の展示場が誕生したワケ
SUUMOジャーナルでも注目度が高いタイニーハウス。コロナ禍の2021年、名古屋市内に、全国的にも珍しいタイニーハウス専門の展示場「ニッカタイニーズパーク」がオープンした。ニッカホーム中部の奥園丈博さんに、今誕生させたワケやタイニーハウスへのニーズについて聞いた。
展示場には広さや形、素材が異なるタイニーハウスが並ぶ(写真撮影/本美安浩)
「ニッカタイニーズパーク」には、現在4棟のタイニーハウスが展示されている。「ニッカホーム」は、名古屋市緑区に本社を置くリフォーム会社で、東海地方を中心に全国に支店を展開。リフォーム時の廃材リサイクル事業のほか、東海3県では「すてない!プロジェクト」として、まだ使えるけれど使わなくなった家具や食器、衣類などを無償で回収し、発展途上国への寄付やリユースも行っている、先進的な取り組みをする会社だ。
1番人気のモデルプラン「タイプA ラップサイディングアメリカン」は、外壁が樹脂サイディングで実用性も抜群(写真撮影/本美安浩)
「タイプA」は約6帖(9.9平米)。建築確認申請が必要ない範囲(防火・準防火地域でなく10平米未満)で最大の広さ(写真撮影/本美安浩)
「タイニーズパークに関しては、コロナが広がり始めた2020年早春、弊社の榎戸欽治会長から話がありました。会長が、本社と同じ区内に現在の土地を購入した際に、『コロナ禍はテレワークが増加し、自宅に離れをつくりたいという人が増えるのでは。リフォームで培った経験を活かして、小屋専門の展示場をつくろう』と言って始まった事業です」
1番コンパクトな「タイプB モダンスタイルのテレワークルーム」は約2帖分(3.3平米)の広さ(写真撮影/本美安浩)
カウンターをつけて仕事や趣味に使う人が多いという「タイプB」。倉庫の需要もあるサイズ(写真撮影/本美安浩)
とはいえ、当時はこれほどコロナ禍が長引き、テレワークが浸透するとは誰も予想できなかった。そこで2020年夏、まずは10棟の小屋をバーベキュー施設としてオープン。そして2021年に、新たにニーズに沿った4棟のタイニーハウスと、事務所・平屋のモデルハウスを建てて、展示場として開業した。
新築事業も行うニッカホーム。奥園丈博さんは、ニッカタイニーズパークのほかニッカホーム新築事業部の事業部長を務め、新築の部門を担当(写真撮影/本美安浩)
コロナ禍が続く中、“本気”のニーズが増加
タイニーハウスのニーズに変化は感じられるのだろうか。
「小屋を扱い始めた当初は、興味本位の人が多かった印象です。でも現在は、テレワークや趣味に打ち込むことを見据えて具体的にプランを練り、ご家族の了承を得ているような、本気のお客さまが多いですね」
展示している小屋は、飲食店や雑貨店に貸し出し、マルシェを開いて、実際の使用感やサイズ感を試してもらうこともある。
雑貨店やワークショップなどが出店した2020年のマルシェ。出店者はテナント料無料で、小屋の使い心地を試すことができる(写真提供/ニッカホーム)
「私たちがつくるタイニーハウスの1番の特徴は、お客さまの敷地に合わせたフルオーダーです。展示場のタイニーハウスは参考程度にお考えいただき、お好みに合わせて、一からデザインします。ですから、規格品の小屋を考えていたものの、『デザインが気に入らない』『調べたら自宅の敷地には搬入できなかった』などの理由で困っていた方が弊社にいらっしゃいます」
一からデザインするフルオーダーで、いくらくらいのものなのか? 最多の価格帯は「テレワークなどができる5~6帖の小屋で、約200万円(工事費・消費税含む、以下同)ですね。これは車1台分ほどの余剰の土地があれば建てることができます。また、倉庫や物置として使う目的の2帖くらいの小屋であれば、130万円からが目安です」とのことだ。
扉が観音開きになる「タイプE 大開口のガレージルーム」は、大型の荷物もラクに搬入できてワイルド(写真撮影/本美安浩)
開口部が広い「タイプE」は約4.2帖(6.9平米)で、車やバイク、自転車が趣味の人に人気。開放感たっぷり(写真撮影/本美安浩)
名古屋市郊外の一戸建てであれば、夫婦と子ども、または来客用として、車3台分の駐車スペースを確保している家は珍しくない。車1台分の土地と約200万円の資金で手に入るなら、憧れのタイニーハウスがグッと身近に感じられるのでは。
自宅サロンやオシャレな物置としての需要も
「最近増えているのが、エステやネイル、まつ毛エクステのサロンなどを、自宅で開業したいというお客さまからのニーズです。自宅サロンとはいえ、プライベートと仕事のスペースを分けたいという人や、テナントを借りて賃料を支払うよりも、自宅の敷地内にタイニーハウスを建てようと考える人がいます。弊社では新築戸建も手掛けていますが、新築と同時に小屋を建てて、計画的に開業する人も増えていると感じます」
