五輪ごりん効果こうか地方ちほうにも

観光かんこう庁ちょう長官ちょうかん 久保くぼ成人しげと氏し

　東京とうきょう五輪ごりんが決定けっていしたことは、観光かんこう立国りっこくの実現じつげんにとって重要じゅうような意義いぎがあると考かんがえている。政府せいふは、五輪ごりんを追おい風かぜに、日本にっぽんに来きていただく外国がいこく人じん旅行りょこう者しゃを２０００万まん人にんまで増ふやす計画けいかくをまとめている。観光かんこう庁ちょうとしても、受うけ入いれ環境かんきょうの整備せいびを進すすめていく。五輪ごりんの開催かいさい効果こうかを東京とうきょう以外いがいの地方ちほうにも波及はきゅうさせることも重要じゅうようだ。

　２０年ねんは、多おおくの注目ちゅうもくが日本にっぽんに集あつまる絶好ぜっこうの機会きかいになる。この機会きかいを逃のがすことのないよう、オールジャパン体制たいせいで、日本にっぽんの素晴すばらしい魅力みりょくを発信はっしんし、地方ちほうの観光かんこう振興しんこうにつなげていきたい。

「ガラパゴス化か」は強つよみ

早大そうだいスポーツ科学かがく学術がくじゅつ院いん教授きょうじゅ 原田はらだ宗彦むねひこ氏し

　世界せかいの観光かんこう産業さんぎょうは約やく６００兆ちょう円えんという市場いちば規模きぼを持もち、国内こくない総そう生産せいさん（ＧＤＰ）の９・３％を占しめるほど巨大きょだいだ。海外かいがい旅行りょこう者しゃは、２０１２年ねんの時点じてんで１０億おく人にんを超こえ、東京とうきょう五輪ごりんが開ひらかれる２０年ねんには１３・６億おく人にんを突破とっぱすると言いわれている。世界せかいでは観光かんこうは最先端さいせんたん産業さんぎょうだが、もの作づくりが産業さんぎょうの中心ちゅうしんだった日本にっぽんで、国くにの重点じゅうてん施策しさくになったのは０２年ねん。まだ周回しゅうかい遅おくれだ。

　五輪ごりんは世界せかい最大さいだいのスポーツイベントと言いわれる。スポーツ団体だんたいの会議かいぎや展示てんじ会かい、事前じぜん合宿がっしゅくが行おこなわれる。ただ、たくさんの一般いっぱんの観光かんこう客きゃくが、五輪ごりんのみを目当めあてに来くるわけではない。

　五輪ごりんを観光かんこう活性かっせい化かに生いかした成功せいこう例れいとして、スペインのバルセロナがある。

　バルセロナは、１９９２年ねんの五輪ごりんを機きに、海辺うみべを大々的だいだいてきに開発かいはつした。五輪ごりん後ごもテニスなどの国際こくさい試合しあいや様々さまざまな国際こくさい会議かいぎなどを招致しょうちするという「イベント型がた都市とし戦略せんりゃく」を打うち出だして観光かんこう客数きゃくすうを伸のばした。五輪ごりん前まえに年間ねんかん８２万まん人にんだった外国がいこく人じん観光かんこう客数きゃくすうが、１０年ねんには５１６万まん人にんに上のぼった。同様どうように海沿うみぞいのエリアが重要じゅうような役割やくわりを果はたす東京とうきょう五輪ごりんでも、にぎわいを創出そうしゅつする「東京とうきょうモデル」が必要ひつようになるのではないか。

　近年きんねん、スポーツと観光かんこうを融合ゆうごうさせた「着地ちゃくち型がた旅行りょこう商品しょうひん」が新あたらしい旅行りょこう需要じゅようを創出そうしゅつしている。英国えいこくでは、外国がいこく人じん旅行りょこう者しゃのうち、約やく２割わりがスポーツに参加さんかしていると言いわれる。日本にっぽんでも、地方ちほうのマラソンや青少年せいしょうねんの野球やきゅう大会たいかい、Ｊじぇいリーグなどのスポーツ資源しげんを生いかし、外国がいこく人じん旅行りょこう者しゃを地方ちほうに誘さそえ客きゃくする仕組しくみをオールジャパン体制たいせいで作つくっていく必要ひつようがあるのではないだろうか。

