英映画「ジ・アイアン・レディー」(原題)で、サッチャー元英首相に扮(ふん)した米女優メリル・ストリープの、声色まで似せた好演のせいもあってか、サッチャー政権の功罪をめぐる議論が英国内で起きている。批判もかなり、かまびすしい。
サッチャー氏は、高福祉などで肥大化した政府を「小さな政府」に転換して減税を進め、規制を緩和し、労組を切り崩し、おカネと活力を民間に呼び戻して、「英国病」をともかくも乗り越えた。その指導原理となったのは、経済は市場に任せるという、フリードマン、ハイエクらのレセフェール(自由放任主義)的な考え方である。
ネオ・リベラリズム(新自由主義)とも呼ばれるこの市場原理主義は、同様に共鳴したレーガン米大統領がサッチャー氏と世界を主導した1970年代末から80年代にかけて隆盛した。マクロ経済政策による有効需要創出や「大きな政府」につながる福祉国家実現を唱えて大恐慌末期、第二次大戦、戦後を通じて支配的だったケインズ経済学に取って代わり、30年この方、主流であり続けている。
新自由主義経済学の代名詞のようにいわれる一つが、「トリクル・ダウン」である。大まかにいえば、政府が税金として富を吸い上げて福祉などの形で再分配する代わりに、その富が民間の経済活動に投資されればさらに富が創出され、末端にまで「トリクル・ダウン」、つまり浸(し)み落ちてくるから、全体が豊かになるという理論だ。