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松本まつもと 泰生やすお早稲田大学わせだだいがく理工りこう学術がくじゅついん 客員きゃくいん講師こうし 略歴りゃくれきこちらから

東京とうきょう階段かいだんあるく」

松本まつもと 泰生やすお早稲田大学わせだだいがく理工りこう学術がくじゅついん 客員きゃくいん講師こうし

東京とうきょう階段かいだんまち

 15ねんほどまえから東京とうきょう都心としん階段かいだんたずあるいている。そもそもは論文ろんぶん執筆しっぴつのためで、都心としんやま台地だいち低地ていちあいだ存在そんざいする「斜面しゃめん」の空間くうかん実態じったい調査ちょうさからはじまったのだが、途中とちゅうからは階段かいだんとその周辺しゅうへん風景ふうけいのおもしろさにかれてしまったようになり、階段かいだんめぐあるくことになった。だからここでいう「階段かいだん」はビルやえきなどの建物たてものない歩道橋ほどうきょう階段かいだんではなく、高台たかだいのぼるもしくは低地ていちくだるというように地形ちけいとなんらかの関係かんけい階段かいだんをさす。

文京ぶんきょう千駄木せんだぎ丁目ちょうめのへび階段かいだん

 都市としとして江戸えど以来いらい歴史れきし東京とうきょう都心としんやまは、武蔵野台むさしのだい東端ひがしばたにあたり、神田かんだがわなどいくつかの中小ちゅうしょう河川かせん台地だいち浸食しんしょくして、台地だいち谷地やち複雑ふくざつんだ地形ちけいをなしている。そして高台たかだいのお屋敷町やしきまち低地ていちがわきゅう町人ちょうにんあいだには、富士見ふじみざか汐見しおみざかなどというのある坂道さかみちだけでなく、大小だいしょうもない階段かいだん数多かずおお存在そんざいする。住宅じゅうたく地図ちず調しらべると、東京とうきょう都心としんには山手やまてせん内側うちがわだけで、650あまり階段かいだん存在そんざいする。総数そうすうはまだつかめていないが、23全体ぜんたいでは1,500ヶ所かしょ程度ていどになるかもしれない。東京とうきょう都内とないには名前なまえのあるさかがおよそ1,000ヶ所かしょあるとわれ、東京とうきょうさかまちだとわれたりもする。だが同時どうじ東京とうきょう階段かいだんまちでもあるのだ。

階段かいだん階段かいだんのある東京とうきょう風景ふうけいたのしむ

文京ぶんきょう湯島ゆじまじつもりざか

 一口ひとくち階段かいだんっても千差万別せんさばんべつでそれぞれに特色とくしょくがあるので、さまざまな姿すがたがたているだけでもじつはおもしろい。寺社じしゃ参道さんどう階段かいだん手間てまがかかっていてうつくしく歴史れきしもある。江戸えど時代じだいから名所めいしょなどにもえがかれ、時代じだい江戸えど東京とうきょう風景ふうけいどころとなっている。一方いっぽう私道しどうじょう階段かいだんなどは周辺しゅうへん住民じゅうみんらが自前じまえつくったとおぼしきものもおおく、その事情じじょう左右さゆうされたかたち出来上できあがっていて、珍妙ちんみょうさが面白おもしろかったり苦労くろうがしのばれる。密集みっしゅうする住宅じゅうたくぐんあいだ蛇行だこうしながらうようにのぼ階段かいだんなどは、デザイナーが設計せっけいする計画けいかくてきなものをえた偶然ぐうぜんのなせる姿すがたをしており、複雑ふくざつかつ特異とくい姿すがたおどろかされることもしばしばだ。

 高層こうそうビルがおおなら東京とうきょうでは、地上ちじょうからとおくの風景ふうけいながめられることが残念ざんねんながら年々ねんねんすくなくなってしまっている。だが階段かいだん坂道さかみちからはまだ眺望ちょうぼうられることがある。はる彼方かなた山々やまやまえるなどということはほとんどないが、階段かいだんのぼりきってかえったときすうひゃくさき建物たてものなどがえるだけで、ちょっとした気分きぶんになれる。階段かいだん眺望ちょうぼう景観けいかんたのしむことができるビューポイントでもある。

