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書店員のオススメ読書日記

本文です

 だいじゅうかい小学館しょうがくかん文庫ぶんこ小説しょうせつしょう受賞じゅしょうのこの作品さくひんしずかであたたかい世界せかいあふれている…。

 主人公しゅじんこう栗原くりはらいちとめ(くりはらいちと)は地方ちほう病院びょういん勤務きんむするねん内科ないか。しかも病院びょういんないではあまり有難ありがたくない異名いみょうまでつけられて
いる。そのも“きの栗原くりはら”。かれ救急きゅうきゅう当直とうちょくかぎって、重症じゅうしょう患者かんじゃかずおおいというのだ。おまけに、はなかたがちょっと!?古風こふうである。なんでも、夏目なつめ漱石そうせき敬愛けいあいしているから…らしい。そして山岳さんがく写真しゃしん細君さいくん
もっとあいしている。

41nb6ls7e1l__sl500_aa240_  そんなかれ周囲しゅういには個性こせいつよ人達ひとたちばかり。ちょうベテランの先生せんせいかた学生がくせい時代じだいからのくさえん同僚どうりょう独身どくしん有能ゆうのう美人びじん救急きゅうきゅう看護かんごちょうまんねん医師いし不足ふそくのなかかれらは「あらゆる事態じたい対応たいおうするのが地域ちいき医療いりょう基幹きかん病院びょういんとしての
義務ぎむである」という理念りねんもとづき、日々ひび治療ちりょうにあたっているのだ。

 そんななか安曇あずみさんという一人ひとり患者かんじゃ担当たんとうすることになる。彼女かのじょとのやりとりのなかで、地域ちいき医療いりょうおおきな問題もんだいやこれから自分じぶんはどうすすむべきなのか、といったおもいがつのる。そして、ひとつの結論けつろんがでる…。

 えたとき、とても真摯しんし気持きもちになった。著者ちょしゃつたえたいこと、それがまっすぐこちらのしんとど作品さくひんなのだろうとおもう。

 医者いしゃ患者かんじゃを、患者かんじゃ医者いしゃおもい、そこからまれる医療いりょうこそ、最終さいしゅうてき結果けっかはどうであれ、たがいにとって納得なっとくできるものなのではないだろうか…。そんなかたち医療いりょうがあっていい。わたしだったら、そういう医療いりょうえらびたい…。

 そうおもった。

出版しゅっぱんしゃ小学館しょうがくかん
書名しょめい神様かみさまのカルテ
著者ちょしゃ夏川なつかわくさかい
定価ていか:1,260えん税込ぜいこみ)

紀伊國屋きのくにや書店しょてん宇都宮うつのみやてん 髙野典子のりこ

1 単行本たんこうぼん見逃みのがしていたこのいちさつ。ようやくむことができました。ごらんとおりの扇情せんじょうてきなタイトルと装丁そうていですが、内実ないじつ硬派こうはなノンフィクションです。

 愛玩あいがん人形にんぎょう現代げんだい、ラブドールのありかたについて著者ちょしゃ声高こわだかかたらずに、淡々たんたん周辺しゅうへんやまつわる人々ひとびとしるさまが、こう印象いんしょう。お約束やくそくの「プロジェクトⅩ」な部分ぶぶんもあり、ビジネスユースも…うそですいいすぎました。

 ヒトがヒトガタをあいするという、あやしくメロウなしんうごき。ただもう、それだけで古今ここん東西とうざい普遍ふへん作品さくひんテーマ。

 「ストックされた眼球がんきゅう」の写真しゃしんは、『BLADERUNNER』のいちシーンを彷彿ほうふつとさせます。これは偶然ぐうぜんではないでしょう。我々われわれ身体しんたいったものであるかぎのがれられないサガを、あらためて実感じっかんさせてくれる作品さくひんです。

(リブロ イオンモール鶴見つるみてん 筒井つつい陽一よういち

出版しゅっぱんしゃ文藝春秋ぶんげいしゅんじゅう
しょ :『南極なんきょくごう伝説でんせつ-ダッチワイフの戦後せんご
しる しゃ高月たかつきやすし
じょう あたい:620えん税込ぜいこみ)

Photo うえはどんなにおおきくてもプラス1。したはどんなにひくくなってもマイナス1。そのはばで、なみがた規則正きそくただしくつづく。それが正弦せいげん曲線きょくせんだ。

 かたちとしてはまるでちがうのだが、心電図しんでんず、あんなつらなり。安定あんていこそ、文字もじどおり「いのち」。

 らん高下こうげすれば非常ひじょう危険きけん状態じょうたいだし、まっすぐになれば、「ピー」というおととともに心臓しんぞう停止ていししめされる。なみのふりはばおおきくなればなるほど事態じたいとしては直線ちょくせんちかくなるというのが、面白おもしろいとおもう。

 おさなころ友達ともだちのおかあさんがしてくれた葡萄色ぶどういろのジュースの正体しょうたい。いつのまにかえた言葉ことば使つかわれなくなった用品ようひんちかられて、そうっともの・・・。

 堀江ほりえ敏幸としゆきのこの47の省察せいさつにでてくるのは、「プラスマイナス1」のあいだにおさまってしまうような、日常にちじょうちいさなきしみ、ゆらぎだ。ほうっておけば、そのうちもともどるにちがいないもの。わすれてしまうもの。

 堀江ほりえはそれをひとつひとつひろいあげ、ていねいに観察かんさつし、め、保存ほぞんする。かれ自身じしんはこの箱入はこいりのほんを「画集がしゅうのようでしょう」とっていたが、標本ひょうほんばこのイメージもある。よくできた標本ひょうほんるとき、だれも「むし死骸しがいだ」とわない。あるきまわり、まり、ねるものや、はねじ、やすみ、またつものをおもう。ここにおさめられているのは「せい」なのだから。