テレワークや趣味に使うタイニーハウスが200万円ほどであるのに対し、水回りの設備を完備するエステサロンなどでは、400万~500万円かける人が多いとのこと。自宅サロンがプライベートスペースから独立していれば、本人や家族だけでなくお客さん目線で考えても、相手に気を遣わなくていいので、よりリラックスできそうだ。
趣味のミシン部屋として使っている一宮市Sさんの小屋。リフォームや新築時に取り扱っているメーカーのドアを使用(写真提供/ニッカホーム)
大好きなフクロウ柄の壁紙を使ったSさんのミシン部屋。布や糸などの材料を広げたりしまったりするのがラクで、快適だそう(写真提供/ニッカホーム)
一方で倉庫や物置タイプのタイニーハウスも、「大きめの物置が欲しいけれど、景観は崩したくない」という人からの需要があるという。
「果樹園を持っている東郷町のお客さまは、敷地内に果実の出荷準備に使う小屋をつくり、エアコンを完備して休憩所としても使っています。また、ガーデニングがご趣味の名古屋市のお客さま(Sさん)は、手入れされたお庭になじむような小屋を希望され、庭先にログハウス風のタイニーハウスをつくりました」
用途こそ、日本に昔からある「小屋」の典型だが、デザイン性や快適性を高めることで、庭の雰囲気とマッチした現代的な空間をつくることができる。
庭の景観になじませた、名古屋市Sさんのログハウス風の小屋。夜はライトアップにより幻想的になり、毎日がキャンプ場で過ごしている気分に(写真提供/ニッカホーム)
インテリアも統一感を出したSさんの小屋。室内も山小屋の雰囲気たっぷり(写真提供/ニッカホーム)
間口が狭い名古屋の住宅地でフルオーダーが活躍
当初はテレワークのための需要を見込んでいたが、製造業に従事する人も多い愛知エリアでは、完全なテレワークに移行した人は少ない印象だそう。
「お客さまのお話では、出社と自宅勤務のハイブリッド型の方が多いようです。自宅勤務OKという日に、自由に使うことができ、すぐに仕事に取り掛かることができるスペースとしての小屋が望まれているのでしょうね」
在宅ワークが増えたので小屋をつくった名古屋市Hさん。メンテナンスのことを考えて、外壁はガルバリウム鋼板に(写真提供/ニッカホーム)
デスクワーク中に外からの視線を気にせず、庭の木々が眺められるように、窓の配置にこだわった(写真提供/ニッカホーム)
他にも、地域性が現れるようなニーズはあるのだろうか。
「名古屋市内は特に、敷地や間口が狭い住宅地が多いので、規格化された小屋はうまく建てられず、フルオーダーに需要があるのでは。愛知県内でも郊外部ではなく名古屋市内に小屋専門の展示場があるのは意外かもしれませんが、実際には市内でも市外でも、小屋が欲しい人はつくるものです。これまでどのような土地でも、建蔽率や容積率の許容範囲で、ご要望にお応えできています。現在のところは、一戸建てで土地にゆとりがあるお客さまが多く、県内では名古屋市のほか、日進市や刈谷市、豊田市や常滑市などの方がいらっしゃいます」
「タイプD 採光豊かな明るい小部屋」はトレンドのスクエア型が目を引く約3.1帖(5.1平米)。外壁材は、正面は天然木の板張りでも、残り三方向はサイディングにすることでメンテナンスをラクに(写真撮影/本美安浩)
約 3.1帖(5.1平米)と小さめの「タイプD」にエアコンなどを整備すれば、個室が必要になった子どもの部屋としてもおすすめだそう。また、大きめの約6帖(9.9平米)にしてショップとして使うケースも(写真撮影/本美安浩)
郊外では二世帯や三世帯で住む家庭も多く、タイニーハウスを介護に利用する人も。
「あるお客さまは、親御さんの介護のために、自宅リビングとデッキで繋げた、離れのタイニーハウスをつくりました。普段は介護施設で暮らす親御さんが一時帰宅した際、離れのタイニーハウスで過ごしてもらうことで、リビングと裸足で行き来してもらいながら、お互いのプライバシーも確保できます。『介護のために二世帯住宅へ建て替える』となると大掛かりですが、小屋を建てるのであれば、比較的手軽にスペースを増やすことができますし、親御さんが使わない時はほかの家族も利用しやすいと好評です」
また、両親や祖父母から相続した土地など、自宅から離れた場所にタイニーハウスを建てて活用する事例も増えているという。
「名古屋市に住む人が、祖父母さまから譲り受けた三重県の土地に小屋を建てるなど、ちょっとした別荘感覚で、時々羽を伸ばせる場所を持つというケースが見受けられます」
事例1:仕事に趣味に、「おうち時間」が大きく変化(名古屋市西区・Tさん)
それでは、実際にタイニーハウスを建てた人の事例をご紹介しよう。
名古屋市西区・Tさん
50代・女性 2021年6月完成 工期約1か月 費用約130万円+建築確認申請費用(約5帖8.2平米)
庭の敷地内にある縦長のスペースを活かして設計(写真提供/ニッカホーム)
――小屋をつくったきっかけは?
