エルピーダに公的資金 国内産業に配慮
二階経済産業相(右)から認定書を受けたエルピーダメモリの坂本幸雄社長(経済産業省で)
政府は30日、改正産業活力再生特別措置法(産業再生法)の適用第1号として、半導体メモリー(DRAM)大手のエルピーダメモリに対し、公的資金を活用した資本注入制度の適用を認定した。
電機製品の基幹部品であるDRAMで国内唯一のメーカーの経営が立ちゆかなくなれば、国内電機産業が大きな打撃を受けるからだ。ただ、政府による一般企業の支援は市場のゆがみにつながりかねないとの懸念もある。(岩城択、三宅隆政)
支援総額は1600億円
今回の支援では、日本政策投資銀行が300億円を出資し、損失が出ればその80%を政府が穴埋めするほか、政投銀が100億円の融資、大手4行などが1000億円の協調融資を実施。これらとは別に、台湾当局が半導体メーカーを統合して設立する「台湾メモリー(TMC)」も200億円を出資し、支援総額は1600億円に上る。
政府が同制度の適用を決めたのは、売上高や自己資本などに関する4要件を満たしている上、現在の半導体市況の悪化は一時的な現象に過ぎないとみているからだ。その背景には、「DRAMは日本の主要産業(の部品)に幅広く用いられ、国民生活や経済産業活動を支える観点から極めて重要」(二階経済産業相)との判断もある。
世界のDRAM市場は、シェア(占有率)1位のサムスン電子、2位のハイニックス半導体と韓国勢が強い。仮にエルピーダが経営破綻に追い込まれれば、取引先を含めて多くの雇用に失業などの影響が出るうえ、韓国メーカーの価格支配力が強まって国内の電機メーカーの競争力を低下させる恐れがあった。
構造的な業績低迷
しかし、エルピーダは過去5年間の通期決算で税引き後赤字を3回計上しており、一時的というより構造的な業績低迷ともいえる。エルピーダの坂本幸雄社長は30日の記者会見で、デジタル家電や携帯電話向けの高価格の最先端製品に注力する戦略を示したが、業績回復を果たせるかどうかは不透明だ。
エルピーダの2009年3月期の海外売上高は、全体の68・7%を占める。今回の支援について、政府が一企業に実質的な輸出補助金を支給していると受け止められ、国際的な自由貿易を推進する世界貿易機関(WTO)の協定に違反すると他国から指摘される恐れもある。
同制度をめぐっては、テレビ事業からの撤退を決めたパイオニアなどに対する事前審査が進んでいる。BNPパリバ証券の河野龍太郎チーフエコノミストは「輸出に頼る電機産業は恒常的な不振企業も多い。衰退産業を救って成長産業への投資が妨げられれば、日本経済としても大きな問題だ」と話している。
(2009年7月1日 読売新聞)