実家じっかじまい、団塊だんかい世代せだいの親おや「モノが捨すてられない」「お金かねがない」問題もんだいに驚愕きょうがく。親おやの思考しこうを劇的げきてきに変かえた3つの方法ほうほう　小説しょうせつ家か・高殿たかどの円えん

親おやに買かったタワマンを+1000万まんで売うり抜ぬき、老後ろうごも安泰あんたいかと思おもったら

いよいよ始はじまったと思おもった。更年期こうねんきと親おやの終おわり活かつと子こどもの受験じゅけん。

一気いっきに来くる。噂うわさには聞きいていたけれど、ほんとうに一気いっきに来きた。さりとて、この何事なにごとも先回さきまわりする私わたしが、やがて必かならず来くるであろうこの一大事いちだいじに対たいして何なんの対策たいさくもしなかったわけではない。むしろ10年ねん以上いじょう前まえからそのときに併あわせて打うてる手ては打うっていた。

例たとえば、資金繰しきんぐりの問題もんだい。いまほどフリーランスが市民しみん権けんを得えていなかった2008年ねん、「どうせ家いえにいるんでしょ」と加算かさんの取とれなかった私わたしは、見事みごとに保育ほいく所しょの抽選ちゅうせんに落おちまくった。そのとき私わたしは腎臓じんぞうの難病なんびょうを抱かかえていて、保育ほいく所しょに預あづけられなかったら手術しゅじゅつもできないというわりと追おい詰つめられた状況じょうきょうにあったにもかかわらず、（そして主治医しゅじいの診断しんだん書しょと一いち筆ぴつも添そえて提出ていしゅつしたにもかかわらず）全ぜん落おちしたのだ。

「保育園ほいくえん落おちた日本にっぽん死しね」が有名ゆうめいになったのはそれから数すう年ねん後ごのこと。何なんのコネも権力けんりょくもなく、放置ほうちすれば透析とうせきですよといわれ追おい詰つめられた私わたしができることは、遠とおい神戸こうべの果はてからベビーシッター代かわりに親おやに来きてもらうこと、ただそれだけだった。

親おやに月給げっきゅうを払はらいながら、「いっそのこと近ちか場じょうに親おやの家いえを買かおう」と思おもった。折おりしも世間せけんはリーマンショックで不動産ふどうさんは安やすくなっていたし、幸さいわいにも私わたしには貯金ちょきんがあった。どうせ銀行ぎんこうに預あづけていても利子りしはつかない。新築しんちくならとにかく駅近えきちか！ということで、我わが家やから自転車じてんしゃで通かよえる駅えきの直結ちょっけつタワマンを買かって、親おやに住すんでもらったのだった。

もともと、買かった当初とうしょからタワマンは15年ねんで売却ばいきゃくする予定よていだった。立体りったい駐車ちゅうしゃ場じょうはどんどん割高わりだかになるし、タワマンという性質せいしつ上じょう、維持いじのための管理かんり費ひも上あがることはわかっていた。2022年ねん、シドニーやNY、西海岸にしかいがんの不動産ふどうさんが天井てんじょうを迎むかえたニュースを見みて売却ばいきゃくを決意けつい。買かったときより1000万まん高たかく売うり抜ぬけた。15年ねん住すんでプラス1000万まんになったのだから十分じゅうぶんだろう。その1000万まんと年金ねんきんで、親おやには老後ろうごはつつましく好すきに生いきてほしいと思おもったのだ。

団塊だんかい世代せだいの親おやがこぼした「お金かねがない」。両親りょうしんの金銭きんせん感覚かんかくに驚愕きょうがく

（イラスト／いまがわ）

ところが、JTC（※）に50年ねん勤つとめた父親ちちおやとその妻つまというのは子こどもが思おもっている以上いじょうに金銭きんせん感覚かんかくが甘あまい。

※旧態きゅうたい依然いぜんとした慣習かんしゅうが残のこる日本にっぽん企業きぎょうを揶揄やゆした言葉ことば。ジャパニーズ・トラディショナル・カンパニー

「お金かねがないの」

賃貸ちんたいに引越ひっこして2年ねんも経たつと、母ははがそう言いうようになった。

えっ、そんなわけなくない？　だって、1000万まんプラスになったんだよ？　タワマンに引越ひっこしてくる前まえに実家じっかを売うったお金かねは、まるまる残のこしてあるはず。年金ねんきんもあるし、父ちちの退職たいしょく金きんだってフルに出でた。夫婦ふうふふたり、つつましーく、地味じみーにかもしれないけれど、暮くらしていけないわけはないでしょう。

