モスクワ
4世代7人が住むバガウリ家
13階 公園を一望
ロシアのモスクワ市北東部スビブロボ地区。診療所を市内で経営するヌグザル・バガウリさん(50)宅を訪ねると、「見せたいものがある」といきなりバルコニーに案内された。17階建てマンションの13階。眼下には、公園の木々や池の水面が初夏の日差しに映えていた。「すばらしいでしょう」。10年前、コツコツと蓄えた16万ドル(現在のレートで約1600万円)をはたいて購入を決めたのは、当時の職場への近さと、この眺望が気に入ったからだ。
居間のソファに勢ぞろいした4世代7人家族。(左から)イリーナさん、孫のダニイル君、ヌグザルさん、ベーラさん、アデルさん、クルグニャンさん、孫のミハイル君
周辺は、日本のニュータウンを思わせる大型マンション群。かつては旧ソ連時代の低層アパートが多かったが、1990年代後半から再開発され、ヌグザルさん宅は、建て替え物件の第1号という。
ヌグザルさんは、妻で公務員のイリーナ・バガウリさん(50)、義母のアデル・ジュラブロワさん(70)、娘で団体職員のベーラ・バガウリさん(27)、その夫で会社員のエフゲニー・クルグニャンさん(26)、そして、2人の孫の4世代計7人で暮らす。
▼築10年の3LK。面積は約140平方メートル▼浴室は2か所、世代間で使い分けている▼犬(雑種で5歳のメス、名前は「カライ」)を室内で放し飼い▼車は3台。ガレージもあるが近くに路上駐車することが多い▼最寄りの地下鉄スビブロボ駅まで徒歩7分。モスクワ中心部まで地下鉄で約40分
バルコニーに接する居間には、家族全員が座れるL字形の大きなソファがある。向かいに日本メーカーの薄型大画面テレビやミニコンポ。戸棚には、ガラスや陶製の食器などを収納している。
どの先進国でも見られるような家具や家電が並ぶ中で、ロシアらしさが目立つのはアデルさんの寝室だ。たくさんのイコン(聖像画)が本棚に飾られているのだ。一家の大人5人のうちヌグザルさんを除く4人がロシア正教の信徒で、朝な夕な、家族全員の安寧をイコンに祈る。元外科医のヌグザルさんだけは旧ソ連時代からずっと無宗教という。
台所で炊飯器の中を見せてもらった。「プロフ」と呼ばれる鶏肉を使ったウズベキスタン料理の炊き込みご飯が出来ていた。一家は、ロシア料理だけでなく、旧ソ連時代に伝わった各地の民族料理も好む。
核家族化はモスクワでも顕著で、3世代以上が同居するのは珍しい。実は、クルグニャンさんとベーラさん夫妻も2006年の新婚当初は2人で暮らしていたが、バガウリ家のルーツ・グルジアの風習に従い、一緒に住むようになった。クルグニャンさんに、息が詰まらないかと聞くと「互いに信頼している。幸せだ」との答えが返ってきた。
一家は家計も一つだ。稼ぎ手4人の収入はイリーナさんが一括管理し、平日の昼食代や交通費は各自が小遣いの中から工面する。一通りの話を聞き終えた時、ヌグザルさんが突然、「財産とは何だと思う」と問いかけてきた。そして、こう言って胸を張った。
「マンションは財産ではない。仲良く寄り添って暮らす家族が私の財産なんだ」(モスクワ 浜砂雅一、写真も)
(2009年6月26日 読売新聞)