100万まん円えんでタイニーハウスをDIY。ノンフィクション作家さっかが6年ねんかけて9.9平米へいべいロフト付つきの小屋こやを作つくるまで　川内かわうち有ゆう緒いとぐち『自由じゆうの丘おかに、小屋こやをつくる』

「土地とち探さがしって難むずかしい。縁えんがあったこの流ながれに乗のろう」と土地とちを決きめた

山梨やまなし県けん甲州こうしゅう市しの塩山しおやま、山やまの中腹ちゅうふくにある集落しゅうらくに川内かわうちさんのつくった小屋こやがある。

「甲府こうふの街まちを一望いちぼうできる上うえに、山並やまなみも見みえます。空そらへの抜ぬけ感かんは、土地とちを選えらぶ上うえで大切たいせつなポイントでした」

当初とうしょは、明あかるい林はやしの中なかに立たつ小屋こやを想像そうぞうしていた川内かわうちさん。土地とち探さがしでは長野ながの県けんや千葉ちば県けんの房総半島ぼうそうはんとうも視野しやに入いれたが範囲はんいが広ひろすぎて決きめられなかった。そこに運命うんめいの出会であいが訪おとずれる。夫おっとのイオさんの友人ゆうじんでフリーランスライターの小野おの民みんさんから「使つかっていない自宅じたくの土地とちがあるので、好すきにしてどうぞ」と言いわれたのだ。その一言ひとことをきっかけに、初はじめて塩山しおやまの地ちを訪おとずれた。

土地とちの広ひろさは約やく100坪つぼ。同おなじ敷地しきちに、民みんさんの夫おっとで、発酵はっこうデザイナーの小倉こくらヒラクさんが、研究けんきゅう用ようのラボをコンテナでつくる計画けいかくが進すすんでいた。
その隣となりに、川内かわうちさんも小屋こやをつくることに決きめた。無理むりなく建築けんちくできる広ひろさを考かんがえた結果けっか、床ゆか面積めんせきは9.9平米へいべい、天井てんじょうの高たかさは約やく3メートルの小屋こやになった。

「予想よそう外がいのひと言ことから始はじまった計画けいかくですが、こういう土地とちってなかなか出会であえないので、この流ながれに乗のろうと決きめました。友達ともだちの建築けんちく家かも『眺ながめが良よくていいじゃないですか』と太鼓判たいこばんを押おしてくれたんです。それに山梨やまなし県けん甲州こうしゅう市しは特急とっきゅうに乗のれば、東京とうきょうから90分ふんというアクセスも魅力みりょく的てき。車くるまでも2時じ間あいだ半はんほどですし、さまざまなルートで自宅じたくと小屋こやを往復おうふくできることも後押あとおしになりました」

朝あさ早はやい時間じかんに東京とうきょうを出でれば、午前ごぜん中ちゅうには塩山しおやまに到着とうちゃくできる。準備じゅんびと片付かたづけに約やく1～2時じ間あいだほどかかるセルフビルドでは、交通こうつうの利便りべん性せいの良よさがポイントになった。

「選えらんだ土地とちから、一番いちばん近ちかいホームセンターまでは車くるまで10分ふんほどでした。ビスやペンキが足たりない時ときはすぐ買かいに行いけますし、道路どうろと面めんした土地とちなので、資材しざいを運はこぶにも都合つごうが良よかったです」

ホームセンターには、1日にちに3往復おうふくすることもあったそう。「段取だんどりをうまくやればそんなに行いく必要ひつようはないはずなんですけど」と川内かわうちさんは笑わらうが、慣なれない初心者しょしんしゃのセルフビルドには想定そうてい外がいはつきものだ。出来できるだけ資材しざいを調達ちょうたつ・運搬うんぱんしやすい土地とちを選えらんだのが成功せいこうの鍵かぎにもなった。

