　自慢じまんではないが、運転うんてんは苦手にがてである。高校生こうこうせいの時とき、遅刻ちこくするまいと脇目わきめもふらず猛もうスピードで自転車じてんしゃをこぎ、乗用車じょうようしゃに正面しょうめん衝突しょうとつ、体からだは宙ちゅうを舞まい、ボンネットに突つっ込こんだ（幸さいわいけがはしなかったが）。今年ことし記者きしゃになって車くるまの運転うんてんを始はじめたが、周まわりには多大ただいな迷惑めいわくをかけ、愛車あいしゃは傷きずやへこみだらけでまるで戦場せんじょうを走はしってきたかのようだ。

　そんな私わたしだが、あこがれている乗のり物ものがある。３輪りんの自転車じてんしゃタクシー「ベロタクシー」だ。市内しないをさっそうと走はしる姿すがたはカッコいいし、気持きもちよさそう。運転うんてんだって、自転車じてんしゃと同おなじで楽勝らくしょうだろう。

　もし食くいっぱぐれたら、ベロタクシーを飯めしの種たねにしようかな。秋田あきた市内しないで運行うんこうしている「わらしべ貯金ちょきん箱ばこ実行じっこう委員いいん会かい」代表だいひょうの武内たけうち伸しん文ぶんさんに（３７）に、「運転うんてんさせて下ください」と電話でんわで志願しがんした。「今度こんど無料むりょうで講習こうしゅう会かいを行おこなうので、どうぞ」と武内たけうちさん。もう、楽たのしみで仕方しかたがない。

　さわやかな秋空あきぞらに恵めぐまれた１８日にちの昼下ひるさがり。秋田あきた市しの八橋運動公園やばせうんどうこうえんの駐車ちゅうしゃ場じょうで、私わたしを含ふくめ３人にんが、ベテランドライバーの田崎たさき宏明ひろあきさん（３５）の講習こうしゅうを受うけた。

●素人しろうと力りょく２その２　難むずかしい車体しゃたい感覚かんかく

　しかし開始かいし早々そうそう、田崎たさきさんの説明せつめいを聞きき、自分じぶんの見通みとおしの甘あまさに気付きづかされた。

　「ベロタクシーは軽けい車両しゃりょうなので、車くるまと同おなじように車道しゃどうを走はしります。自転車じてんしゃとはだいぶ違ちがうので、気きを付つけてください」。バイクと同おなじディスクブレーキを右みぎハンドルで操あやつるようになっていて、ウインカーやブレーキランプ、前輪ぜんりんに坂道さかみち用ようの電動でんどうアシストまでついている。「頑張がんばれば時速じそく１５キロは出でます」。ギアも７段だんまであって、とても運転うんてんが楽たのしそうに思おもえない。

　説明せつめいが済すむと、あこがれの運転うんてん席せきに座すわらせてもらえた。「前方ぜんぽうの感覚かんかくをつかんでみましょう。私わたしが前まえに立たつので、ぎりぎりまで近ちかづいて、左ひだりに曲まがってください」と、田崎たさきさんが指示しじした。

　ベロタクシーは秋田あきたに１台だいしかない貴重きちょう品ひん。横よこからそっと乗のり、ハンドルを握にぎりしめ、ペダルに足あしをかけ、「チンチーン」とベルを鳴ならして出発しゅっぱつだ。

　１歩ほこぎ出だしたが、予想よそう以上いじょうに重おもい、そして進すすまない。だがこぐうちに、スピードに乗のり、車体しゃたいがふわっと軽かるくなったように感かんじた。田崎たさきさんに近ちかづくと、「まだですよ」の声こえ。ぶつかる！　と思おもった瞬間しゅんかん、「いいですよ」と言いわれ、ハンドルを切きると、ぎりぎりで曲まがっていた。ふーっ、危あぶない。

　次つぎは側がわ方かた感覚かんかくの練習れんしゅう。２ふたつ置おかれたバケツから１メートル間隔かんかくを空あけて周回しゅうかいするだけだが、曲まがると後のち輪わの方ほうがふくらみ、直線ちょくせんではふらつく。「もっとハンドル切きって」「直線ちょくせんはハンドルそのまま」。田崎たさきさんからは容赦ようしゃなく指導しどうの声こえが飛とぶ。すっかり自信じしんを喪失そうしつした。

●素人しろうと力りょくその３　気持きもちいい

　それでも少すこしは運転うんてんにも慣なれ、８の字じに回まわる練習れんしゅうは無難ぶなんにこなせるようになった。次つぎはギアチェンジをしながら周回しゅうかい。直線ちょくせんでスピードを上あげ、カーブに入はいる前まえにシフトダウンして……と、なかなか忙いそがしい。でも夢中むちゅうになって、直線ちょくせんでさーっとこぐと、実じつに気持きもちがいい。

　みるみる空そらが黒くろくなり、雷かみなりが鳴なり出だした。雨あめが降おりそうなので、講習こうしゅうは終了しゅうりょう。後うしろに人ひとを乗のせてみたかったし、車道しゃどうも走はしってみたかったが、それは「次回じかいへ持もち越こし」という天てんのお告つげなのだろう。

　一いち人前にんまえになるには、講習こうしゅうを２、３回かい受うける必要ひつようがあるという。あきらめずにぜひまた参加さんかしたいと思おもう。（松本まつもと健太けんた朗ろう）

●玄人くろうと力りょく　大事だいじなのは「もてなしの心しん」

　田崎たさきさんは４月がつに運行うんこうが始はじまった時ときからのドライバー。秋田あきた市し山王さんのうで飲食いんしょく店てんの経営けいえいをする傍かたわら、休日きゅうじつになると秋田あきた市内しないのイベント会場かいじょうなどでベロタクシーを走はしらせている。武内たけうちさんと東京とうきょうで一緒いっしょに講習こうしゅうを受うけており、ドライバーはほぼ２人ふたりのうちどちらかが務つとめている。

　ボランティア運行うんこうすることもあるが、基本きほん的てきには有料ゆうりょうで、料金りょうきんは中学生ちゅうがくせい以上いじょうが１人にん３００円えんから、小学生しょうがくせいは１人ひとり２００円えんから。忙いそがしい日ひは４時じ間あいだで２０組くみほどが乗のり、１万まん円えん近ちかく売うり上あげることもあるという。

　ベロタクシーは車道しゃどうを走はしるが、「車くるまの流ながれに乗のれない」ので、邪魔じゃまにならないよう全体ぜんたいを見みながら走はしらなければならない。また、独特どくとくの側がわ方かた感覚かんかくなど、運転うんてんのコツをつかむには１か月げつほどかかったという。

　運転うんてん中ちゅうは、「段差だんさがありますよ」など、乗客じょうきゃくに声こえをかけることで、安心あんしんして乗のってもらえるように心こころがけている。路上ろじょうには見みえないデコボコが多おおく、交差点こうさてんでは特とくに気きを遣つかう。「あくまで景色けしきを楽たのしんでもらう乗のり物ものなので、もてなしの心しんが大事だいじ」