なのに、折おりに触ふれて「お金かねがない」という。そこで初はじめて私わたしは実家じっかの財政ざいせい状況じょうきょうを知しった。なんとうちの父ちちは75歳さいになるのに新車しんしゃを買かっていた。しかもよりにもよってボクシー！！

父ちちは大だいの旅行りょこう好すきで、ワゴンをキャンピングカー代かわりに日本にっぽん全国ぜんこく車しゃで走はしり回まわって旅たびをするタイプである。それにしたってボクシーは金銭きんせん的てきダメージがでかい。しかもディーラーに勧すすめられるままにオプションをつけまくり、車くるまとは別べつの設備せつびで100万まんかかったという。

「やばい」

やばい以外いがいの表現ひょうげんは親おやに対たいしてはばかられるが、むりやりそれでも言語げんご化かするなら”愚おろかの極きわみ”だ。月つき15万まんの年金ねんきん生活せいかつに対たいし、家賃やちん13万まんの80平米へいべいもある広ひろい部屋へやを借かりていれば、そりゃあ貯金ちょきんが溶とける。娘むすめ（私わたしの妹いもうと）の育児いくじを手伝てつだうために近ちかくに住すみたかったといっても、流石さすがに無む計画けいかくが過すぎる。

「モノの所有しょゆう＝成功せいこうの証あかし」の価値かち観かんを持もつ親おや世代せだい

そもそもなぜそんな広ひろい家いえを借かりたのかというと、モノが多おおすぎるから。そう、団塊だんかいの世代せだいはモノが捨すてられない世代せだい。ものがない時代じだいに生うまれ育そだったからこそ、成功せいこうの証あかしはモノを手てに入いれることという価値かち観かんにどっぷり漬つかりきっているのだ。

捨すててくれといっても捨すてられない。新車しんしゃを買かうくせにいつまでも燃費ねんぴの悪わるい20年ねん以上いじょう前まえの、日焼ひやけして黄きばんだ電子でんしレンジを使つかい続つづける。百均ひゃっきんで買かった引ひき出だしの中なかにぎっしりつまった百均ひゃっきんで買かったらしい電池でんちや爪つめ切ぎりやさらなるプラケースの山やまはちりもつもればけっこうな額がくになるだろう。

もちろん人間にんげんは普通ふつうに生いきていくだけで、こんなにたくさんのものはいらない。生活せいかつに必要ひつような小物こものといえば、爪つめ切ぎりや耳みみかきや体温計たいおんけいなどの衛生えいせい用品ようひん、薬くすり収納しゅうのう、文房具ぶんぼうぐ収納しゅうのうだ。引ひき出だしが三みっつ四よっつあれば十分じゅうぶんに収納しゅうのうできてしまうはず。なのに、実家じっかにはざっと見積みつもって何なにが入はいっているのかよくわからない引ひき出だしが30はあるのだ。

多おお過すぎん？ っていうか、前まえの家いえが65平米へいべいで十分じゅうぶん暮くらせていたのに、80平米へいべいでものがあふれているのは何故なぜなんだし？？？

このあたりで私わたしは気付きづかざるを得えなかったのだった。親おやの終おわり活かつでまず手てを付つけるべきは片付かたづけではない。親おやの世代せだいを冷静れいせいに理解りかいすることなのだと。

片付かたづけよりも先さきに、親おやの思考しこうを分析ぶんせきする

（イラスト／いまがわ）

私わたしが両親りょうしんを冷静れいせいに分析ぶんせきすると、こうなる。

1）なぜ親おやはモノを捨すてられないのか→モノがなかった子こども時代じだいがトラウマになっており、「成功せいこうの証あかし＝モノを手てに入いれること」という価値かち観かんで長ながらく生いきてきたから。

2）なぜ親おやはヒステリックになりがちで子この忠告ちゅうこくにも耳みみを貸かさないのか→骨ほねの髄ずいまでJTCで年功序列ねんこうじょれつに漬つかって生いきてきたため、自分じぶんより目下めしたである子こどもから指図さしずを受うけるという指令しれい系統けいとうに慣なれていないから。

3）なぜ、お金かねがないと言いいながらなんの対処たいしょもしないのか→そもそも両親りょうしんがお互たがいにゆっくり話はなし合あって結論けつろんを出だすという作業さぎょうをしてきていない。

50年ねん近ちかく夫婦ふうふでいると、すでに「夫おっとは勝手かってなもの」「何なにを言いっても聞きかない」という思おもい込こみで何事なにごとも進すすめてしまうため、話はなし合あいをもつための努力どりょくをする前まえに「私わたしは言いったのに、あの人ひとが聞きかないから」という結論けつろんを光ひかりの速はやさで出だしてしまう。結果けっか、どんな問題もんだいが起おこっても「相手あいてのせい」になってしまい、自分じぶんには非ひがないと思おもい込こんでいるために進歩しんぽしないから。