 階段かいだんのぼくだりするとまったことなる都市とし空間くうかんにワープしてしまったかのようになることがあるのも、都市としないにある階段かいだん魅力みりょくだ。下町したまちてき風情ふぜい路地ろじ空間くうかんけて階段かいだんにたどりき、段々だんだんのぼりきると閑静かんせい住宅じゅうたくがいいたる。このように階段かいだんは、ふたつのことなる地域ちいきあいだ往来おうらい可能かのうにして空間くうかんてきつなげている。一方いっぽうでそこに階段かいだんがあることで高台たかだい谷地やち区別くべつされることにもなっている。また階段かいだんがあるとそこに地形ちけいてき起伏きふくがあることが明瞭めいりょうされる。階段かいだんはしやゲートのように空間くうかんつなげつつ区切くぎ結界けっかいのような役割やくわりたしながら、ともするとずるずるとつながってしまいがちな都市とし空間くうかんなかでランドマークにもなっている。

階段かいだん都市とし計画けいかく

 景観けいかんめん以外いがい特色とくしょくとして、階段かいだんのあるみち自動車じどうしゃとおけないということがある。住宅じゅうたくない自動車じどうしゃはしまわることがおお東京とうきょうで、公園こうえん以外いがいでのんびりばなしやキャッチボールができるような空間くうかん意外いがいすくない。せま路地ろじ空間くうかん同様どうようのヒューマンスケールをった空間くうかんでもあり、たんにノスタルジーでのこすというのではなく、できればそのような特色とくしょく積極せっきょくてきかしたいところだ。

新宿しんじゅく四谷よつや丁目ちょうめ蛇行だこう階段かいだん

 このように階段かいだんとその周辺しゅうへん空間くうかん魅力みりょくてきだが、都市とし計画けいかくてき立場たちばからすると問題もんだいもある。まず防災ぼうさい問題もんだい都心としん階段かいだん木造もくぞう密集みっしゅうない位置いちし、しかもほそ街路がいろばれる路地ろじ空間くうかんにあることがおおい。地震じしん火災かさい危険きけんなので拡幅かくふく事業じぎょうやスロープ徐々じょじょおこなわれているが、そうすることでくるま通行つうこうすることにもなるし、ヒューマンスケールのしょう空間くうかんさもうしなわれがちになる。機能きのうせい利便りべんせいだけでかんがえず、相反あいはんする課題かだい解決かいけついた工夫くふうもとめられる。

 もうひとつは高齢こうれい社会しゃかい問題もんだいだ。高齢こうれいしゃにとって階段かいだんおおきな障害しょうがいになりうる。近年きんねん地形ちけいてき高低こうていえるべくエレベーターが設置せっちされている場所ばしょもあるがすべては不可能ふかのうだ。だからといって平坦へいたんするのも無理むりで、地形ちけいてき高低こうていはビルやえき階段かいだん問題もんだいとはべつかんがえねばならないのだろう。近年きんねん高齢こうれいしゃでも元気げんき方々かたがたおおい。障害しょうがい人々ひとびとへの配慮はいりょ当然とうぜんわすれてはいけないが、高齢こうれいしゃやままちとそこにある階段かいだんあるいて、都市とし空間くうかんたのしみながら体力たいりょく維持いじはかるというかんがかたをしてみるのもひとつの方法ほうほうではないかと最近さいきんかんがえている。

 まちあるき、階段かいだんあるき、地形ちけいかん都市とし風景ふうけいながめると東京とうきょうあらたないちめんえてきて、これからのまちのありかたかんがえる契機けいきになるのではないかとおもう。

松本まつもと 泰生やすお(まつもと・やすお)/早稲田大学わせだだいがく理工りこう学術がくじゅついん 客員きゃくいん講師こうし

1966ねん 静岡しずおかけんまれ。
1991ねん 早稲田大学わせだだいがく理工学部りこうがくぶ建築けんちく学科がっか 卒業そつぎょう
1998ねん 早稲田大学わせだだいがく大学院だいがくいん 理工りこうがく研究けんきゅう建設けんせつ工学こうがく専攻せんこう 博士はかせ後期こうき課程かてい 単位たんい取得しゅとく退学たいがく
1998ねん 早稲田大学わせだだいがく理工学部りこうがくぶ建築けんちく学科がっか 助手じょしゅ
2004ねん 早稲田大学わせだだいがく 博士はかせ工学こうがく学位がくい取得しゅとく
2004ねん 早稲田大学わせだだいがく理工りこうがく総合そうごう研究けんきゅうセンター 客員きゃくいん講師こうし
2007ねん 早稲田大学わせだだいがく理工りこう学術がくじゅついん 客員きゃくいん講師こうし現職げんしょく
おも著書ちょしょ東京とうきょう階段かいだん日本文芸社にほんぶんげいしゃ(2007)、『景観けいかんほう景観けいかんまちづくり(共著きょうちょ)』(社)しゃだんほうじん日本にっぽん建築けんちく学会がっかいへん 学芸がくげい出版しゅっぱんしゃ(2005)

著者ちょしゃHP http://yma2.hp.infoseek.co.jp/