優しい韓流サンマ刺し
初めてサンマの刺し身を食べたのは10年ほど前。友人に案内された日本料理店だった。
「刺し身で食べても大丈夫なの?」と驚く私に友人も板前さんも「最近は当たり前ですよ」と半ばあきれたような表情で反応した。私とサンマの刺し身の出会いは、普通の人より遅かったようだ。
サンマはしっかり火を通してから食べるもの。それまで守ってきた心得は、その瞬間に砕け散った。刺し身は塩焼きなどとは違う、トロリとしたおいしさだったからだ。
とはいえ、それをきっかけに家でサンマの刺し身を食べるようになったわけではない。「刺し身用」と書かれたサンマを見ても、刺し身包丁のない我が家では難しいのではと思い、挑戦しなかったのだ。
先日訪れた韓国家庭料理店でいただいた韓流サンマの刺し身には、すりゴマと一味唐辛子がかけられていた。レモンを搾り、塩とおろしショウガ、小口切りのネギと一緒に食べるのだが、和風の食べ方よりも生魚っぽさが薄く、ゴマの風味がおいしさを膨らませていた。塩とショウガという意外な組み合わせも面白い。
切り口が味を決めるといわれる和風刺し身は上手に作れそうもないけれど、このやり方なら何とかなるかも、と韓流サンマの刺し身に挑戦した。
刺し身用サンマの頭を切り落とし、内臓を取り除いてよく洗う。三枚におろし、残っている血合いの部分を切り除く。皮を下にし、包丁の背でしごくように皮をはぐ。サンマを斜めに切って盛り付け、すりゴマと一味唐辛子をお好みで振りかける。水にさらした小口切りのネギとおろしショウガ、塩、レモンを添える。
やはり、切り方の問題なのか、食べてみるとあの店のものよりも生魚っぽさが気になる。そこで頭に浮かんだのはゴマ油。生肉にオリーブ油をかけるイタリア料理の要領でゴマ油をかけて食べてみたところ、滑らかで優しい味になった。この食べ方、ぜひお試しあれ。(イラストレーター、絵も)
(2009年10月17日 読売新聞)