　日本にっぽんの特異とくいな文化ぶんかを自虐じぎゃく的てきに「ガラパゴス化か」ということがあるが、観光かんこうでは強つよみになる。

　フランスで、日本にっぽんのマンガや伝統でんとう文化ぶんかを紹介しょうかいする「ジャパン・エキスポ」というイベントが、毎年まいとし開ひらかれている。１３年ねんは数日すうじつ間あいだで１０代じゅうだいを中心ちゅうしんに２３万まん人にんが集あつまった。年としをとれば日本にっぽんを訪おとずれたいと考かんがえる可能かのう性せいは高たかい。「おもてなし」にしても、日本にっぽん旅館りょかんは世界中せかいじゅうに展開てんかいしていないから、日本にっぽんに来こないと受うけられない。

　ガラパゴス化かした観光かんこう資源しげんをどう世界せかい商品しょうひん化かしていくかが課題かだいだ。五輪ごりんを機会きかいに一人ひとりでも多おおくの外国がいこく人じんに訪日ほうにちしてもらい、ユニークな文明ぶんめいを楽たのしんでもらう仕組しくみ作づくりは可能かのうだと思おもう。

外国がいこく語ごの不安ふあん 気きにせず

日本にっぽん政策せいさく投資とうし銀行ぎんこう 奥おく直子なおこ氏し

　昨年さくねん、訪日ほうにち外国がいこく人じんが１０００万まん人にんの大台おおだいに乗のったが、全国ぜんこくの宿泊しゅくはく人数にんずうに占しめる外国がいこく人じんの割合わりあいは７％程度ていどだ。東京とうきょう、大阪おおさかでは２０％近ちかくで、大都市だいとしと地方ちほうで大おおきな差さがある。東京とうきょう―大阪おおさか間あいだの人気にんきが高たかいのも理由りゆうだが、受うけ入いれ側がわが壁かべを作つくっている面めんがある。

　総務そうむ省しょうが全国ぜんこくのホテル・旅館りょかん業者ぎょうしゃを対象たいしょうにしたアンケートで、「外国がいこく人じんの宿泊しゅくはくがなかった」、あるいは「宿泊しゅくはくしてほしくない」理由りゆうを挙あげてもらった。施設しせつが外国がいこく人じんに合あっていないことと、外国がいこく語ごが主おもな問題もんだいだった。一方いっぽうで、日本にっぽんを訪おとずれたい外国がいこく人じんにインターネットでアンケートをとると、「日本にっぽん旅館りょかんに泊とまりたい」という人ひとが５割わり以上いじょういた。

　金沢かなざわの飲食いんしょく店てんを対象たいしょうにしたアンケートでも、主おもに言葉ことばの不安ふあんを理由りゆうに、８割わりが外国がいこく人じんを積極せっきょく的てきに呼よび込こんでいない、と答こたえた。外国がいこく人じんの方ほうは、飲食いんしょく店てんでの店員てんいんとの意思いし疎通そつうについて「問題もんだいがない」「満足まんぞくしている」という人ひとが大だい多数たすうだった。

　こうしたギャップはアンケートで解消かいしょうすることができる。ほかに、外国がいこく人じん向むけの集客しゅうきゃく活動かつどうは、（観光かんこう地ち側がわが）小ちいさい単位たんいだと効率こうりつ的てきでなく、広域こういきだと総花そうか的てきになり効果こうかが薄うすいという課題かだいがある。

　五輪ごりん開催かいさいを遺産いさんとして活用かつようしている地域ちいきの一ひとつが、オーストラリアのゴールドコーストだ。良質りょうしつなビーチと気候きこうに恵めぐまれた地域ちいきで、豪州ごうしゅう国内こくないではスポーツ選手せんしゅの合宿がっしゅく地ちとして知しられていた。しかし、国際こくさい的てきに有名ゆうめいになったのは２０００年ねんのシドニー五輪ごりん以降いこうと言いわれている。

　こうした地域ちいきの特徴とくちょうは、五輪ごりんをターゲットにするより、中長期ちゅうちょうき的てきに地域ちいきの資源しげんをどう生いかしていくのかという戦略せんりゃくを立たて、五輪ごりんを一ひとつのきっかけとして使つかったところにある。

地方ちほう空港くうこう 出入国しゅつにゅうこくに活用かつよう

観光かんこう庁ちょう審議しんぎ官かん 篠原しのはら康弘やすひろ氏し

　昨年さくねん、訪日ほうにち外国がいこく人じんが１０００万まん人にんを超こえた。観光かんこう産業さんぎょうの市場いちば規模きぼは約やく２２・５兆ちょう円えん。多おおくを占しめる日本人にっぽんじんの宿泊しゅくはく旅行りょこうが右肩みぎかた下さがりの中なか、訪日ほうにち外国がいこく人じんから得えられる収入しゅうにゅうは１・３兆ちょう円えんに達たっし、徐々じょじょにビジネスになっている。人口じんこう減げん社会しゃかいの日本にっぽんは、外部がいぶから訪おとずれる人ひとの数かずを増ふやしていかなければ、持続じぞく的てきな発展はってんは期待きたいできない。

