実践者に聞く 田舎暮らしの魅力
「田舎暮らし」にあこがれを抱くシニア世代は多いものの、実際に踏み切るとなるとそれ相応の準備と覚悟が必要になる。慣れ親しんだ都心を離れ、茨城県の鹿島灘地区にバリアフリー住宅を購入した千葉さん夫妻に、手に入れた田舎暮らしの魅力について取材した。
田舎暮らしの第一歩は情報集めから
茨城県鹿嶋市在住 千葉夫妻
「第二の人生はのんびりと田舎で過ごしたい」……そんな思いを募らせた千葉さん夫妻が、茨城県鹿島灘地区に移り住んだのは2007年(平成19年)のこと。もちろん、長年暮らした都心の自宅を離れることには、心細く感じるところもあった。しかし、それ以上に自分たちの将来を考えたときに、田舎暮らしへの期待が大きかったのだという。
「以前暮らしていた場所は東京のど真ん中。いつの間にか昔からの街並みも消えて、若者の街へと変化してしまいました。道を歩くにしても人とぶつかったり、昔のようにゆっくりと暮らすことができなくなって、田舎での生活を考えるようになったのです」
一念発起した千葉さん夫妻が、まず取りかかったのが田舎暮らしの情報を集めることだった。海の近くでも山の近くでも、住んでみたいと思える候補が挙がると、実際に現地に出かけてみるのが千葉さん流。「永住」を念頭に置いていたため、土地を選ぶに当たっては様々な角度から入念に調査を繰り返すことに。しかし、なかなかこれと思える場所は見つからなかった……。
「例えば、伊豆・下田あたりは田舎暮らしで有名ですが、実際に足を運ぶとすべて傾斜地の分譲地ばかり。また房総地域では大規模な分譲地が多く、ゆっくりと生活できそうな候補地も見つかりませんでした。山の近くでは、軽井沢に比較的手頃な物件がありましたが、冬の寒さや雪道、雪かきなどを考えると、自分たちの理想とはかけ離れてしまいます。東京での生活は確かに便利です。でも、せっかくの第二の人生だから、ゆっくりと生活できる場所にとことんこだわって探してみようと思ったのです」
南向きの土地を生かして設計した住まい
そんなときに新聞で見つけたのが、茨城県の鹿島地域で分譲地の開発・販売、建築設計・施工を行っている「オーシャンロッジ」の広告だった。さっそく現地に出かけてみると、都心から90キロ圏内ということだったが、意外に東京からの往来が便利なことが判明。いざというときに、すぐに子供や親に会えるというのは大きなメリットだと感じたという。また演劇や映画鑑賞など文化面での娯楽は、やはり東京でないと手に入らないものが多い。さらにちょっとした贈り物の買い物などでも、高速バスなどを使って気軽に東京に出られる立地条件は、千葉さん夫妻が理想とする田舎暮らしの舞台に近かった。
「それからインターネットをフル活用して、医療・消防・警察・ゴミ・上下水道など、鹿島地域のインフラ情報や行政の動向を事細かに収集しました。やはり今後長い間住んでいく街ですから、直接聞かないとわからないことは電話で問い合わせるなど、納得がいくまで徹底的に調べ上げましたね。その結果、大きな分譲地ではなく、全2区画の林に囲まれてのんびりと静かな南に開けた土地に家を建てることを決めたんです」
現地に何度も足を運び、こだわりを現実に
建物から庭の通路まで、すべてがバリアフリー
待望の田舎暮らしの我が家を建築する際には、オーシャンロッジが提案する「自由設計プラン」を選択した。4〜5年後の生活を考えるのではなく、15年、20年後の夫婦の生活を考えて、設計士と数多くの話し合いを重ねたそうだ。また頻繁に現地まで足を運ぶことでイメージを膨らませ、それと同時に現実とのギャップも徐々に埋めることができた。実際、こうした地道な努力を重ねることで、理想とする住まいの実現に近づいていったのだという。
