「関西検察」の巨星がまた一つ墜ちた。仙台、広島両高検検事長を務めた弁護士、小嶌信勝(こじま・のぶかつ)さんが5月19日、くも膜下出血のため死去した。享年89。古巣の大阪地検特捜部による不祥事で苦境に立つ検察に何を思い、逝ったのだろうか。
「関西検察の双璧は別所流と小嶌流」。大阪で司法取材に携わるようになった10年前、多くの検察関係者からそう聞かされた。別所流とは、「特捜の鬼」と呼ばれた元大阪高検検事長の別所汪太郎(おうたろう)さん(平成10年没)を指し、もう一方の雄が司法修習の1期後輩にあたる小嶌さんだった。
苦学の末に検事になったためエリート意識とは無縁だった。自ら雑草検事と名乗り、「心を射止めなければ自白なんて取れない」と容疑者の目線まで下がって取り調べに臨んだ。別所さんとともに昭和32年発足の大阪特捜の草創期を支え、同部長を務めた経歴が重なる2人だが、捜査哲学や手法は対照的だったという。小嶌さんと会うたびに回顧談に耳を傾けたものだ。
「別所流は証拠が十分な事件でも、二重、三重にがんじがらめにする泥臭い捜査だ。おかげで部下の帰りはいつも終電。無駄な捜査が嫌いな僕は何度も反発したから嫌われていたよ」