15日の秩父宮ラグビー場は前日の異常気象が尾を引いているのか、ラグビー観戦にはあるまじきポカポカ陽気。その異常っぷりに触発されたわけでもあるまいに、第1試合はまさに大番狂わせでした。
リコー 24-23 NEC
かつて「和製オールブラックス」と畏怖されたリコーが、日本選手権常連のNECをうっちゃってしまいました。
勝因は…徹底した守備
これをおいて他にないでしょう。
NECはCTB水田の先制トライ以降、押し気味の展開。ただし、何度もゴール近くまで攻め込みながら、どうしても「あと5メートル」が詰めきれない展開のまま前半40分は過ぎました。リコーは密集周りの守備が光りました。今季はTL下部のトップイーストでの戦いを余儀なくされ、選手権2度制覇(1972、73年)の古豪としては期するものがあったのでしょう。選手権1回戦での帝京大戦で25-25の同点、トライ数でかろうじて2回戦進出を決めたという“引け目”もあったかもしれません。前半16分、LOヒューマンが負傷で早々と姿を消してしまったことも、逆にリコーフィフティーンの気を引き締めたのかも。本来はインパクトプレーヤーとして後半に投入されるはずと思われた大物助っ人・ラーカムをこの時点でFBに投入、CTBウィルソンをフランカー(FL=FWの一員で一番動き回るポジション)に配する“緊急事態”が結構機能していたように見受けられます。
7-16で折り返したリコー、後半開始早々の1分、SO河野(日川→日大!)が4点差に迫るトライ。自らゴールも決めて14-16です。さらに後半10分には再び河野がPGを決めて17-16と逆転に成功します。追い詰められたNECは、満を持して元南アフリカ代表のSOヤコ・ファンデルヴェストハイゼンを投入しましたが、いまひとつしっくり来ない様子。ハイパント一つとってもラーカムの方が優れているような…
そんなこんなの後半35分、リコーの背番号11小松が70メートルを走りきってダメ押しのトライ。河野のゴールも決まって24-16。小松は攻めあぐねたNECがこぼしたボールを拾い上げ、一目散にピッチを駆け抜けました。追走するNEC選手が今にも追いつきそうでしたが、小松の足がやや勝っていた。この小松選手、劇的トライの数分前に激しいタックルをかました拍子に頭部から出血、ルールで止血が確認されるまでピッチの外に出されていたんですが、復帰直後のビッグプレー。ほんとうに痺れました。結果的にはこのトライ&ゴールがなければ試合の行方は分からなかったわけですから、まさに値千金ですね。
試合終了間際、後半38分過ぎからの攻防も凄かった。NECの火の出るような攻撃に、リコーは自陣ゴールラインに釘付け。それでも突破を許さない執念のディフェンス。何しろ点差は8点。NECにトライ&ゴールを許しても1点差ありますが、その後にプレーが残っていると逆転の危険性があります。ラグビーはサッカーと違って規定の時間を過ぎてもプレーが終了しない限りノーサイド(試合終了)にはならないんです。ラストワンプレーを告げるホーンが鳴り響くまで気を抜けません。最後の最後、NECは日本代表の主将も務めたNO8箕内が密集の中から右腕だけを伸ばしてトライ。ヤコのゴールが決まった時点でノーサイドの笛が鳴らされました。
「いい試合」と簡単に片付けられないゲームでした。ラグビーは本来、番狂わせの少ない競技といわれます。TLのNEC対トップイーストのリコーなら、NECが勝つのが当たり前。にもかかわらず、リコーがわずか1点差で逃げ切ってしまったんですから。
神懸かり?
ちょっとい過ぎかもしれませんが、因縁めいたものを感じてしまいました。古豪と呼ばれるリコーですが、近年は選手権出場からも遠ざかった存在でした。それが下部リーグに転落していたお陰で「トップチャレンジ枠」で久しぶりの選手権出場を果たし、なおかつ実力差が歴然としたNECに勝ってしまう…不思議なものです。
おまけ
1点差で決着が付いたこの試合、もしかするとリコーのリードは6点差あるいは8点差だった…としたらどうでしょう。
実はリコー、1トライ損してるんです。状況は以下のようになっています。
17-16でリコーが1点リードの段階で“事件”は起こりました。ラーカムが蹴ったゴロパントが具合良く相手ゴールエリアに転がり込んでいます。ボールを追ったラーカムがNEC選手ともつれるようにして倒れこむと、ボールはさらにその先へ。そこへ別のリコー選手が走りこみトライ!…と、その瞬間、主審は「リコーのノックオン」を宣告しました。ガックリ肩を落とすリコー選手、大きなため息を漏らすリコーの応援団。大型ビジョンにリプレーが映し出されると…
ボールに触っていたのは明らかにNEC選手。ということはラーカムのノックオンではなく、その後のリコーのトライは“正当”だった。
今回の日本選手権では「ビデオ判定」は導入されていません。したがって判定が覆ることもなく試合は進みました。さらにリコーが逃げ切ったため特段の問題にもならなかったようですが、もし試合がひっくり返っていたら…。ビデオ判定は審判の権威をないがしろにするとの批判もあると聞いていますが、ここまであからさまな“ミスジャッジ”を目の当たりにすると、「どうよ?」と感じざるを得ません。火の無いところに煙は立たない…ミスジャッジのないところにビデオ判定を求める声は出ない。協会および審判団はこの事実どう受け止めます?
※以下はライブ中継の文章です
リコー24-23NEC
下部リーグ落ちの屈辱を味わい、来季からのトップリーグ復帰を決めている古豪「和製オールプラックス」が大番狂わせを演じました。しかも1点差
第2試合はSUNTORY×早稲田大という超人気カード。果たして結果は…
開始50秒でSUNTORYがノーホイッスル・トライで先制。早稲田大もPGで追いすがりますが…先が見えたので、とりあえず出社しま~す
by日 野原 信生