核廃絶への希望与える
オバマ米大統領にノーベル平和賞
イラスト スパイスコミニケーションズ(帯ひろ志)
2009年のノーベル平和賞に9日、アメリカ大統領のバラク・オバマさん(48)が選ばれました。オバマさんは今年1月に大統領に就任したばかりですが、「核兵器のない世界」を実現させようと呼びかけ、世界の国々と話し合いを進めています。そうした対話の姿勢が評価され、今後の活躍への期待も加わって賞が贈られることになりました。
ノーベル賞はすばらしい発明や発見をして学問で業績があった人や、平和のために働いた人などに贈られる世界最高レベルの賞で、物理学、化学、文学など六つの分野があります。「平和賞」にはこれまで、インドで貧しい人たちのために奉仕したマザー・テレサ(1979年)、世界各地で支援活動を行っている「国境なき医師団」(99年)、北朝鮮との和解に力を注いだ韓国の金大中大統領(2000年)など様々な人や団体が選ばれています。日本人では、核兵器を持たない、作らない、持ち込ませないという「非核三原則」を打ち出した佐藤栄作元首相(74年)が受賞しました。
米国は第2次世界大戦末期の45年、広島と長崎に原爆を落とし、数え切れないほど多くの犠牲者を出しました。こうした歴史をふまえ、オバマさんは今年4月、チェコの首都プラハで行った演説で、核兵器のない世界を実現させるために「米国は核兵器を使った唯一の国として行動する責任がある」と語りました。米国の大統領が「核兵器をなくそう」とはっきり言ったのは初めてです。
9月には、国連の安全保障理事会で各国トップ級の会合を呼びかけ、核兵器全廃に向けて世界が一つになって取り組むという決議をまとめました。かつてのライバル、ロシアとの間でも核兵器を減らすための交渉を進めています。
米国は世界最大級の核兵器保有国ですが、オバマさんは力を振りかざすのではなく、ほかの国の意見にも耳を傾けようとしているように見えます。このほか、地球温暖化対策にも積極的に取り組む姿勢を見せていて、世界をよりよい未来に「チェンジ」させる希望を多くの人に与えたことなどが、評価されたのでしょう。
ただ、オバマさんは大統領に就任してまだ8か月で、「これを成し遂げた」と言える功績はありません。この段階での受賞は「早い」という疑問の声も上がっています。
オバマさん自身も、「正直、自分は値しないと感じている」と戸惑いも見せています。でも、「この賞を、行動への呼びかけとして受けたい」と語り、目標に向かってみんなで力を合わせようと訴えました。
今回の受賞は、米国のリーダーへの期待がそれだけ高いことの表れでもあります。核兵器廃絶は難しいことですが、世界が一つになって取り組んでいかなければなりません。
(2009年10月20日 読売新聞)