インテル不振に追い打ち
欧州連合(EU)の欧州委員会が13日、EU競争法(独占禁止法)違反で米インテルに巨額の制裁金を科すことを決め、圧倒的な市場占有率(シェア)を誇るIT業界のガリバー企業への厳罰姿勢を示した。
景気悪化による業績不振に苦しむインテルは、従来の販売戦略を維持するかどうかの岐路に立たされることになった。(ロンドン 是枝智、ニューヨーク 池松洋)
ライバルAMD排除
中央演算処理装置(CPU)のインテルの市場シェアは2002〜07年まで少なくとも70%に達し、ライバルの米AMDに圧倒的な差をつけていた。インテルは市場をほとんど独占する力を背景に、パソコンメーカーに自社製品を扱うよう迫った。
AMD製商品を搭載したパソコンの欧州での販売が半年遅れたこともあるという。さらに、小売店に自社製CPU搭載のパソコン以外は売らないことの見返りにリベートを払っていた点を欧州委は悪質と判断した。
13日記者会見した欧州委のネーリー・クルス委員(競争政策担当)は「インテルの行為は市場シェアを維持するためのものだ。欧州の消費者にも損害を与えた」と述べ、同様の事案に今後も厳しく対応する考えを強調した。
包囲網狭まる
インテルの09年1〜3月期決算の純利益は、販売の落ち込みから前年同期比55%減の6億4700万ドル(約620億円)にとどまった。制裁金10億6000万ユーロは08年12月期の売上高の約4%、純利益の3割弱に相当し、払うとなれば業績に大きな痛手となる。
インテルは「違法な行為は一切していない」と、決定取り消しを求めて徹底抗戦の構えを見せる。これに対しクルス委員は会見で、日米や韓国の独禁当局とも緊密に情報交換してきたことを明かし、「インテル包囲網」が狭まっていることを示した。
さらに、米連邦取引委員会(FTC)も独禁法違反で調査中で、インテルに追い打ちをかける可能性がある。インテルは、シェア確保を最優先していると指摘された従来の営業戦略の見直しを迫られつつある。
ただ、米マイクロソフト(MS)に続き、「ウィンテル連合」とも呼ばれるインテルにも欧州委が強権を発動したことについて、米産業界から不満が出る可能性がある。独禁法の適用に厳格な欧州委の対応について、米商工会議所は「多国籍企業の経営戦略の重荷になる」と指摘している。
日本の公取委、05年に排除勧告
日本の公正取引委員会は2005年3月、インテルの日本法人に対し、独占禁止法違反(私的独占)の排除勧告を出している。国内大手パソコンメーカーにパソコン用CPUにインテル製品を多く使えば大幅に値引きするとして、圧倒的なシェアを背景に同業他社の製品を使わないよう圧力をかけたという。インテルは05年4月に「勧告事実には同意していないが、ビジネスを優先させた」として勧告を受け入れた。
公取委によると、日本の独禁法では私的独占は制裁金に当たる課徴金の対象となっていない。しかし、現在、国会審議中の独禁法改正案は私的独占を課徴金の対象とする内容となっており、改正法の成立・施行後、同様のケースでは課徴金が科せられることになる。
欧州委、閲覧ソフトでもMS調査
欧州委員会がマイクロソフト(MS)を摘発したのは2004年3月。基本ソフト「ウィンドウズ」に自社製の音楽・映像再生ソフト「メディアプレーヤー」を組み込み、抱き合わせで販売していたとして、約4億9700万ユーロ(約650億円)の制裁金を科した。
その後もMSが是正命令に従わなかったとして2度、追加制裁金を科し、制裁金は総額約16億7670万ユーロ(約2200億円)に達する。MSは、ウィンドウズ向けソフトを開発するライバル企業へ技術情報を開示することも求められた。
欧州委は、ネットの閲覧ソフトで7割近い市場占有率を持つMSの「インターネット・エクスプローラー」を、ウィンドウズと一体で販売した疑いなどでも調査を進めている。欧州委とMSの攻防は継続中で、再びMSに巨額の制裁金が科せられる可能性がある。
(2009年5月14日 読売新聞)