就活学生 山谷が拠点
地方から簡易宿泊所へ
宿泊所が並ぶ山谷地区(16日、東京・台東区で)=清水健司撮影
日雇い労働者の街として知られる東京・山谷地区で、就職活動(就活)をするリクルートスーツ姿の学生が目立っている。地方の学生が簡易宿泊所に寝泊まりしながら就活を続けているためだ。就職難で、就活期間が長くなっているだけに、宿泊費の安さは大きな魅力。宿泊所の経営者も「街の活性化のきっかけに」と歓迎している。(藤亮平、森山雄太)
長期戦覚悟 安くじっくり
白い壁に紺のスーツが掛けられた3畳一間。キャリーバッグを置いて、布団を敷けば足の踏み場はなくなる。荒川区の簡易宿泊所「千住田村屋」は、1泊1800円でシャワーは共同。テレビもパソコンもない。それでも、札幌学院大の山下雄太郎さん(21)は「むしろ就活にじっくり集中できます」と言う。
3年生の山下さんは、東京に本社がある会社への就職を希望し、今月9日夜に上京。採用活動を早めた企業が3年生向けに行う会社説明会に19日まで参加する予定だ。インターネットで安いホテルを探していて初めて山谷を知った。「狭いけれど、宿代を浮かせるためだし、問題ない」と話す。
札幌から上京、山谷の3畳一間の宿に滞在し、就職活動する山下雄太郎さん(11日、東京・荒川区南千住で)=清水健司撮影
山谷地区は台東、荒川両区にまたがり、約1・6平方キロの中に164軒の簡易宿泊所が立ち並ぶ。多くは3畳の和室で、1泊2000〜3000円。現在は約4600人が宿泊する。
宿泊者が多かったのは、1950年代〜60年代の高度成長期で、東京五輪前年の1963年には222軒に日雇い労働者約1万5000人が宿泊。バブル期も労働者であふれていたが、その後の不況で、日雇い労働そのものが減少。代わって働けずに生活保護を受ける宿泊者が多くなった。
2002年の日韓サッカーW杯に合わせ、一部の宿泊所が外国人客を取り込もうとシャワールームを設置するなど改装。最寄り駅から都心まで約30分の便利さもあり、外国人やビジネスマンの利用も増えている。
宿泊所経営者でつくる「城北旅館組合」の広報担当・帰山哲男さん(58)によると、山谷でリクルートスーツが目立ち始めたのはここ数年。これまでに30軒ほどが実際に就活中とみられる学生を受け入れた。
帰山さん経営の「エコノミーホテルほていや」(台東区)でも4年前に紺や黒っぽいスーツの若者が増え、尋ねると就活学生だった。別の「HOTEL丸忠CLASSICO」(同区)では今年、採用試験が始まる2、3月には125室のうち30室が学生で占められた。ロビーで情報交換したり、悩みを相談し合ったり……。女子学生もいたという。
「日雇い労働者や生活保護受給者だけでなく、学生や外国人も含め、一般客に安い宿を提供する街に転換していきたい」と帰山さんは期待する。ただ、30年以上山谷で暮らしている無職男性(56)は、「『労働者の街』という雰囲気が薄れると、僕たちは逆に居心地が悪くなるのでは」とさみしさものぞかせた。
(2009年12月17日 読売新聞)