　現在げんざい、政府せいふは外国がいこく人じん旅行りょこう者しゃ２０００万まん人にんを目標もくひょうにしている。これは世界せかいでトップの観光かんこう国こくフランスに、飛行機ひこうきと船ふねで入国にゅうこくした旅行りょこう者しゃ数すうと同おなじ水準すいじゅんだ。つまり観光かんこう先進せんしん国こくを目指めざす上うえで、２０００万まん人にんという数字すうじは世界せかい最高さいこう水準すいじゅんに相当そうとうする。

　ただその目標もくひょう達成たっせいは簡単かんたんではない。世界せかいの観光かんこう客きゃくの将来しょうらい予測よそくにあてはめると、２０２０年ねんの訪日ほうにち外国がいこく人じんは１５００万まん人にんで、５００万まん人にん足たりない。みんなの力ちからで何なにとか５００万まん人にん増ふやさなくてはならない。

　その際さい、課題かだいになるのが空港くうこうだ。現在げんざい、外国がいこく人じんの９５％は空路くうろで来日らいにちし、その半分はんぶん以上いじょうは首都しゅと圏けんの空港くうこうを使つかっている。すでに大変たいへんな混雑こんざつで、首都しゅと圏けんの空港くうこうに頼たよっているだけでは、大幅おおはばな増加ぞうかは期待きたいできない。

　首都しゅと圏けんの空港くうこうだけが出入でいり口ぐちになるのではなく、地方ちほうの観光かんこう地ちを結むすぶ観光かんこうルートを作つくり、「こういう風ふうにまわると魅力みりょく的てきですよ」と示しめす。それにより、旅行りょこう者しゃが首都しゅと圏けんから地方ちほうに行いく、あるいは地方ちほうから入はいり、地方ちほうから帰国きこくすることも可能かのうになる。

　日本にっぽんという国くにに対たいし、良よいイメージを持もってもらうことも大切たいせつだ。例たとえば、「フランスという国くには？」と問とわれて、思おもい浮うかぶものがあると思おもう。日本にっぽんに関かんしても、思おもい浮うかぶものを意図いと的てきに発信はっしんしていく必要ひつようがあるのではないかと考かんがえている。

「オンリーワン」発信はっしんを

ジェイティービー常務じょうむ取締役とりしまりやく 久保田くぼた穣みのる氏し

　日本にっぽんの観光かんこうにおける競争きょうそう力りょくは高たかく評価ひょうかされており、ダボス会議かいぎで世界せかい１４位いという結果けっかが報告ほうこくされている。にもかかわらず、外国がいこく人じん旅行りょこう客数きゃくすうは３３位いと、大おおきなギャップがある。

　問題もんだいとして、東京とうきょうや大阪おおさか、京都きょうとなど定番ていばんの観光かんこう地ち以外いがいに外国がいこく人じんが向むかっていないことがあげられる。ほかの地域ちいきにも行おこなってもらわなければ、訪日ほうにち外国がいこく人じん２０００万まん人にんの達成たっせいは難むずかしい。

　しかし、各かく地域ちいきから発信はっしんされる「行いってみたい理由りゆう」がまだ不足ふそくしている。

　そういう視点してんで、珍めずらしい事例じれいがある。町まち工場こうじょうが集積しゅうせきしている大阪おおさか府ふ東大阪ひがしおおさか市しでは、「日本にっぽんのものづくり」という観点かんてんで発信はっしんし、年としに約やく７０００人にんが学まなびに訪おとずれている。こういうオンリーワンの発信はっしんが重要じゅうようだと思おもう。

　交通こうつう機関きかんについても考かんがえる必要ひつようがある。日本にっぽんの鉄道てつどうは、実じつは乗のりにくいという声こえがあるからだ。東京とうきょう駅えきでは、東海道新幹線とうかいどうしんかんせんは３分ふんに１本ほん程度ていど、さらに東北とうほく、上越じょうえつと色々いろいろな方面ほうめんに１０分ふんから１５分ふんに１本ほん発車はっしゃしている。海外かいがいの高速こうそく鉄道てつどうは３０分ふんから１時じ間あいだに１本ほん程度ていどなので、日本にっぽんに来きた外国がいこく人じんは、一体いったいどれに乗のればいいのか分わからないということになる。