 スポーツ選手せんしゅのおたけびや元気げんき女子高じょしこうせい歓声かんせいより、ねむっているあかぼうのまぶたの「ぴくり」に生命せいめいのスパークをかんじることがあるが、これはそんなイメージのほん

 ドラマチックな心電図しんでんずみだれは医者いしゃ出番でばん。プラス1とマイナス1のあいだにある、しん波打なみうちにみみをすますのは、文学ぶんがくしゃであってこそ。

青山あおやまブックセンター六本木ろっぽんぎてん あいだしつ道子みちこ

出版しゅっぱんしゃ中央公論ちゅうおうこうろんしんしゃ
書名しょめい:『正弦せいげん曲線きょくせん
著者ちょしゃ堀江ほりえ敏幸としゆき
定価ていか:1890えん税込ぜいこみ)

Photo_3 川上かわかみ弘美ひろみのことが、どんどんきになっている。

 もし5ねんまえわたしがこのほんんだなら“うっ…わたしきらいなタイプの恋愛れんあい小説しょうせつだ”とおもっただろう。しかしわたし大人おとなになったのか、相変あいかわらずコテコテの恋愛れんあい小説しょうせつ苦手にがてだが、この作品さくひんなんというか、恋愛れんあい小説しょうせつというより主人公しゅじんこう「のゆり」という人間にんげん物語ものがたりだとおもう。

 のゆりはある匿名とくめい電話でんわおっと不倫ふりんしていることをる。そこから彼女かのじょくるしみがはじまる。

 しかしすすめるうちに、のゆりがだんだんつよくなっていることにわたしたち気付きづかされる。すこしずつ、けれど確実かくじつに。だからといってこの物語ものがたりは“ひとだれしもつよくなれる”とか“絶望ぜつぼうなか希望きぼう見出みだせる”といった種類しゅるいのものではない。もっとリアルで、あいまいで、はかなくてつよ人生じんせいがそこにはある。

(リブロ福岡ふくおか西にし新店しんてん 奥原おくはら未樹みき

出版しゅっぱんしゃ集英社しゅうえいしゃ
しょ :『風花かざばな
しる しゃ川上かわかみ弘美ひろみ
じょう あたい:1,470えん税込ぜいこみ)

Photo_2 本書ほんしょ東野とうの圭吾けいごの“加賀かが恭一郎きょういちろうシリーズ”最新さいしんかん。エキセントリックな魅力みりょくの“ガリレオ探偵たんてい湯川ゆかわシリーズ”にくらべて地味じみだとわれがちだが、推理すいりきにはカミソリのようなあたま加賀かが刑事けいじのファンがおおいとおもう。今回こんかい、そのクールな加賀かがいどむのは「人情にんじょう」。

 東京とうきょうで、一番いちばん秘密ひみつおおまちはどこだろう?
 混沌こんとんまち歌舞伎町かぶきちょう最先端さいせんたんのIT企業きぎょうあつまる汐留しおどめ?いや、下町したまち日本橋にほんばしなのである。

 だれもが顔見知かおみしりでそだちや家業かぎょうをよくっており、だからこそ、えない約束やくそくかくれたおもいをめる。それが下町したまちだ。

 このまちには新参しんざんしゃにんいる。一人ひとり殺人さつじん事件じけん被害ひがいしゃ、もう一人ひとり刑事けいじ

 犯罪はんざいにより、きずついたりなにかを背負せおったりするのは遺族いぞくだけではない。被害ひがいしゃがよくものをしていた商店しょうてんおくさん、散歩さんぽ途中とちゅう日々ひびたわいのない会話かいわをしていた老人ろうじん奇妙きみょうなほどやさしい眼差まなざしをおくられていた喫茶店きっさてんおんなetc、ひとおもわぬ余波よはでまわりの人々ひとびと日常にちじょうに、秘密ひみつ発生はっせいうそ暴露ばくろをもたらす。

 刑事けいじ加賀かがかろやかにまちあるまわりながら、事件じけん解決かいけつあたまはたらかせるだけでなく、これらの人々ひとびとこうむったちいさなくるしみをもすくおうとする。この作品さくひんからいきなりんでもじゅうぶん面白おもしろいし、長年ながねんのファンは加賀かがにこんなひょうひょうとしたいちめんやぬくもりあるしんひだがあるのか、と新鮮しんせんおどろくだろう。

ぜんぶで9しょうから物語ものがたりだが、あきら短篇たんぺんとしてもたのしめる。連作れんさく短篇たんぺんでありながら長編ちょうへんでもある、というのは案外あんがいむずかしいものだが、この作品さくひんはそれに成功せいこうした稀有けう出来でき。ひとつひとつの風景ふうけいたのしみつつおおきなかわくだっているような、小説しょうせつ芳醇ほうじゅんがここにある。

青山あおやまブックセンター六本木ろっぽんぎてん あいだしつ道子みちこ

出版しゅっぱんしゃ講談社こうだんしゃ
書名しょめい:『新参しんざんしゃ
著者ちょしゃ東野とうの圭吾けいご
定価ていか:1680えん税込ぜいこみ)

すじほんからマニアックな専門せんもんしょまで、ほんのことをくしている書店しょてんいんさんがオススメのほん紹介しょうかいする読書どくしょ日記にっき書評しょひょうだけでなく、ときにはだれらない書店しょてん裏話うらばなしなどがけることも!?読書どくしょきなひと必見ひっけんのブログです。

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