週刊文春しゅうかんぶんしゅん掲載けいさい記事きじ

アメリカ文学ぶんがくの現在げんざいを読よみ解とく

『ターミナルから荒あれ地ちへ　「アメリカ」なき時代じだいのアメリカ文学ぶんがく』（藤井ふじい光ひかり著ちょ）

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2016.05.29 07:00

様々さまざまな仕掛しかけが施ほどこされた初はつエッセイ集しゅう。米べい文学ぶんがくの現在げんざいや翻訳ほんやくにまつわる文章ぶんしょうの他ほか、「国境こっきょうなき物語ものがたり団だん　日米にちべい編へん」と題だいされた章あきらでは松田まつだ青あお子ことプラセンシア、藤野ふじの可か織おとセス・フリードといった具合ぐあいに、日米にちべいの人気にんき作家さっかの代表だいひょう作さくを比較ひかくし論ろんじる。異ことなる国くにで暮くらす作家さっか同士どうしが、同おなじような問題もんだい意識いしきを抱かかえている点てんが興味深きょうみぶかい。　中央公論ちゅうおうこうろん新しん社しゃ　1850円えん＋税ぜい

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「王道おうどうから外はずれている人ひとにシンパシーを感かんじるんです」

　藤井ふじい光ひかりさんは、同志社大学どうししゃだいがく文学部ぶんがくぶで英えい米べい文学ぶんがくの准じゅん教授きょうじゅを務つとめながら、積極せっきょく的てきに英語えいご圏けんの若手わかて作家さっかを紹介しょうかいしている注目ちゅうもくの翻訳ほんやく者しゃ。サルバドール・プラセンシア『紙かみの民みん』、テア・オブレヒト『タイガーズ・ワイフ』など、ポップで幻想げんそう的てきな作品さくひんを多おおく邦訳ほうやくし、現代げんだい英えい米べい文学ぶんがくの裾野すそのを広ひろげ続つづけている。

「研究けんきゅう者しゃとしても王道おうどうを外はずれている実感じっかんがあります（笑）。専攻せんこうするなら古典こてん文学ぶんがくという空気くうきがある学会がっかい内ないで、僕ぼくの専せん門もんは現代げんだいの作家さっか。もちろん古典こてんの研究けんきゅうも重要じゅうようなのですが、今こん現在げんざいも本気ほんきで小説しょうせつを書かいている人達ひとたちがいる以上いじょう、僕ぼくのようにそれを研究けんきゅうする人間にんげんがいてもいいと思おもうんです」

　3月には、初はつのエッセイ集しゅうとなる『ターミナルから荒あれ地ちへ』を出版しゅっぱんした。マジメなアメリカ文学ぶんがく評論ひょうろん集しゅうかと思おもいきや、そこは藤井ふじいさん。自身じしんをモデルにした“自称じしょうカリスマ翻訳ほんやく教師きょうし”というキャラクターを登場とうじょうさせたり、小説しょうせつの登場とうじょう人物じんぶつを履歴りれき書しょ形式けいしきで紹介しょうかいしてみたりと、自身じしんが訳やくしてきた作品さくひんと似にたような、遊あそび心ごころ満載まんさいの1冊さつとなった。

ふじいひかる／1980年ねん大阪おおさか府ふ生うまれ。同志社大学どうししゃだいがく文学部ぶんがくぶ英文えいぶん学科がっか准じゅん教授きょうじゅ。訳書やくしょにデニス・ジョンソン『煙けむりの樹き』、ウェルズ・タワー『奪うばい尽つくされ、焼やき尽つくされ』、サルバドール・プラセンシア『紙かみの民みん』、セス・フリード『大おおいなる不満ふまん』など多数たすう。

「ずっと文字もじばかりが続つづくよりは、読よみ易やすいかと思おもいまして（笑）。常々つねづね、小説しょうせつとのつき合あい方かた、読よみ方かたはひとつじゃないと思おもっています。たとえば僕ぼくが大学だいがくで受うけ持もっている授業じゅぎょうでは、読よんだ小説しょうせつについて、単たんに感想かんそうを書かく以外いがいの方法ほうほうで表現ひょうげん、紹介しょうかいしてもらうということをやっている。すると、映像えいぞう作品さくひんを作つくってくる学生がくせいもいれば、小説しょうせつの続つづきを書かいてくる学生がくせいもいて面白おもしろい。格式張かくしきばらずに小説しょうせつと接せっしてくれればと思おもいますね」

　とはいえ、きちんとアメリカ文学ぶんがくの“現在げんざい”を捉とらえているところが、本ほん作さくが良書りょうしょたる所以ゆえん（ゆえん）。タイトルにも掲かかげられた「ターミナル」「荒あれ地ち」というキーワードで、現代げんだい米まい文学ぶんがくを読よみ解とく手てさばきはお見事みごとだ。

「一昔ひとむかし前まえなら、ハイウェイを舞台ぶたいにしたロードノベルこそがいかにもアメリカ的てきな小説しょうせつでした。しかし、現在げんざいのグローバル化かしたアメリカでは『ターミナル』という言葉ことばの方ほうが象徴しょうちょう的てきです。その方向ほうこうから書かき進すすめるうちに、国くにを越こえての移動いどうが活発かっぱつになる中なかで、世界中せかいじゅうに『荒あれ地ち』と言いうほかない荒廃こうはいした場所ばしょが増ふえてきているのでは、と考察こうさつしました。今いまの作家さっか達たちは、アメリカという国くにを直接的ちょくせつてきに描えがくことはほとんどなくて、より大おおきな世界せかい的てきな目線めせんで物事ものごとを見みています。だから、日本にっぽんに住すんでいる我々われわれにとっても身近みぢかに感かんじられる小説しょうせつばかりなんですね」