ジュネーブ
地下に核シェルターがあるアパート
倹約生活、心には余裕
ジュネーブ中心部、コルナバン駅から南に約4キロ、プランパレ地区にあるアパート。2人乗りの小さなエレベーターで、ゆっくりと4階まで上がると、目的の家に到着した。出迎えてくれたのは、ブノワ・ブイヤモさん(38)、アリエル・コルドニエさん(36)、長男のティボー・コルドニエ君(3)の3人家族だ。
アパートのソファでくつろぐ(左から)コルドニエさん、ティボー君、ブイヤモさん
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家具職人のブイヤモさんは、今年初めに内装関係の会社を解雇され、今は失業中の身だ。コルドニエさんは、ジュネーブ州政府の公務員で、水質保全関係の仕事をしている。
2人ともスイス南部バレー州の出身で、それぞれの友人を通じて知り合った仲だ。だが、法律上は結婚しておらず、子どもの親権も母親のコルドニエさんが持っている。ただ、スイスではそれほど珍しくないということで、2人とも「今のところは、結婚の必要性は感じない」と話す。
▼市内では典型的なアパートで地上8階建て、地下1階▼スイスでは規制のために建て替えが難しい▼築20年以上なのは確実だが、正確な建築時期は不明▼60〜70平方メートルとみられる▼市中心部コルナバン駅からは路面電車で8分。下車後徒歩9分
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アパート地下の居住者用の物置スペース。厚い鉄の扉を見ればわかるように、核シェルターとして作られている。
スイスの食卓には欠かせないチーズフォンデュセット
台所には、畜産が盛んな国らしく、肉の塊を薄く切るためのスライサーがある
この家に住み始めたのは3年前。ティボー君が生まれ、それまで住んでいたアパートが手狭になったためだ。家賃が安い郊外に移ることも考えては見たが、2人の通勤の利便性などを考えて、ここに決めたという。
スイス政府は冷戦時代、住宅建築時に核シェルター設置を義務づけたため、このアパートの地下にも核シェルターがあった。普段は、木の柵で区切られ、物置となっている。一家も、スノーボードやスキー板、ソリ、そして、ティボー君が使わなくなったベビー用品、来客用のマットレスなど多くの物をしまうのに大変重宝しているのだという。
ただ、「上の階の住人が歩き回る足音がうるさい」「女性が一人で料理を作るのが当たり前だった時代に作られたためか、台所が狭い」などと、コルドニエさんの不満は少なくない。
もっとも、慢性的な住宅難のジュネーブの不動産価格は高い。「マイホーム購入など、とても考えられない」と2人は口をそろえる。もっと広くて快適なアパートに転居したい気持ちはある。だが、半年以上も職探しを続けているブイヤモさんは、世界的な経済危機の影響も受け、次の仕事がなかなか見つからないでいる。
「オンボロの車は持っているが、自動車保険は一番安いものにして、郊外の無料駐車場に置いている」「健康保険も安く抑えたので、本当に重病の時しか病院に行けない」と、涙ぐましい節約の話は尽きない。
だが、一方で「所有しているコテージに、毎月車で遊びに行き、ハイキングなどで雄大な自然を楽しんでいる」「一家3人で近くのレマン湖で、よく船に乗って遊ぶんだ」とも話す。どうやら、欧州には、日本では考えられない豊かさがあるようだ。(ジュネーブ 平本秀樹、写真も)
(2009年8月14日 読売新聞)