迷惑メール流通が史上最高
スパムメール(迷惑メール)が増え、史上最高を記録した。メール全体に占めるスパムの割合が92%まで増えたほか、フィッシング詐欺やウイルス配布などにも利用されている。(テクニカルライター・三上洋)
史上最高の約1750億通、全メールの92%がスパム
マカフィーの調査による、世界で発生しているスパムメールの量と電子メール全体に占める割合。1日あたり約1750億通ものスパムメールが発生している(マカフィー脅威レポート 2009年第3四半期)
セキュリティー対策大手・マカフィーが、2009年第3四半期の脅威レポートを発表した。それによると全世界でスパムメールが増えており、第2四半期よりも10%増えて、史上最高の記録となった。マカフィーの調査によれば、1日に発生するスパムメールは約1750億通にも及ぶ。あまりに数が多すぎて想像しにくいが、これは1日に流れるすべての電子メールの92%を占めているそうだ。
つまり電子メールのうち、実際に必要なのはたったの8%であり、それ以外はまったく不要なもの=スパムメールということになる。インターネット回線やサーバー設備にも大きな負担となっている。
国別のスパム発生量では、アメリカが25%でトップだが、前年同期の34.3%と比べると全体に占める割合は小さくなった。それに対して大きく増加しているのが南米などの発展途上国だ。例えばブラジルは2位で12.1%を占めており、前年同期の約2倍に増えた。またアルゼンチン、コロンビア、ベネズエラなどが10位までに入るなど、南米からのスパムが急増している。
国別のスパムメール配信ランキング。ブラジルやアルゼンチンなどの南米が増えている(マカフィー脅威レポート 2009年第3四半期)
筆者の推測だが、南米でスパムが増えている理由の一つは、パソコンの普及率にありそうだ。南米などの発展途上国では、ここ数年でパソコン普及率が伸びており、中流以上の家庭に浸透してきている。ウイルス対策ソフトを使わないなどセキュリティーの甘いユーザーが多くいると思われ、ウイルス感染→ボット化(ゾンビ化)→スパム配信に悪用されるという流れではないだろうか。また、プロバイダーのスパム対策が甘いという事情もありそうだ。
フィッシング詐欺や偽セキュリティーソフトに利用
米国税庁をかたったフィッシング詐欺。スパムメールから誘導され、パスワードなどを盗み取ろうとする(マカフィー脅威レポート 2009年第3四半期)
スパムメールが広告、宣伝だけなら無視するだけでいいが、ウイルス感染、フィッシング詐欺、偽セキュリティー対策ソフト導入といったサイバー犯罪にも広く利用されている。マカフィーではその具体例として、アメリカの国税庁をかたったものを紹介している。
このスパムには「納税申告に誤りがあり、修正申告しないと脱税容疑で起訴される可能性がある」と書かれており、納税証明書を確認するリンクがある。リンク先はアメリカの国税庁のサイトに似せたもので、ウイルスを含んだ実行ファイルをダウンロードさせようとする。もし実行してしまうとインターネットバンキングのID、パスワードを盗み取るトロイの木馬に感染してしまう。スパムメールとしては古典的な手口ではあるが、いまだにだまされる人が多いようだ。
日本でも同様の詐欺があり、納税シーズン後には還付金詐欺、今年前半には定額給付金詐欺もあった。ただし日本の場合は、高齢者などを狙ったもので、電話とコンビニATMを使っている。今のところスパムメールを利用する税金関連の詐欺は少ないようだが、今後増える可能性があるので注意したい。
また、今年は有名人の訃報に便乗したスパムメール・サイバー犯罪が数多くあった。以前の記事「M・ジャクソン急死に便乗するスパム攻撃」でも紹介したように、マイケル・ジャクソン、ファラ・フォーセット、パトリック・スウェイジといった有名人の死亡に合わせて大量のスパムメールが蔓延した。「YouTube」の動画と称してトロイの木馬をダウンロードさせたり、不正なソフトウエアを配布するサイトへ誘導するなどのスパムメールがあった。今後も同様の手口が使われると思われるので警戒が必要だ。
ビットトレントの有名サイト閉鎖
マカフィーの脅威レポートでは、このほかに著作権侵害となるファイル共有の問題を取り上げている。世界的に使われているビットトレント(BitTorrent)によるものだ。ファイル共有ソフトというと、日本ではWinnyやShareが有名だが、ビットトレントは世界的にユーザーの多いファイル共有システムで、不正コピーされた映画などが出回っている。
このビットトレントの有名サイトだった「パイレートベイ(The Pirate Bay)」の運営者に対し、スウェーデンの裁判所が閉鎖を命じた。パイレートベイはトラッカーと呼ばれるサイトで、ファイル共有の元となる情報ファイル(torrentファイル)を配布していた。大量のtorrentファイルがあり、日本語の説明も載せるなど世界的に有名なサイトだった。
閉鎖と同時に、コピーサイトが大量に登場している。動画などのファイル自体を配布するわけではないので、簡単にコピーサイトを作成できてしまうためだ。このコピーサイトによって、今でも大量のtorrentファイルが流れており、torrentファイルを元にファイル共有が行われている。マカフィーの脅威レポートによれば「海賊版映画の配信などを行う著作権侵害サイトが急増したが、これは『パイレートベイ』の閉鎖による影響があると思われる」と分析している。
日本でもビットトレントのユーザーはかなりいる。ビットトレントはWinnyやShareとは異なり、ファイル一つごとに独立したネットワークを作る。そのためWinnyやShareのように目立たないと思い込み、映画やアダルトビデオなどを共有しているようだ。しかし匿名性はないので検挙される可能性は常にある。著作権侵害であることはもちろんのこと、ウイルスに感染する可能性もあるので手を出すべきではない。
●参考サイト
・McAfee脅威レポート:2009年第3四半期
(2009年11月13日 読売新聞)