「当時はパソコンの設計ソフトを利用して、夫婦で間取りを何度も作り直しました。実際に設計士にも何度も図面の書き出しを依頼して、細かいところから順に打ち合わせを進めていったんです。基本的な方針としては、毎日どの部屋にも太陽の光が差すように、南向きの土地を生かして全室南向きの大きな窓を採用しました。北側に回ってしまった台所には、大きな天窓を設置することで十分な太陽光を確保しています。ほかにもモデルハウスを見学して気に入ったシステムキッチンや、防犯を考えた二重サッシなど、こだわりは随所にあります。リビングに和風テイストの壁をあつらえたのは、私たちの遊び心から。そこには四季折々の掛け軸や色紙を飾ったり、お花を生けたりしています」
一方、夫婦の将来に向けての対策も万全だ。駐車場から母屋に広がる庭は、将来的に足元がおぼつかなくなったときに車いすでの生活を考え、幅を広く取ったスロープを設置。さらに雨の日も滑らないように、はけ仕上げにするなどの細かな配慮がなされている。さらに建物内部もすべてバリアフリーとして、トイレと浴室などの入り口も通常より“広く、大きく”が基本。これも将来の車いすでの移動を考えての設計だという。実際に使用することがあった場合には、手すりを設置するだけでいつも通りの生活ができ、改めて大規模な修繕工事などが必要のないようになっている。自分たちのこととはいえ、こうしたある意味で冷徹なまでの判断は、田舎暮らしを考えるシニア世代には欠かせない視点といえるだろう。
20年先を見据えた設計プランを立てたい
お気に入りのウッドデッキ
「実際に暮らし始めて改めて良かったなと思うのは、鹿島地域は観光地ではないため、人がどんどん増えてしまうことがないところ。逆に普段の生活では困らない程度に道路も整備されているので、本当に住みやすい。都心の生活と違って自動車は必需品になりますが、渋滞もないし駐車場も広いのでストレスは少ないです。女性の方でも焦ることなく、安全運転で生活できるところが気に入っています。不便があるとすれば、近くに大きな総合病院がないことくらいですね」
現在、千葉さん夫妻はそれぞれの趣味の時間を大切にしながら、静かな田舎暮らしを楽しんでいる。趣味のデジタルカメラを始め、ゴルフ、釣りなどに出かけることも多い。また庭の手入れにも凝っており、芝の刈り方や育て方を研究中。英国製の高級芝刈り機を購入するほどのこだわりぶりだ。一方の奥さんは、何とフラダンスに熱中している。人を集めて自宅の大きなウッドデッキで披露する機会もあるというから、こちらも本格的。最近では夫婦二人でスポーツ吹き矢に挑戦するなど、共通の趣味も楽しんでいるそうだ。
コーヒー豆はわざわざインターネットで取り寄せる
最後にこれから田舎暮らしを始めようと考えている方にアドバイスを伺うと、こんな答えが返ってきた。
「まず、近い将来よりも20年先を見越して様々な設計プランを立てることが大切だと思います。加齢に伴う様々な問題など、初めから予想できることに関しては、後々すぐに対応できるようにしておいた方がよいのではないでしょうか。また、土地や建物を探すときには、日常生活のことを第一に考えるべき。スーパーマーケットや銀行、郵便局、病院、美容室、クリーニング店などの位置関係を実際に足を運んで確かめておくと、選択の幅も広がると思います」
今や田舎暮らしをすっかり満喫しているご様子の千葉さん夫妻だが、実現までに様々なご苦労や紆余曲折があったことはいうまでもない。事前の情報集めなどできることを徹底的にしたうえで、自分たちのこだわりを貫いたからこそ、現在の充実した生活があるのだろう。今後、田舎暮らしを検討されている方には、千葉さん夫妻の取り組み方が大いに参考になるのではないだろうか。
取材協力/オーシャンロッジ株式会社 http://oceanlodge.co.jp/
(2009年9月30日 読売新聞)