「お母さんの写真」を聴く【前編】saigenjiさん
saigenji(サイゲンジ)さん
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saigenji(サイゲンジ)
9 才の 時にケーナを 始め、ファルクローレと 呼ばれる 南米アンデス 地方の 民族音楽や 古今のブラジル 音楽などの 幅広いジャンルの 音楽を 経験。 独自のアプローチで 演奏するギタリスト・ 歌手。 小西康陽、モンドグロッソなど、コンピレーションアルバムの 参加オファーも 多い
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大人の
皆さん。
最近、
音楽を
聴いていますか? 「
以前はたくさん
聴いていたのに、この
頃さっぱり」という
人も
多いかも
知れない。
そんな大人のために、宮崎駿監督がCDをプロデュースした。タイトルは「日本の新しい歌 お母さんの写真」。作家陣に矢野顕子や久石譲、宮沢和史らを迎え、全16曲を上條恒彦が歌っている。
このアルバムを、様々なジャンルで大人と向かい合う人々に聴いてもらおうと思う。初回は、仕事帰りの大人たちを迎える場所でのライブが多いミュージシャン、saigenji(サイゲンジ)さん。(依田謙一)
――アルバムを聴いた感想は。
saigenji 「大人のための」とは知りませんでしたが、自然と大人の音楽だと感じました。特に久石譲さんが作曲した表題曲「お母さんの写真」が印象的でした。こういう落ち着いた曲って、ありそうでなかなかないですよね。
――久石さんの曲を、よくギターで弾いていたそうで。
saigenji 以前から尊敬していた作曲家ですが、アルバムを聴いてあらためて素晴らしいと思いました。「風の谷のナウシカ」(1984年)の冒頭で流れる曲の和音に、感激したのを思い出します。サウンドトラックを繰り返し聴いては演奏していましたね。久石さんの音楽は、ブラジル音楽でいうところの「サウダージ」に溢れていると思うんです。
――サウダージとは。
saigenji 日本では「郷愁」という訳され方をしますが、それは一面で、いろんな面があります。僕とっては、サン=テグジュペリの「星の王子さま」に出てくる「心で見なくちゃ、ものごとはよく見えないってことさ。かんじんなことは、目に見えないんだよ」というきつねの言葉。まさにサウダージだと思うんです。会いたいと思う気持ち、寂しいと思う気持ち、嬉しいと思う気持ち、これらすべてを内包するのがサウダージではないでしょうか。
――「お母さんの写真」のターゲットである「大人」を仮に「働く人」だとすると、一日の終わりに演奏されることが多いブラジル音楽は、まさに働く人の音楽ではありませんか。
saigenji 現地では
特にそうですね。
僕は
普段、
人々が
仕事を
終えてやってくる
場所で
演奏していますが、
日本では
気軽に
音楽を
聴く
場所がなかなかありません。ジャズは
知らないと
楽しめない
雰囲気もありますし。その
点、ブラジル
音楽は
間口が
広く、
初めて
聴く
人から
詳しい
人まで、それぞれに
楽しむことができます。これは「お
母さんの
写真」にも
通じますね。
――今の大人は、saigenjiさんの目にどんなふうに写っていますか。
saigenji 疲れている人も多いようですが、僕の周りには、素敵な人も多い。気配りができて、自分のことばかり考えない人々です。それに、彼らに共通するのは、自分を解放するのがうまいということ。日頃、音楽などを吸収=インプットすることはとても大切ですが、それ以上に、はき出す=アウトプットすることが大切です。例えば、音楽を聴いたら、そこで感じたことを人に見せるつもりで簡単にメモするだけでもいい。そうするだけで、ずいぶん自分の感情が豊かになってくるはずです。
――スタジオジブリ作品はご覧になっていますか。
saigenji 「天空の城ラピュタ」(86年)が大好きです。男の子なら好きになっちゃうに決まってるじゃないですか。「ラピュタ」以外でも、ジブリ作品からは、とても誠実に作っているんだという意思が伝わってきます。最近、音楽シーンを見ていると、もっとまじめに作品作りした方がいいんじゃないかと感じることも多いので、ジブリ作品にはとても共感できます。(次ページへ続く)
(2003年9月22日 読売新聞)