　こうした難むずかしさを解消かいしょうし、例たとえば、東京とうきょうに滞在たいざいする外国がいこく人じん旅行りょこう者しゃが雪ゆき遊あそびのために新潟にいがたにすぐに行いける、という体験たいけんを増ふやしてあげる。そうすると、「思おもったほど難むずかしくなかった」といった感想かんそうを簡易かんい投稿とうこうサイトのツイッターなどで世界中せかいじゅうに発信はっしんしてくれるだろう。

　自由じゆうに日本にっぽん中ちゅうを旅行りょこうする外国がいこく人じんが増ふえていけば、東京とうきょうなど一部いちぶに集中しゅうちゅうしている状況じょうきょうから、全国ぜんこくに分散ぶんさんする動うごきがでてくるのではないかと思おもう。

「観光かんこう・食しょく・もの」セットで

岐阜ぎふ県けん観光かんこう交流こうりゅう推進すいしん局きょく顧問こもん 古田ふるた菜穂子なほこ氏し

　岐阜ぎふ県けんは観光かんこうの基幹きかん産業さんぎょう化かを目指めざそうと、２００９年ねんに観光かんこう交流こうりゅう推進すいしん局きょくを作つくった。私わたしは局長きょくちょうを約やく４年間ねんかん務つとめた。

　最初さいしょに目指めざしたのが、観光かんこう、食しょく、ものづくりで、選えらばれる岐阜ぎふ県けんになることだ。

　岐阜ぎふには世界せかい遺産いさんの白川郷しらかわごう、高山たかやま、下呂げろ温泉おんせんなどの有名ゆうめいな観光かんこう地ちがある。さらに新あたらしい観光かんこう資源しげんを作つくって、既存きそんの観光かんこう地ちと面めん的てきにつなげるために、これから有名ゆうめいになることができると思おもわれる「ふるさとのじまん」を毎年まいとし募集ぼしゅうし、「岐阜ぎふの宝たからもの」に認定にんていしていった。

　海外かいがいへの売うり方かたは「選択せんたくと集中しゅうちゅう」。アジアに絞しぼった。同時どうじに、観光かんこうと食しょくとものを一体いったい的てきなブランドとして売うり込こむ戦略せんりゃくをとった。知事ちじのトップセールスは単発たんぱつで終おわりがちだ。シンガポールには知事ちじ訪問ほうもん前後ぜんこうに何なん回かいも足あしを運はこび、岐阜ぎふのものが有名ゆうめいなインテリアショップで売うられたり、高級こうきゅうレストランで飛騨ひだ牛うしやお酒さけを飲食いんしょくできたりするようにした。

　１３年ねんの暫定ざんてい値ちで、海外かいがいの宿泊しゅくはく者しゃ数すうを４０万まん人にんにするという目標もくひょうを突破とっぱした。地域ちいきの皆みなさんに、観光かんこうで食たべていけるかもしれないという意識いしきを持もってもらえたことが成果せいかだったと思おもっている。次つぎに大事だいじなのは、もう一度いちど来きたいと思おもってもらえるかどうかだ。

　他た地域ちいきとは競争きょうそうではなく、連携れんけいすることが課題かだいだ。例たとえば、岐阜ぎふと東北とうほくをつないだプランなど旅たびのスタイルを再さい編集へんしゅうすることが考かんがえられる。観光かんこうを本格ほんかく的てきに産業さんぎょう化かするために、東京とうきょう五輪ごりんをいい波なみとして生いかしていきたい。

＜コーディネーター＞

ロンドン五輪ごりんで実感じっかん

フリーアナウンサー 山岸やまぎし舞まい彩あや氏し

　ロンドン五輪ごりんを現地げんちで１か月げつほど取材しゅざいした。メイン会場かいじょうのロンドンはもちろん、地方ちほうでも試合しあいが行おこなわれることで、お客きゃくさんが足あしを運はこび、盛もり上あがりを見みせていたと感かんじた。

　東京とうきょう五輪ごりんは、日本にっぽんに興味きょうみがないか、潜在せんざい的てきな興味きょうみを抱だいている外国がいこく人じんに日本にっぽんを訪おとずれてもらう絶好ぜっこうのチャンスだと思おもう。東京とうきょうへの注目ちゅうもく度どの高たかまりをどう地方ちほうに広ひろげ、生いかしていくかが問とわれる。

　現在げんざいは、ソーシャル・ネットワーキング・サービスなど色々いろいろな手段しゅだんがある。日本人にっぽんじん一いち人にん一人ひとりが取とり組くむことで、年間ねんかんの外国がいこく人じん観光かんこう客きゃく２０００万まん人にんという目標もくひょうを達成たっせいできるのではないか。