セルフビルドで感かんじた「形かたちができていく喜よろこび」

川内かわうちさんの小屋こやづくりは、伸のび放題ほうだいの草くさを刈かり、土地とちをならし、基礎きそをつくるところから始はじまった。

「最初さいしょの作業さぎょうは肉体にくたい労働ろうどうが大半たいはんで、本当ほんとうにしんどかったです。材料ざいりょうは重おもたいし、基礎きそに必要ひつようなパーツは大おおきいし、家具かぐをつくるのとは全然ぜんぜん違ちがう。それでも最初さいしょのころはやる気きがあるから、なんとか完成かんせいさせられました」

基礎きそが完成かんせいした先さきは、DIYで家いえを好すきなようにアレンジする感覚かんかくに近ちかいのだそう。

「こだわりを詰つめ込こんで理想りそうを追求ついきゅうしつつも、現実げんじつに打うちのめされながら実行じっこうしていくんです」

話はなしを伺うかがっているとどの作業さぎょうも大変たいへんそうに聞きこえるが「小屋こやをつくっていると仲間なかまが増ふえていくので、作業さぎょうは楽らくになっていきますよ」と語かたる。

確たしかに川内かわうちさんのエッセイでは、小屋こやづくりに関かかわる仲間なかまたちがどんどん増ふえていく。大工だいくの丹羽にわさんや建築けんちく家かのタクちゃんといった専門せんもん家かから、時ときには小屋こやづくりに興味きょうみを持もった子こどもたちまで参加さんかしていくのだ。ノンフィクション作家さっかで人脈じんみゃくがあるのかと聞きいてみると、そうではないという。

「小屋こやをつくっていることを話はなすと、『手伝てつだいたい』と言いってくれる人ひとが続々ぞくぞくと現あらわれるんです。家いえをきれいにする参考さんこうにしたいとか、大工だいく仕事しごとが好すきで手伝てつだいたいとか。作業さぎょうには興味きょうみないけど、楽たのしそうだから見みに来きたいという人ひともいます。人手ひとでが足たりない時ときは、誰だれかに話はなしてみるのも一ひとつの手てだと思おもいます」

小屋こやづくりに関かかわるのは、川内かわうちさんの友人ゆうじんだけではない。近隣きんりんの人ひとが声こえをかけてくれることもあったという。

「うちの草刈くさかり機きを使つかった方ほうが早はやいよ、と貸かしてくださることもありましたね。それにセルフビルドをやっている方々かたがたからどういう風ふうに施工しこうしたか、教おしえてもらうこともありました」

小倉おぐらヒラクさんの知しり合あいで温泉おんせん・旅館りょかんを営いとなむ人ひとから、資材しざいをもらったこともある。

「昔むかしの民家みんかが取とり壊こわされる時ときに、貴重きちょうな資材しざいをレスキューしている方ほうなんです。それでいろんな材料ざいりょうをいただきました。でも古こ材ざいだと厚あつみが違ちがって加工かこうが難むずかしいんですよね。バラバラの質感しつかんでも問題もんだいないウッドデッキをつくるのに使つかいました」

現地げんちでも人ひとの縁えんに恵めぐまれているのには、理由りゆうがあった。

「私わたしたちが現地げんちで受うけ入いれてもらえたのは、土地とちを持もっている小倉こくら家かの人ひとたちが地域ちいきの人ひとたちから信頼しんらいされているからだと思おもうんです。彼かれらはこの地ちに移住いじゅうしてきたんですけど、丁寧ていねいに交流こうりゅうを重かさねているんですよね。私わたしたちはその信頼しんらいを借かりているだけだと感かんじました」

小屋こやづくりの予算よさんは100万まん円えん

小屋こやづくりにかかった日数にっすうは、合計ごうけいで約やく30日にち。構想こうそうから6年ねん、着手ちゃくしゅしてからは完成かんせいまでに4年ねんかかったが、毎日まいにちコツコツと続つづければ約やく1カ月かげつで仕上しあがる日程にっていだ。さらに、電気でんきもトイレもエコ仕様しようなのだそう。

「うちは太陽光たいようこうパネルを使つかい、水道すいどうは小倉こくら家かや周まわりの人ひとに借かりる。排泄はいせつ物ぶつは微生物びせいぶつの力ちからで堆肥たいひにかえるコンポストトイレを使つかっています」

