吉田茂人=構成
熊谷武二=撮影
居酒屋で報告を聞いて作戦会議
私の酒はビールをコップに1杯飲む程度。それでも社員70数人の山口支店の支店長の頃は、事務所に戻ってきた部下とのミーティング場所は、市内の湯田温泉中心部にある居酒屋だった。
大和ハウス工業 樋口武男会長・CEO
店に入るのは午後10時過ぎ。4人掛けのテーブルを2つくっつけて、真ん中に私が陣取る。残りの席に部下6、7人が座る。最初に料理と飲み物を注文してから、それぞれの報告を聞き、明日はどういう具合に商談を進めるか20~30分、作戦を練った。ひと通り話が済めば、「よし、食べよう」となったが、熱が入ってくるとつい声が大きくなり、「わかっとるのか」と私がテーブルを拳でドンとたたいたりした。すると、女将がさっと料理を持ってきてムードを変えてくれたりしたものだ。職場の連帯感や、やる気ムードを盛り上げるためには宴会が必要なときもあるが、私は部下と真剣に一対一で話をするときには酒は飲まなかった。
赴任当初は一刻も早く業績を挙げたいと焦るあまり、目標未達の管理職の胸倉をつかまえては怒鳴り飛ばすようなことをやっていた。しかし、焦れば焦るほど部下の心は離れていった。
上から目線で話さず相手の立場で聞く
そんなとき、視察に来られた創業者の石橋信夫オーナー(故人)が話してくれた「長たる者決断が大事」という言葉を、信念を持って進めと私は理解した。その日から社員の一人ひとりと朝に晩に、酒を飲まずにマンツーマンで徹底的な対話を始めた。販売拡大の根幹は「サービス力」であり、顧客サービスの最大のポイントは「スピード対応」であること。今日、今月、今期はどこまで仕事を進めるのか、目標を持とうではないか。俺はこういう思いでやっている、おまえもホンネを言え、もう怒らないと言って、相手を理解しようという気持ちでじっくり話し合った。その結果、私が往復ビンタをしたのも、課長の胸倉をとったのも、一生懸命のあまりそうしたのだということを、皆がわかってくれた。
社員が充分納得し、頑張り出してくれたおかげで、山口支店は翌年、社員一人当たりの売上高、利益高で日本一の支店になった。人間が持つ能力の差はたいしたことがない。モチベーションの差が違いを左右するのだ。その気になって働けば、おのずと本来備えている能力が発揮される。
私が大和団地の社長のとき、本社ビルは禁煙だったが、各フロアの階段の踊り場に喫煙コーナーを設けた。ほとんど酒を飲まない私だが、ヘビースモーカーなので、あちこちの踊り場へタバコを吸いに行った。社員はクモの子を散らすように去っていく。「待たんかい」と言って連れ戻し、よもやま話をした。1年も踊り場談義を続けると、警戒していた社員も胸襟を開き、遠慮のない声が聞こえるようにもなり、忌憚のない意見や情報が入るようになった。自分が上から目線で話をせずに、相手の立場で話を聞くことが大切だ。
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