評・池谷裕二(脳研究者・東京大准教授) 奇しくもジョブズの発明品を通じて当人の死を知った私は、直後に始まったiPhone 4S予約の初日に並んだ。長い行列が実は予約のためでなく、予約整理券の列だったことに驚いた。あまりの人気に、4Sという添字をFor Steve(スティーブに捧ぐ)と読み解く者まで現れる。 (11月7日)[全文へ]
評・前田耕作(アジア文化史家・和光大名誉教授) 奈良・法隆寺の美しい五重塔の初層内陣に須弥山を中心として東西南北四つの主題が塑造されていることは、訪れた人なら誰でも知っているだろう。仏伝の時軸に沿えば、北面の涅槃像土、西面の分舎利仏土、南面の弥勒仏像土となろう。東面の維摩詰像土だけは他の主題とは切り離され、向かって左に維摩詰、右に文殊菩薩、下段に一群の眷属を配した場面が表出されている。端正な文殊と対照的に鬚髯(あご髭とほほ髭)を蓄え、口を開き歯をみせ談ずる俗形の維摩との神韻漂う対話の場面となっている。わが国における「対論講説の相」を表す維摩詰像の原型である。聖徳太子によって法華経・勝鬘経とともに社会救済の実践に不可欠な三経の一つとされたと伝えられる維摩経の最も重要な場面が、太子ゆかりの寺の塔本に造出されたことの意味は深い。 (11月7日)[全文へ]
評・朝吹真理子(作家) 現実では「何もかもうまい具合に死におおせた」はずのある人物が、この小説の中では、齢八十を超えた老人として生きさせられている。 (11月7日)[全文へ]
評・細谷雄一(国際政治学者・慶応大教授) 戦後日本外交の中核に位置する日米安保体制。その日米交渉を担ってきたのが、外務省主流派のいわゆる「アメリカンスクール」である。その中でも傑出した存在が、本書の主人公、東郷文彦であった。 (11月7日)[全文へ]
評・三浦佑之(古代文学研究者・立正大教授) 魚という漢字は、ウオともサカナとも読む。新評論の本の表題はウオと読み、弦書房の本の表題はサカナと読む。何が違うかといえば、ウオは川や湖沼や海を泳いでいる生きた魚をさし、サカナは調理されてお皿の上に載せられた魚をいう(サカナの語源は「酒+菜」)。現代語では混用することも多いが、2冊の書名の区別は、内容にほぼ対応する。 (11月7日)[全文へ]
評・ロバート キャンベル(日本文学研究者・東京大教授) ニューヨークの巷で物心ついた私は、大人の口やテレビのスピーカから流れる多種な訛りを真似して育った。ユダヤ人黒人アイルランド人。特殊な文法をかすめてみたり、いかにもというワンフレーズを丸ごと切り取って自分のしゃべりに嵌めてみたり、という具合に。本書を読みながら、むかし感じた人のクセを身に纏う「コスプレ」的気分にしばらく浸ることができた。 (11月7日)[全文へ]
評・野家啓一(科学哲学者・東北大教授) 辻哲夫は広重徹と共に、戦後日本の物理学史の分野を先導した草分けの一人である。これまで広重の陰に隠れた観のあった著者の多方面にわたる業績が、手頃な一冊に纏められたことを喜びたい。 (11月7日)[全文へ]
評・湯本香樹実(作家) 日本列島北から南まで、様々な郷土玩具が地域ごとに並ぶ一冊。シュールなもの、不気味なもの、突き抜けた滑稽さのあるものなど、たんに可愛いという言葉では括りきれない。 (11月7日)[全文へ]
評・椹木野衣(美術批評家・多摩美大教授) 本書は、一九六七年から八四年にわたり、媒体を変えて書き継がれた同名の連作に別巻を加え、全五冊に集大成したもの。著者が持てる想像力を奮って描いた本作は、随所で従来の「マンガ」を逸脱する実験が見られ、表現として例をみない領域に踏み込んでいる。 (11月7日)[全文へ]