会社でテレワークがOKになったものの、新築の際、自分の書斎をつくっていませんでした。それまでは寝室にあるデスクで仕事をしていたのですが、生活にメリハリがつけにくく、机が小さいこともストレスだったので、思い切って、縦長にスペースが空いていた自宅の庭に、小屋を施工することにしました。
室内は、北欧などの小部屋をイメージして水色の塗装を採用(写真提供/ニッカホーム)
自宅の空き地を利用して、自由な設計の小屋ができそうだったので、お願いしました。また、展示場があり実際の小屋の仕上がりを現地で確認できることで、完成のイメージに近づけやすいと思ったからです。
――何を意識してデザインしましたか
この別棟は自分の空間なので好きにやろうと、アート作家のアトリエや、海外の雑誌にでてくる部屋などの自由な色使いを意識しました。北欧、あるいはスペインの小部屋を意識して、デザイナーさんにその旨を伝えました。採光とアクセントを兼ねた横長の窓をご提案いただき、採用しました。
――工夫したところは?
天井に傾斜をつけて、より広く感じられるようにしました。また、収納スペースがないので、壁に棚を付けて利用しています。
――現在、どのように使用していますか?
今は在宅ワークがほぼなくなったので、オンラインで始めたヨガなどに週に2、3回は使っています。やはり自分だけの空間は落ち着くので、読書をしたり、好きな音楽を聴いたりするのもここで。友人から頼まれる仕事もあるので、それに打ち込むこともあります。
仕事や趣味に打ち込むTさん。造作デスクの前におしゃれな有孔ボードを設置(写真提供/ニッカホーム)
――タイニーハウスができてから、一番生活が変わった点は?
仕事や趣味に集中しやすくなり、あまりカフェに行かなくなりました。好きな小物を配置するなど、おうち時間を楽しめるようになったと思います。すごく近い別荘みたいな感覚です。
窓際などに好みの小物をディスプレイしている(写真提供/ニッカホーム)
――今後はどのように使用したいですか?
自分専用のオフィスとして充実させたいです。立地の条件が合えば小さなショップを開いても面白いなと思います。
入り口ドアのそばにグリーンを飾って可愛らしく(写真提供/ニッカホーム)
事例2:アウトドアライフが日常になる、庭のシンボル(名古屋市名東区・Sさん)
名古屋市名東区・Sさん
50代・夫婦 2021年9月完成 工期約1か月(約4.2帖6.9平米)
――小屋をつくったきっかけは?
自宅の広い庭をきれいにしたいという気持ちがあり、そのシンボルになるような小屋を建てたいと思っていました。
外観と、広めのウッドデッキはSさんが自身で塗装。プロ顔負けの仕上がりに(写真提供/ニッカホーム)
二ッカタイニーズパークを見学した時に、展示してあった小屋に山小屋風のものがあり、イメージにピッタリだったので、そちらを参考にしました。希望通り、山小屋風で4.2帖のL字型の小屋ができました。
断熱材を入れなかったものの、ストーブがあれば冬もそれほど寒くないという(写真提供/ニッカホーム)
――デザインのポイントは?
外装は杉板張りで、天然の杉板を一枚一枚、鎧張りにしてもらったこと。内装の仕上げ材も杉板で、とても気に入っています。また、自宅にしまったままになっていたステンドグラスを使ってもらいました。
自宅に保管していたステンドグラスを活用。自由設計のいいところ(写真提供/ニッカホーム)
――大変だったところは?
外観と、大きめのウッドデッキの塗装を自分でやってみました。高いところは気を付けながら作業しました。
――現在、どのように使用していますか?
仕事から帰宅後、夕飯までの間をここで過ごしています。音楽を聴きながら読書をしたり、お茶を飲んだりと、ゆったり過ごしています。
――タイニーハウスができてから、一番生活が変わった点は?
夫婦で庭の手入れをする時間が増えました。
玄関・廊下・居室で構成されたL字型の小屋。玄関にはタイルを配した(写真提供/ニッカホーム)
――今後はどのように使用したいですか?
キャンプ用品を置けるように、少しずつ手を加えていきたいです。
小物選びに、自然を愛するSさんのセンスが光る(写真提供/ニッカホーム)
確かに最近、住宅の敷地内の小屋で開業したヘアサロンや焼菓子店などを見かける。
「今後も、自宅で自分らしいお店を開業したいという人は増えるのでは。自由設計で低コスト、工期も早いタイニーハウスの存在が、そういった方たちをサポートできるのではないかと思います」と奥園さんは話した。
お店を持つ以外でも、ワークスペースや趣味のスペースにと、タイニーハウスの活用方法はアイデア次第で自由自在に。タイニーハウス(小屋)を自宅の1室や離れのように考えると、住まい方への可能性もグッと広がっていきそうだ。