英国の政権交代は瞬く間に進む。総選挙で第1党が入れ替わると、翌日には勝った党の党首がダウニング街10番地の首相官邸に引っ越し、組閣に着手する。
だが今回は違った。6日の総選挙では保守党が13年ぶりに最大勢力となったが、官邸にはブラウン首相がとどまり、保守党のキャメロン党首はまだ新住人になっていない。最多議席は獲得したものの過半数に届かなかったためだ。
単独過半数を握る党がない「宙づり議会」である。実に36年ぶりだ。
誰が首相になるのか、政権はどのような枠組みか、その政権下で英国はどう変わるのか--。日本も参考にしてきた英国の政治で始まる新しい章の行方を大いに注目したい。
異例の事態は、2大政党が民意を十分吸収しきれなくなった結果といえる。ただ、突然始まった変化ではない。1951年に合わせて97%の票を占めていた2大政党は、70年代以降、徐々に得票率を落とし、今回、65%まで減らした。
2大政党を支えていた英国特有の階級が次第に崩れ、一方で冷戦の終わりと経済のグローバル化により、政党間の主張の違いが薄れていったことが背景にある。
2大政党に対する不満の受け皿として支持を集め、今回の選挙でも注目されたのが自民党だった。結局、予想に反して、5議席減らしたものの(得票率では1%増加)、保守、労働の両党から連立の打診を受け、誰が首相になるのかを左右するキングメーカーになった。
明白な「勝者」不在の選挙結果だが、「敗者」はブラウン首相の労働党だろう。保守党が97議席伸ばしたのに対し、労働党は91議席も減らした。自民党と組んでも過半数に満たない。ブラウン首相は続投の意欲を見せているが、国民の理解は得にくいのではないか。
最大のポイントとなりそうなのが、保守党と自民党の連携だ。開票結果の判明後、保守党のキャメロン党首は「国益への最大の脅威」が財政赤字だと強調した。その赤字削減を迅速に実行するには自民党の協力が欠かせず、思い切った妥協の用意があると秋波を送っている。
選挙制度改革や欧州政策、防衛などで対立する2党が妥協点を見いだすのは容易ではなかろう。だが、混迷が続けば、ロンドン市場の株や通貨ポンド、英国債などが売られ、最悪の場合、ギリシャ発の信用不安が飛び火する恐れもある。
異例の事態の中で、どのような打開の知恵を出すのか。完全小選挙区制の変更など、選挙や政治のかたちが変わる可能性さえはらむだけに、指導者たちの決断は重い。