評・前田耕作(アジア文化史家・和光大名誉教授) 「国民の歴史」の創始と讃えられる名著『フランス史』の中でミシュレは、終生教皇と激しく対立したことからモーセ、ムハンマド、イエスを「3人の詐欺師」とする「おぞましい本」を書いたとまことしやかな噂を流され、反キリストとみなされた神聖ローマ皇帝フリードリヒ二世にしばしば触れている。サラセン人を衛兵にし、エジプトのスルタンと親交を結び、ボローニャの法学者とアラブの博士たちに囲まれ、アラブ人を愛人とした「大胆な思想家」で、かつ「邪悪な信仰家」というミシュレの記述が、いよいよこの皇帝への関心を掻き立てる。 (10月31日)[全文へ]
評・河合香織(ノンフィクション作家) かつて戦争があった。そして経済成長が。1990年代までは私たちは皆、同じテレビ番組を見て、同じ流行歌を口ずさめた。だが、今や興味は細分化され、同じ経験を共有できない時代が来た。今なお多くの人が世代を超えて共感できるものはなかろうか。 (10月31日)[全文へ]
評・椹木野衣(美術批評家・多摩美大教授) 音楽家の加藤和彦、本書の著者でもある評論家の今野雄二、先頃他界した中村とうよう、と、ここ数年「洋楽」の全盛期を知る関係者の自死が続いている。動機はそれぞれだろうが、音楽をめぐる昨今の環境の激変と無縁とは思えない。 (10月31日)[全文へ]
評・小泉今日子(女優) 幼い頃に読んだ「さるかに合戦」は、意地悪なサルに身も心も傷付けられたカニの敵討ちのために、ハチとクリとウスと牛糞という仲間たちがサルをコテンパンにやっつけるというお話だった。意地悪なサルは当然憎らしかったけれど、なにもそこまでしなくても、という思いで読んだ記憶がある。幸福なことに私は敵討ちしたいほど辛い経験をしたことが未だにない。それでも心の中に少しずつ溜まっていった小さな鬱憤の塊をコテンパンにしたら、さぞかしスカッとするだろうな、と想像してみる時はある。 (10月31日)[全文へ]
評・堂目卓生(経済学者・大阪大教授) 主人公マイケル・ビアードは、かつてノーベル物理学賞を受賞した50代の科学者。高い知能と豊富な知識をもつ一方、どんな状況下でも異性と食べ物を求めずにはいられない貪欲な男である。そんな彼が、他人の発明したソーラー・システム(太陽光発電)のアイディアを横取りして、一大プロジェクト(=儲け話)を立ち上げるのだが……。 (10月31日)[全文へ]
評・横山広美(東京大准教授) 新しい世界観を示す。科学の役割にはそんな一面がある。私たちが暮らしているこの宇宙はどんなところなのだろう。それを知ることで世界観が変わり、世界や自分の存在に対する価値観が変わる。私はまさにそのような経験をした。1度目はそれまでずっとあると漠然と思っていた宇宙がある時点で生まれたことを知った10代はじめ。2度目は宇宙の膨張は減速していると思っていたが、実際はどんどんスピードを速めて膨張する加速膨張であることを知った20代はじめ。世界観が変わった。 (10月31日)[全文へ]
評・榧野信治(本社メディア戦略局総務) 最近、物忘れすることが多い。誰しも通る道ではあるが、少しは心配になる。そんな時に出合ったのが本著だ。脳と心と薬の関係について、様々なことを教えられた。 (10月31日)[全文へ]
評・池谷裕二(脳研究者・東京大准教授) 美について淡々と綴った本である。鮮烈なメッセージを表立てることなく、薄味の話題を紡ぐ。柔毛で肌を撫でるような筆致は静謐で、自己耽溺気味に、あざとく「美」を狙い撃ちする。 (10月31日)[全文へ]
評・今福龍太(文化人類学者・東京外語大教授) 大東諸島。沖縄本島のはるか東に横たわる南・北大東島と、無人の沖大東島で構成される絶海の孤島である。明治期の八丈島からの開拓移民に始まり、沖縄北部や久米島などの移民も加わって砂糖島としての歴史を細々と刻んできた。 (10月31日)[全文へ]
評・湯本香樹実(作家) ドイツ赤軍派のテロリストだった男が、殺人罪で二十三年服役の後、恩赦によって出所する。 (10月24日)[全文へ]
評・松山 巖(評論家・作家) 作家の「私」は、編集者から作家パク・プギルにインタビューをし、彼の人生を辿りながら、彼の作品を論じ、一冊にまとめて欲しいという依頼を受ける。 (10月24日)[全文へ]