小屋こやづくりの予算よさんは100万まん円えんと決きめていた川内かわうちさん。その内訳うちわけは大おおきく分わけると、「工具こうぐや材料ざいりょう」「直接ちょくせつ経費けいひではない移動いどうや宿泊しゅくはく費ひ」のほか、大工だいくさんへの指導しどうの謝礼しゃれい金きんといった細々こまごましたものに分わけられる。

「資材しざいにかかったのは70万まん円えん弱じゃくでしょうか。ベニヤは、当時とうじ1枚まい約やく900円えんのものを使つかっていました。今いまは資材しざいが高騰こうとうしていて２倍ばい以上いじょうの値段ねだんになっていると思おもいます。とはいえ、どのくらいお金かねをかけているかは途中とちゅうからどうでもよくなってしまったので、追おえてない部分ぶぶんもあるかもしれません」

屋根やねを張はる時ときは足場あしばをつくらず、それぞれの足あしの高たかさを調整ちょうせいできる脚立きゃたつを使つかうことで、安定あんていを確保かくほした。

「セルフビルドって安全あんぜんにどれだけ配慮はいりょできるかが大切たいせつなので、そこにはお金かねを惜おしまない方ほうが誰だれも怪我けがをしないで済すむと思おもいます」

【工具こうぐや材料ざいりょうの内訳うちわけ】

お気きに入いりは、ヘリンボーンの床ゆかとハイジの窓まど

小屋こやでのお気きに入いりは2カ所かしょ。1つは、床ゆか材ざいをV字じに組くみ合あわせたヘリンボーンの床ゆかだ。

「床ゆか張ばりに挑戦ちょうせんする前まえに、知しり合あいのカフェに話はなしを聞ききにいきました。そのカフェでは自分じぶんたちでヘリンボーンの床ゆかを張はったそうで、『通常つうじょうの2～3倍ばいの時間じかんを見みていれば、できなくはないよ』と助言じょげんをいただきました。カフェは床ゆか面積めんせきが広ひろいから大変たいへんだろうけど、私わたしたちは9．9平米へいべいだからできるんじゃないかと、挑戦ちょうせんすることにしたんです」

ヘリンボーンはカット済ずみの木材もくざいを送おくってもらい組くみ立たてるキットも売うられているが、川内かわうちさんは自分じぶんたちで床ゆか材ざいを加工かこうするところから始はじめた。

「効率こうりつ的てきにやる方法ほうほうもあるけど、時間じかんをかけて出来上できあがることを選択せんたくしました。ヘリンボーンの床ゆかは木材もくざいの端はしが直角ちょっかくに交まじわらず、折おり合あうように重かさねるので組くみ方かたが難むずかしいんですよ」

川内かわうちさんのもう1つのお気きに入いりは、テレビアニメ『アルプスの少女しょうじょハイジ』に憧あこがれてつくったロフトの小ちいさな窓まどだ。目黒めぐろ通どおりにある注文ちゅうもん家具かぐ店てんでガラスと木材もくざいを注文ちゅうもんし、指導しどうを受うけながら川内かわうちさん自身じしんがデザインから考かんがえた。

「『アルプスの少女しょうじょハイジ』に登場とうじょうするハイジの寝室しんしつの丸まるい窓まどに憧あこがれていたんですよね。だから構造こうぞう上じょうは必要ひつようないんですが、ロフトには最初さいしょから窓まどを付つけようと決きめていました。窓まどから山並やまなみを眺ながめる時間じかんは、最高さいこうです」

イキイキと話はなす川内かわうちさんに「セルフビルドで一番いちばん楽たのしかったことは何なにか」を尋たずねた。

「できていく喜よろこび、ですかね。『ここまでできた』という達成たっせい感かんがあるんです。つくることは楽たのしいけど、全部ぜんぶが全部ぜんぶ楽たのしい作業さぎょうではないですね。考かんがえたことが形かたちになっていく工程こうていが面白おもしろいんじゃないでしょうか」