我々われわれの世代せだいだってZ世代せだいにとってはロートル（老人ろうじん）で問題もんだいのある老害ろうがいだが、バブルにはバブルの、氷河期ひょうがきには氷河期ひょうがきの問題もんだいがあるように、団塊だんかいの世代せだいには古ふるい日本にっぽんの家父長制かふちょうせいを引ひきずった価値かち観かんから起おこる問題もんだいがあるのである。

残念ざんねんながら、もはや両親りょうしんが大おおきく変かわることは難むずかしい。そもそも75年ねんも生いきてきた中なかで、もはやあと何なん年ねんあるかないかという状況じょうきょうでメンタルをリフレッシュできるほどの強つよい人間にんげんは、すでに社会しゃかい的てきに成功せいこうして金かねに困こまっていない。父ちちも母ははも変かわらないだろう。

ならば、どうすればいいか。重要じゅうようなのはまず、問題もんだいを言語げんご化かすることである。

我わが家やの場合ばあい、2）の問題もんだいが大おおきかった。どこまでいっても子こどもは子こども。子こどもが40代だいになろうが50代だいになろうが親おやにとっては目下もっかの人間にんげん。どんなに稼かせいでいようが社会しゃかい的てき地位ちいがあろうが、我われらとは別べつのベクトル、指令しれい系統けいとうを持もっている。このままではどんなに正ただしいことをこんこんと解といても親おやは受うけ入いれない。受うけ入いれるメンタルになっていないからだ。

聞きく耳みみを持もたず、モノと古ふるい価値かち観かんを手放てばなせない親おやに耳みみを傾かたむけてもらうには

では、親おやを我われらの言いうことを聞きいてくれる状態じょうたいにするにはどうしたらいいか。

難題なんだいを片付かたづけること。これだ。親おやが抱かかえている相続そうぞくやなんらかの慢性まんせい化かしたまま膠着こうちゃくしているトラブルを積極せっきょく的てきに解決かいけつする。我わが家やの場合ばあい、田舎いなかの祖父そふの家いえ（再さい建築けんちく不可ふか地獄じごく物件ぶっけん）を私わたしが仲介ちゅうかい会社かいしゃをいれずに売却ばいきゃくし、現金げんきん化かした。そうすることで、ものすごく乱暴らんぼうない方いかたをすれば、親子おやこ間あいだの指令しれい系統けいとうが書かき換かわるのである。

何なん十じゅう年ねんも抱かかえた祖父そふの家いえの問題もんだいを解決かいけつしたときから、私わたしは庇護ひごすべき子こどもではなくなり、親おやよりも優すぐれた我わが家やのチーム長ちょうになった。すると、団塊だんかいの世代せだい的てきには自分じぶんより目上めうえの人間にんげんの命令めいれいには従したがいやすくなる。祖父そふの家いえの売却ばいきゃくは文字通もじどおり大変たいへんなことだったし、手間てまも時間じかんもかかったが、親おやとのコミニケーションを円滑えんかつにするというだけで今後こんごのメリットは果はてしないので、ぜひやってみてほしい。

次つぎに手てをつけるべきは1）の、モノがない時代じだいに生いきてきたトラウマへの対処たいしょである。父ちちはモノを所持しょじし、あるいは購入こうにゅうすることに満足まんぞく感かんを得えるタイプ。母ははは昔むかし高価こうかだったものを捨すてられないタイプだ。

この場合ばあい、両者りょうしゃに共通きょうつうすることは、捨すてなければいけないとわかってはいるが、捨すてられない。ここを変かえるのはほんとうに難むずかしい。なんてったってトラウマだからである。

モノを「捨すてる」ではなく「売うる」「寄付きふする」ことで「手放てばなす」メリットを提示ていじする

では、具体ぐたい的てきにどうすれば所持しょじ品ひんを減へらせるのか、というと、買かい取とりや寄付きふを活用かつようするのだ。

我わが家やの場合ばあいは、段だんボールに何なにもかも詰つめ込こんでしまえば、業者ぎょうしゃがやってきて査定さていしお金かねに換かえられるインターネットサービスを積極せっきょく的てきに利用りようした。

親しん世代せだいというのは情報じょうほうを入手にゅうしゅするツールが8割わりテレビなので、テレビでやっていた特集とくしゅうなどを見みせたりするのが手てっ取とり早ばやい。親おやのほうもだいたい情報じょうほうだけは知しっていることが多おおいため、あとはスマホにアプリを入いれたり業者ぎょうしゃを手配てはいしたりさえセッティングすれば、「お金かねにできる」という点てんにおいて、ただ捨すてるよりも何なん十じゅう倍ばいも積極せっきょく的てきに動うごける。

