社説しゃせつ

　脱線だっせんした上越新幹線じょうえつしんかんせんの映像えいぞうにくぎ付づけになったことを思おもい出だす。最大さいだい震度しんど７の激震げきしんで６８人にんが亡なくなった新潟にいがた県けん中越なかこし地震じしんから２３日にちで５年ねんがたった。中山なかやま間あいだ地ちを襲おそった大だい規模きぼ地震じしんは、さまざまな課題かだいを私わたしたちに突つきつけたが、いまだ教訓きょうくんが十分じゅうぶんに生いかされているとは言いえないのが現状げんじょうだ。

　道路どうろが崩壊ほうかいして脱出だっしゅつできないうえに、防災ぼうさい行政ぎょうせい無線むせんなども停電ていでんで使つかえない。旧きゅう山古志やまこし村むら（現げん長岡ながおか市し）は、地震じしん２日にち後ごに全ぜん村民そんみん約やく２１００人にんがヘリコプターで避難ひなんするまで孤立こりつ状態じょうたいに置おかれた。国土こくどの７割わりを中山なかやま間あいだ地ちが占しめる日本にっぽんでは、災害さいがい時じに孤立こりつの恐おそれがある集落しゅうらくが全国ぜんこくに点在てんざいする。毎日新聞まいにちしんぶんが各かく都道府県とどうふけんを通つうじて今年ことし３月がつ末まつ時点じてんで調しらべたところ、全国ぜんこくに１万まん９１３６集落しゅうらくあった。

　孤立こりつ集落しゅうらくで人的じんてき被害ひがいを拡大かくだいさせないための対策たいさくはどうか。食料しょくりょう、飲料いんりょう水すいの備蓄びちくは各かく６％と４％しかない。避難ひなん施設しせつは７割わり弱じゃくの集落しゅうらくにあるが、耐震たいしん性せいの十分じゅうぶんなものはうち２割わり弱じゃくだけ。５割わり以上いじょうが非常時ひじょうじの無線むせん通信つうしん手段しゅだんを確保かくほしていない。心こころもとない結果けっかである。内閣ないかく府ふが０５年ねんに実施じっしした調査ちょうさと比くらべても進展しんてんはない。自治体じちたいは、備蓄びちくなどできるところから早急そうきゅうに手てをつけるべきだ。

　「家中かちゅうの柱はしらがみしみしと音おとを立たてて裂さけていった」。上映じょうえい中ちゅうの記録きろく映画えいが「１０００年ねんの山古志やまこし」の中なかの村民そんみんの証言しょうげんである。地震じしんに伴ともなう家屋かおく倒壊とうかいの恐おそろしさに身みのすくむ思おもいがする。中越なかごえ地震じしんでは３０００棟むね以上いじょうの家屋かおくが倒壊とうかいした。阪神はんしん大震災だいしんさいでは、死者ししゃの約やく８割わりが建築けんちく物ぶつの倒壊とうかいが原因げんいんだった。いつ発生はっせいしてもおかしくない東海とうかい地震じしんや、今世紀こんせいき前半ぜんはんの発生はっせいが懸念けねんされる東ひがし南海なんかい・南海なんかい地震じしんではともに６０００人にん台だい、やはり発生はっせいが予想よそうされる首都しゅと直下ちょっか地震じしんでも４２００人にんが建築けんちく物ぶつの倒壊とうかいで死亡しぼうするとの被害ひがい想定そうていが出でている。

　それにもかかわらず、総務そうむ省しょうがこのほど公表こうひょうした調査ちょうさでは、耐震たいしん基準きじゅんが強化きょうかされる８１年ねんより前まえに建たてられた住宅じゅうたく約やく１１００万まん戸このうち、耐震たいしん診断しんだんをしたのは５．５％、補強ほきょう工事こうじまでしたのは３．９％にとどまる。地震じしん対策たいさくでは「公おおやけ助すけ」「共助きょうじょ」「自助じじょ」のバランスが大切たいせつだと言いわれるが、生命せいめいや財産ざいさんを自みずから守まもる「自助じじょ」の意識いしきを高たかめたい。

　阪神はんしん大震災だいしんさいをきっかけにできた被災ひさい者しゃ生活せいかつ再建さいけん支援しえん法ほうは、住宅じゅうたくに大だい規模きぼ半壊はんかい以上いじょうの被害ひがいを受うけた被災ひさい者しゃに最大さいだい３００万まん円えんを支援しえんする。中越なかごえ地震じしんをきっかけに０７年ねん、使途しとの制限せいげんをなくしたり、手続てつづきを簡素かんそ化かする法ほう改正かいせいが行おこなわれた。だが、被災ひさい者しゃからは、建物たてものだけでなく生活せいかつへの支援しえんができるよう法ほう改正かいせいしてほしいとの声こえが出でている。この点てんについても不公平ふこうへい感かんを生うまない運用うんようを前提ぜんていに、見直みなおしに向むけて議論ぎろんを進すすめるべきだろう。