10月29日付 編集手帳
噺家の符丁で扇子を「カゼ」、手拭いを「マンダラ」、羽織を「ダルマ」…博奕のことはその昔、「モウトル」と呼んだらしい。もう取るぞ、次は勝つ、もう取る…と言っているうちに身ぐるみ剥がれることに由来する◆その人も、「もう取る」「もう取る」とつぶやきながら借財を膨らませたのだろうか。大王製紙の前会長(47)が会社の了解を得ることなく106億円もの金を子会社から借り入れていたのには、たまげた人も多かろう◆借入金のうち約90億円が海外のカジノ関連会社の口座に振り込まれた、とも報じられている◆毎日100万円ずつ使っても使い切るのに29年かかる金を、1年半の間に不正な形で借り入れる。貸す子会社も子会社で、グループとしてどういう経営をしていたのか不思議でならない。孫に“大王”並みのむちゃな権力を振るわせるために、祖父の創業者は社名を選んだわけでもあるまいに。会社は前会長を告訴・告発するというから、借入金の使い道を含めて事件の詳細はやがて明らかになるだろう◆博奕をい表す博徒の隠語は「盆」である。眼識の暗い者を「ぼんくら」という。
(2011年10月29日01時27分 読売新聞)