いや、お金かねにできるとはいえそんなの二に束たば三さん文ぶんでしょ、と言いってしまえばそうなのだが、ここで大事だいじなのは「捨すてる」のではないということだ。彼かれら彼女かのじょらは、捨すてるということは大おおきな敗北はいぼくで、自分じぶんたちが100％損そんをすると思おもい込こんでいる。損そんして得え取どれというビジネスの基本きほんは理解りかいできない。

なぜならそういうことは会社かいしゃの上うえのほうがぜんぶ決きめてくれていたからだ。職場しょくばでは歯車はぐるまのように決きまったことを実行じっこうしてきた。そうして何なん十じゅう年ねんもすごしてしまうと、一時いちじ的てきに損そんをすることへの心理しんり的てきダメージに耐たえられず、長期ちょうき的てきな視野しやで判断はんだんすることができなくなる。

しかし、自分じぶんたちが今いまやっていることが、売却ばいきゃくであったり、寄付きふであればどうか。自分じぶんたちは敗北はいぼくしたわけではなくなる。実質じっしつ的てきには変かわりないことであっても、大事だいじなのは親おや自身じしんのメンタルの問題もんだいだ。ようは彼かれらが「これは得とくをすることなんだ」と思おもえればいいのである。

実家じっかのモノを減へらすための具体ぐたい的てきなステップ

（イラスト／いまがわ）

我わが家やの場合ばあいは、まずは私わたしが父ちちの所持しょじするゴルフクラブや洋酒ようしゅをメルカリに出だし、積極せっきょく的てきに換価かんかしていった。すると不思議ふしぎなことに、父ちちはそれらが売うれても売却ばいきゃく代金だいきんを渡わたせとは言いわないのだ。ようはお金かねの問題もんだいではない、メンタルの問題もんだいだと私わたしはそのとき気付きづいたのである。

極きわめつけは、我わが家やに大量たいりょうにあったスチール製せいの棚たなやラックの処分しょぶんに、金属きんぞく買かい取とり店てんへの持もち込こみ処分しょぶんを使つかったことだ。ぶっちゃけそんなものは私わたしがジモティーで安やすく売うったほうが早はやくて都合つごうがいいのだが、ここは「自分じぶんの力ちからでお金かねに換かえることができた」という体験たいけんを両親りょうしんに積つませるために必要ひつような儀式ぎしきであった。

一時いちじはやりまくったメタルラックという収納しゅうのう、とくに奥行おくゆきのあるスチール収納しゅうのうは部屋へやを狭せまくするだけなので、とことん解体かいたいして家いえにあったよくわからない金属きんぞく製せいのキャンプ用品ようひんなどといっしょに業者ぎょうしゃのもとへ持もち込こめこんだ。結果けっか3000円えんくらいにはなった。その3000円えんはその後ご家族かぞくで食たべた食事しょくじ代だいで一瞬いっしゅんでなくなったが、両親りょうしんは満足まんぞく感かんいっぱいで、「よーし、この調子ちょうしでどんどん処分しょぶんしよう」と片付かたづけに弾はずみがついたのだ。

ここまで来くると、親おやは私わたしをボスと認みとめ、さらにメンタル的てきに損そんをしない片付かたづけの方法ほうほうを経験けいけんし、ポジティブな思考しこうになっている。この状態じょうたいまで高たかめてから、「次つぎは○○をしよう、大おおきなカレンダーを用意よういして、引越ひっこしまでお互たがいにスケジュールを確認かくにんしあって、どんどん売うろうね（捨すてようねと言いってはならない）」と言いえばいい。これで3）の夫婦ふうふ間あいだのコミニ ケーション不全ふぜんの問題もんだいが少すこし改善かいぜんする。

親おやの経済けいざい状況じょうきょうと実家じっかのモノの把握はあくは早はやいうちに

そうして、我わが実家じっかはこの春はる、無事ぶじ80平米へいべいから56平米へいべいのアパートに引越ひっこすことに成功せいこうした。いまは日当ひあたりの良よい駅前えきまえのこぢんまりした家いえでのんびり暮くらしている。家賃やちんは8万まん円えんになったので母ははの心理しんり的てきにもだいぶ楽らくになったようである。

次つぎは父ちちに車くるまを売うらせ、70代だいになった母ははの再さい就職しゅうしょくを手伝てつだうミッションが待まっている。いやー、子こどもって大変たいへんだ！　みなさんも、親おやの経済けいざい状況じょうきょうは早はやめに把握はあくしておいてくださいね。

＜編集へんしゅう：小沢おざわあや（ピース株式会社かぶしきがいしゃ）＞