「極秘」のスタンプが押された文書に、侵入センサーなどの防護措置が列挙され、自衛隊、警察、海上保安庁などの対応要領も記されている――。
原発テロ対策を検討した16年前の政府の資料を朝日新聞社が入手して報じたことがある。同じ内容の「現代版」があれば、特定秘密になるだろうか。
特定秘密保護法案で原発がどういう取り扱いになるか。国会審議の焦点の一つである。
森雅子担当相は特定秘密の例として「警察による原発の警備の実施状況」を挙げた。だが、警備の実施状況とはどこまでを指すのだろう。
森氏は「原発の設計図は対象とならない」と述べた。では、それ以外はどうなのか。安全性にかかわる様々な情報が指定される可能性が残る。
特定秘密の指定については、外部の有識者が「基準づくり」に関与するが、個々の指定まではチェックが利かない。
秘密扱いになる警備情報はあるだろう。だが法律ができてしまえば、国会や裁判所も含め、第三者が指定の是非を検証することは極めて難しくなる。
何が秘密かの判断を事実上、官僚の手に委ねるのが、法案の特徴だ。そこに恣意(しい)的な判断の入り込む余地はないか。
こんな例がある。
外務省は84年、原発攻撃を受けた場合の被害予測を極秘に研究していた。「緊急避難しなければ最大1万8千人が急性死亡する」という結論だったが、反原発運動への影響を恐れて部外秘扱いにしてしまった。
そこには、送電線や原発内の電気系統が破壊され、全電源喪失になる想定も含まれていた。福島第一原発の事故を見通すような内容だ。
仮にこの研究が公表されていれば、安全対策が進んでいたかもしれない。ところが秘密扱いになったことで、情報は政府内ですら共有されなかった。
結果として大きな問題が放置された。原発の「安全神話」を支えたのは、秘密をつくりたがる官僚体質と、それを許した政治の不作為ではなかったか。
国の原子力委員会の専門部会が、原発テロ対策の強化など「核セキュリティー」の確保について報告書をまとめたのは、福島の原発事故後の11年9月。同部会による報告書の作成は約30年ぶりだった。
これまでも肝心なことが覆い隠され、先送りされてきた。法案が通れば、なおさらだ。
ほんとうに「特定秘密」が日本を守るのか。根底から考え直すべきだ。