完成かんせいした小屋こやには、春はるや秋あきの過すごしやすい時期じきに月つきに1度どは赴おもむくという。

「夏なつは行おこなったり行いかなかったり。冬ふゆは気温きおんがマイナス10度どになってしまうので行いかないんです」

現地げんちでは、忙いそがしく小屋こや仕事しごとをしているそう。

「木造もくぞうなのでメンテナンスをしないと傷いたんじゃうんです。無垢むくの木材もくざいやウッドデッキは年としに2回かいは塗装とそうしています。それだけでも半日はんにち仕事しごとなんですよ。それに敷地しきちを整ととのえたり、やることは山やまほどあります。普段ふだんはパソコンで仕事しごとすることが多おおいから、体からだをのびのびと動うごかすいい機会きかいになっています。たくさん動うごいたら、仲間なかまと家族かぞくで焚火たきびを囲かこんで食事しょくじする。いい気分きぶん転換てんかんになります」

「自分じぶんで何なにでもつくれる」という手応てごたえを経へて変かわった価値かち観かん

DIY未み経験けいけんから、セルフビルドで小屋こやをつくるまでの背景はいけいには、どんな思おもいがあったのか。

「『買かわなくても、自分じぶんで何なにでもつくれると思おもえたら、最強さいきょうじゃないか』と思おもったんです。人ひとによってはそういう思おもいが野菜やさいづくりなどに向むけられるんでしょうけど、私わたしの場合ばあいはDIYに向むかいました。自分じぶんで自宅じたくをいじれたら面白おもしろいだろうなって思おもっていたんです」

小屋こやづくりを終おえてからは、自宅じたくのテーブルを継つぎ足たして幅はばを変かえるなど、気軽きがるにやれることが広ひろがってきたと話はなす。

「実家じっかに母ははと妹いもうとが住すんでいるんですけど、そこのリフォームも続つづけています。本来ほんらいなら大工だいくさんやリフォーム会社かいしゃに頼たのむところを、自分じぶんたちで進すすめていけるので面白おもしろいですよ」

川内かわうちさんの娘むすめのナナさんも2歳さいころから、小屋こやづくりのために両親りょうしんと共ともに山梨やまなしに通かよい、時ときに作業さぎょうに参加さんかしながら育そだってきた。どんな影響えいきょうがあったのだろうか。

「セルフビルドをする人生じんせいとしない人生じんせいは比くらべられないし、明確めいかくに小屋こやのおかげとは断言だんげんできません。けど、いろんな大人おとなと関かかわって、さまざまな職業しょくぎょうや人生じんせいがあることを知しるきっかけになったのではないでしょうか。火ひを起おこして焚火たきびするとか、椅子いすをつくろうと思おもえばすぐに取とり掛かかれるとか。都会とかいだと体験たいけんできないことをたくさんしてきたので、いい影響えいきょうもあるんじゃないかな」

そんなナナさんは現在げんざい、小学生しょうがくせい。工作こうさく好すきに育そだっているそうだ。

「人生じんせいって、限かぎられた時間じかんと素材そざいの中なかでどう遊あそぶか？　という大おおきなプロジェクトでもあると思おもうんです。そう考かんがえると、彼女かのじょの自みずから遊あそびを生うみ出だす力ちからは、生いきていく上うえで大おおきなアドバンテージになるのかもしれませんね」

川内かわうちさんの小屋こやづくりには、「セルフビルドなんて、私わたしには無理むり」と一蹴いっしゅうするにはもったいないと思おもわせる時間じかんと環境かんきょうが詰つまっていた。もしかすると、夢物語ゆめものがたりを現実げんじつにするために必要ひつようなのは、憧あこがれを口くちにする勇気ゆうきと、賛同さんどうしてくれた仲間なかまたちを大切たいせつにすることなのかもしれません。

●取材しゅざい協力きょうりょく
川内かわうち有ゆう緒いとぐちさん
ノンフィクション作家さっか。著書ちょしょに『パリでメシを食くう』『バウルを探さがして』『空そらをゆく巨人きょじん』『目めの見みえない白鳥しらとりさんとアートを見みにいく』などがある。最新さいしん刊かんはセルフビルドの過程かていを綴つづった 『自由じゆうの丘おかに小屋こやをつくる』。

＜取材しゅざい：結むすぶ井いゆき江え / 編集へんしゅう：ピース株式会社かぶしきがいしゃ＞